青い夢の続き




俺は、名前の傍に座って、こいつの髪を撫でる。
そして、同じように横に寝転がって、頬杖ついて名前の顔を覗き込む。

全く起きる気配がねーな。
しかし…男子寮の時も思ったけど…

「ちっ…可愛い顔して寝やがって」
起きてる時は煩せーのによ。

「寝る時くらいは、眼鏡くらい外せよ」
俺は、名前の眼鏡を外し、傍らに置いた。
その時、名前は微かに身動ぎした。

『…んっ……』
何て言ってる?

俺は、両手で名前の頭を左右に挟む様に置き、覆い被さる様に上から覗き込んだ。
そして、よく聞こうと耳を口元に寄せる。
『………』
「…聞こえねえ」

俺は、至近距離で名前の顔を見つめ、頬を撫でた。
そう言えば…あの時、黄瀬に邪魔されたんだよな…

今なら誰もいない。
「…………」

俺は吸い寄せられる様に、自然に名前に口付けた。

心臓が激しく鳴り、眩暈がする程甘い。
…思った以上に…柔らけぇ…
「んっ…はぁっ」

俺は名前の甘さに酔い痴れ、貪る様に唇を塞いだ。
堪んねー…もっと…こいつが欲しい。

ふと、唇を離した時、名前の譫言が聞こえた。
『…っ…だい…き?…』

目が覚めたか…?
俺は一瞬、動きを止めた。
我に返った時に、羞恥が全身を駆け巡る。
「……チッ!」
何で俺ばかりドキドキしなきゃなんねーんだよ?…心臓が煩せぇ。

起きたかと思ったら、寝言だったらしい。
こいつ…こんな事されても、まだ寝てんのか?
「…名前…そんなに無防備だと襲っちまうぞ?」

俺の言葉なんか聞こえてねーだろーけどな。と、言いながら俺は自分の言葉の可笑しさに気が付いた。
もう襲ってるわ…俺。

いつまでもここにいたら、俺の心臓がやべえ。
そろそろ…出るか、と思いながらも中々離れる事が出来なかった。
こんな所に…こいつを一人寝かしたまんまで行けるかってーの。

「風邪…ひくんじゃねーぞ?」
俺は身体を起こして、上着を名前にかけた。

その時、俺の携帯が鳴った。
俺は弾かれた様に携帯を開いて電話に出た。
《青峰君っ!!》
相手は開いた時に表示されたので分かっていた。…さつきだ。

俺は、横目で名前を見た。
寝返りを打ったのでぎょっとしたが、起きる気配はない。
…幸いに、一瞬で呼び出し音を切ったので、目が覚める事はなかった様だ。
俺は、名前から離れ、梯子を下りる。

「…あー…さつきか」
《今、どこにいるの!?…昼はミーティングがあるって伝えたじゃない!…屋上?》
「んだよ、煩っせーよ。…俺がどこにいたって、どーせ練習には出ねーから関係ねーだろ?」
《今からそっちに行くからっ!!》
「あ、おいっ!?」

……ツーツーツー…
一方的に切りやがった。

このままここにいると、さつきのせいで面倒な事になりそうだ。
俺は急いでドアを開けて階段を降りた。

※※※

-名前side-

『ん…?』

私は、ふと目を覚ました。
どうやら、いつの間にか寝てしまったらしい。

何だか…幸せな夢を見た。…目を覚ますのが勿体無い位の。

青峰君…が出て来て…そして……

思い返して、恥ずかしさに顔が熱くなった。
あの…黄瀬君に邪魔された時の…続きの…夢。
あれは……私の願望が見せた夢だったの?

私は、まるで夢の続きを見てるみたいな錯覚に陥った。
そのままふわりと、青峰君に抱き締められている…ような。

私は辺りを見回したけど、周りは青い午後の空と無機質な灰色のコンクリートしか見えなかった。
当然、青峰君は影も形もない。
私は肩を落とした。
『…そんなに都合良い夢の続き…なんてない、よね』

そして、私は身体に掛けられている上着を手に取った。
ん…?この上着って?

桐皇学園の男子のブレザーだ。
私は傍らにあった眼鏡をかけ、裏地の刺繍を確認して驚いた。
『…青峰大輝…!』

青峰君…!??ここに来てたの!?

私は上着を抱き締め、顔を埋めた。
青峰君の匂いが私を包み込む。

『………大輝…』
ここにいない彼に呼びかける自分の声が、やけに甘く聞こえた。
まだ、唇に温もりが残っている様な気がするのは、気のせいだろうか?

『……あれは…夢…だよね…?』
私の問いかけに応える者は勿論無くて、風の音に紛れて消えて行った。

※※※

私は、チャイムの音に我に返った。
『ああっ!!?これって…五時間目終わり!!??』
私は慌てて荷物を抱えて教室に走った。

はぁはぁはぁ…
ガラリと扉を開けて、息を切らして教室に飛び込む。

桜井君が私を見付けて声をかける。
「名前さん、どうしたんですか?5時間目の授業…具合でも悪かったんですか?」
『ああ…いやっ…その…』
私はしどろもどろになった。
サボって寝てしまった、なんてまるで青峰君みたいな事、どう言い訳すればいいの?

その時、青峰君が教室に入って来た。
相変わらず怠そうに歩いて来て、どかりと私の隣の席に座る。
勿論、青峰君は上着を着ていなかった。

「おい良」
「はいいっ!?」
「さつきが呼んでたぞ」
「…?は?」
「さっさと行って来い」
「あっ、はいっっ!!スミマセン!!!」

桜井君は慌てて教室を出て行った。私は息を吐いた。

『あの…大輝君?』
「何だ」
『上着…ありがとう。起こしてくれても良かったのに』
「俺は何もしてねーよ」
あれ…?何で…???

『…でも、この上着って大輝君のだよね?掛けてくれたんでしょ?』
「外に置いといたら、風でどっかに飛んでっただけだ。…お前が寝てたなんて知るか」

青峰君はそっぽを向いた。黒い顔が赤くなっている様に見えるのは気のせいかな?

私は上着を青峰君に返し、席に着いた。
『…くしゅっ!!』

私のくしゃみを見て、青峰君が顔を顰めた。
「屋上でなんか寝るからだ」
『大輝君もよく寝てるじゃない!』
「俺は作りが違う。風邪なんかひかねーよ。それに、女一人で屋上で寝るとか不用心だろ。これからは止めとけ」
…ん…?
『屋上でって…何で知ってるの?…やっぱり!?』
「…ちっ!」

舌打ちして、気まり悪げに逸らされる顔。
『…あの…私、何か寝言とか言ってた!?』
「ああ…何か…俺の名前を言ってた様に聞こえたが。…何の夢見てたんだ?おめー」
青峰君は、私を不審そうに見やった。

うっ!?『寝言…言ってた??大輝君の…ってもしかして……?』

青峰君は、私に顔を近付けた。
「もしかして…何だ?俺絡みだろ?何を見た??」
私は慌てて口を手で押さえるが、もう遅い。

本人を目の前にして言える訳ないじゃん!!
……青峰君にキス…された夢、なんて。

思い出すだけでも、じわじわと顔に熱が上って来る。
私は恥ずかしくなって、逃げる様に席を立った。
『…さよならっっ!!』
「おい、まてコラ!!!名前っっ!!?」

教室の後ろの扉を開けて、廊下に飛び出す直前で青峰君に捕まった。
『きゃっ!』
「逃げるな名前!!」

後ろから羽交い絞めにされる。
大きな身体に押さえられて、私はジタバタと暴れるがビクともしない。

その時、目の前の扉がガラリと開いた。
「あっ!?」
ドアの前に立っていたのは桜井君。
「あっ…ええっ!?名前さん、どうしたんですか??」
「どーもこーもねーよ!良、邪魔すんじゃねーぞ!」
『良君、助けて!!』
「人聞きの悪りー事抜かしてんじゃねー!!まるで俺が襲ってるみてーじゃねーか!?」
襲ってんでしょー!?

その後ろから、更にさつきちゃんまで加わった。

「あっ!?青峰君、桜井君呼んでないのに何で嘘言ったの!?って…名前ちゃん!?」
『さつきちゃん!助けて!!』
「チッ!!さつき、お前が来るとややこしいんだよ!!帰れ!」
「何言ってるの!?名前ちゃんを離しなさいよ!?」
「俺はこいつに聞く事があんだよ!!」
「名前さん、スミマセン、助けられなくてスミマセン!!」
「良、お前ウゼーよ!!」
「ウザくてスミマセン!!!羽虫でスミマセン!!!」
「ウゼェェェェェーーーー!!!!!」

誤魔化すに誤魔化せない状況に陥って、この騒動は次の授業開始ベルが聞こえるまで続いた。


「ったく…寝てる時には出来んのに、起きてる時はぜってー無理だ…!くそっ!!」
『………?』

青峰君が私の顔を見て、苛だたし気に呟いた声は、私には届かなかった。




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