無意識に自覚する
-青峰side-
「くぁ〜〜っ…だりぃ…」
朝、母ちゃんに叩き起こされるので、俺は一応遅刻しないで学校には行けている。
あ…?朝練なんて知るか。
俺は朝が弱ぇんだよ。…あ、昼もかw
変わり映えのしない登校風景。
今日は、さつきのヤツは朝練で先に行ってる。
さつきは俺にも声をかけて行ったが…無視して寝てたから、諦めたみたいだ。
俺は、つい先日の事を思い出す。
「名前…」
黄瀬のヤツ、邪魔しやがって…折角良い雰囲気だったのによ。
邪魔…だと?
俺は名前に何をするつもりだった?
そこまで考えて、俺の思考は止まった。
「ちっ…!」
何か妙に落ち着かねえ。何なんだ?…これは?
『大輝君!おはよう!!』
突然かけられた名前の声に、俺の心臓は跳ねた。
何てーの? これって、「噂すれば影」ってヤツか?…一人で考えてて噂はしてねーけど。心臓に悪りぃわ。
俺は、努めていつもの様に返す。
「おーはよっす」
『先日はありがとね』
「何が?」
ありがとうって…俺は、お前を引っ張り回しただけだぜ。
『えー?縫いぐるみくれたでしょ?』
「ああ…俺がゲームしたかっただけで、単なる戦利品だろアレ。別に俺は縫いぐるみなんて要らねーし」
『それでも…楽しかったし嬉しかった。私…ああ言うの初めてだし』
名前が楽しいっつーんなら、まぁ良っか。
こいつのキラキラした目も悪くねーし。
俺も…邪魔は入ったけど、それなりに楽しかったぜ。
俺は名前を見やり、人知れず口元を緩めた。
俺は何気なくポケットに手を突っ込む。
「…お?」
ポロリと携帯が転がり落ちた。
名前は俺の携帯を拾い上げ、俺に差し出した。
『落ちたよ』
「おう、サンキュ」
俺は名前から携帯を受け取る。
その時にお互いの手が触れた。
「……!!」
柔らかい華奢な指が触れて、一瞬、ドキリとする。
名前はキョトンとして俺を見る。
「…ンだよ?」
俺は決まり悪さを誤魔化す様に顔を顰めた。
『あ…ううん』
何だよ、こいつもハッキリしねーな。
でも…俺も何なんだ?
こいつが、ちょっと触ったくれーでオタオタして…キモイってーの。
今まで散々こいつには触ってたろーがよ。…訳分かんねー。
※※※
-名前side-
青峰君と登校途中で会えて、私は緊張とテンションが否応なしにマックスにまで上がるのを自覚した。
先日の下校デートの顛末を思い出して、頬が熱くなる。
(青峰っちのカノジョさん)
黄瀬さんがあんな事言うから、意識してしまう。
でも、折角一緒に登校しているのだから、何か話したいと思っても、
何を話せば良いのか分からない。
『…………』
「…………」
考えてみれば、私は青峰君との接点があまりない。
犬の話?…それとも勉強?…バスケ?
どれも、今一つ噛み合わない様な気がする。
結局、お互いにあまり話せないでいる内に、学校に着いてしまった。
「青峰君!!」
後ろからさつきちゃんの声がする。
「また朝練サボって!!」
それに青峰君は面倒そうに返す。
「るっせーな、さつき。俺は朝は弱えーんだよ」
「そんな事言って!昼間だって寝ているくせに」
「朝無理に起されたから、昼寝てんだろ。育ち盛りに睡眠不足は大敵だからなw」
「頭の中は育って無いくせに」
「…さつき、てめぇ…」
傍から見たら口喧嘩だけど、からっとした遠慮の無いやり取りに、
「幼馴染」としての仲の良さを窺わせる。
……良いなぁ。ああ言うの。
私はこっそり溜息を吐き、教室に入った。
「あ、名前さん。おはようございます」
教室に入ったら、桜井君に声をかけられた。
『お早う、良君』
「……?」
桜井君は、私を見て首を傾げる。
「名前さん、何だか元気がありませんね。…何かありましたか?」
『いいえ。…特に何も』
「そうですか?なら、良いんですけど。あ、そうだ!これ」
桜井君は、可愛らしくラッピングした小さな包みを、私の手の平に乗せた。
『…これは…クッキー?』
「はい、僕の手作りですけど。良かったら…」
『わぁ、可愛い!!ありがとう!!』
いつも思うけど、桜井君って女子力高いよね。
『これ…何種類か入ってるね?』
「はい、これはプレーンでこれがメイプルと胡桃、これがココアでこれが抹茶、これがカボチャ味です」
『うわぁ…!カボチャ味とかどう作るの?』
「カボチャをレンジで加熱して潰します」
『粉との割合は…?』
「水分量を調節する必要がありますから、卵の量を減らして…」
つい楽しくて話が過熱する。
それに不機嫌そうに割って入る声。
「おい、良。俺の分は?」
「あっ!青峰さんの分までは…スミマセン!!」
「ちっ!」
青峰君は舌打ちすると、「なら良いわ。俺は名前のを貰うから」と言い出した。
『…は!?』
キョトンとした私から、青峰君はクッキーの袋を奪うと、ポリポリと食べ始めた。
「おー、うめぇ」
『ちょっと大輝君っ!それ返して!』
私が返して貰おうと腕を伸ばすと、青峰君は高々とその袋を上げた。
長身の彼がそれをやると、とてもじゃないけど、私には手が届かない。
「おら、返すぜ」
『もうっ!!空っぽじゃん!!酷いよー!!』
どこまで俺様!?
桜井君はオロオロしてる。
「あ、あの…名前さん、また作りますから…スミマセン!」
ぎろりと青峰君に睨まれ、桜井君は身を竦ませた。
『大輝君、良君に絡むの止めて!それ、私が良君から貰ったのに!!』
青峰君は不機嫌な声を私にぶつけた。
「あ〜?元はと言えば、てめーのせいだろ」
『…は?』…私、何かした?
先週末のあの甘い雰囲気は何だったんだろう?
今の彼は、それを微塵も感じさせない。
困惑した私はそっと溜息を吐いた。
※※※
昼休みの時間。
昼食を終えた私は、一人屋上の階段室の上に上った。
ここは、いつも青峰君がいる場所だ。
でも、今は私一人だけ。
私は、風に吹かれながら図書館で借りたバスケの本を読んでいた。
初心者用なので、基本的なルールとかポジショニングとかが書いてある。
どんなに理屈が分かっても、運動音痴の私には使えないけど。
でも、試合観る一助にはなるだろう。
『ふぁ…っ』
私は大きく欠伸をした。
少し疲れたかな。
私は本を横に置くと、ごろりと横になる。
そのまま遮るものが無くて、青い空が私の眼前に広がる。
…こんな景色を青峰君はいつも見ていたんだな。
そう思うと、この青色が愛おしく感じてくる。
『…まるで吸い込まれそうな青色……』
そう、まるで青峰君みたい。
青い光と暖かい陽を感じながら、私は目を閉じた。
そして、意識がいつの間にか途切れていた。
※※※
-青峰side-
「あー…だりぃ」
俺はフラフラと屋上に上がった。
さっきまでさつきに捕まって、朝練サボった説教を食らってた。
全く…お節介が。
んな事言っても、まだバスケ部で俺に勝てるヤツいねーじゃんか。
俺は、いつもの屋上の定位置である、階段室の上に上り…ぎょっとする。
「名前…!??」
そこには、もう一人のお節介女が倒れていた。
「おい、大丈夫か?」
俺は名前に駆け寄り、顔を覗き込んだ。
「…ん?」
良く見ると、名前はゆっくりと呼吸して、胸が緩やかに上下している。
俺は安堵の息を吐いた。
「……何だ、寝てるだけじゃねーか。脅かすな」
俺は、こいつの枕元に置いてある本に気が付いた。
「…何だこりゃ。…バスケの初心者講座?…バスケットバイブル…?」
全部バスケの初心者用の本だな。…こいつ運痴のくせに、バスケやるつもりなのか??
それとも、これは…誰かの為?
誰の為なんだ…?もしかして…良か?…緑間か?…それとも…?
そこまで考えると、俺の心はチリチリと焼け付くように痛む。
俺は、寝ている名前に向かって、つい独り言を言ってしまう。
「……何考えてんだ?おめぇ…?」
俺の問いかける声に応える事もなく、名前は夢の世界にいる。
…そこには、俺もいるんだろーか?
俺がこいつの夢に入ったら…まぁ、こいつが安眠できる状態じゃなくなるだろーな。
そんなしょーもない事をぼんやり考えながら、俺は名前の寝顔を見つめていた。