イメチェン計画発動!
「ねぇ、名前ちゃん、コンタクト作りなよ!」
次の休日に、桃井さんと青峰君と、一緒に行った眼鏡屋でのこと。
視力は前計ったデータで、すぐに眼鏡を作ってくれる事になったのだが…
『コ、コンタクト??』
桃井さんは、ニコニコしながら私に勧める。
「名前ちゃん、可愛いんだから勿体無いよ。絶対にいいって!ね、大ちゃんもそう思うでしょ?」
それに青峰君は面倒そうに返事をする。
「あ〜…別に。何でもいいんじゃね?」
桃井さんは、いい加減な返事にむくれる。
「もう!何よ、名前ちゃんが可愛くなって、モテモテになるのが気に入らないんでしょ〜?」
青峰君は、ぎょっとした様に反論する。
「は!?馬鹿か!何でそーなるんだよ!?」
「あっ、赤くなった。図星だーw」
「ちげーよ、そんなんじゃねえって!!」
コンタクトかぁ…
今まで目に入れるのが怖くて、やろうとは思わなかったけど…ちょっとやってみようかな?
私は今までにない好奇心が出て来て、桃井さんの進めるままに、眼科にも行き、コンタクトも発注した。
※※※
「ふぁー…これで今日の買い物は終わりだな」
青峰君の言葉に、桃井さんは待ったをかけた。
「何言ってるの!まだ、女の子の買い物があるじゃない!」
それに心底嫌そうに青峰君が返す。
「…は?それ、俺に付き合えってのか?…女の買い物って、無駄になげーだけじゃん。付き合うのたりーわ」
「イヤならいいわよーだ!私達だけで行こ!ね、名前ちゃん!」
『…え?あの…っ』
有無を言わさぬ勢いで、私は桃井さんに引っ張って行かれた。
「もう!大ちゃんって、いっつもああなんだから!!」
『さつきちゃん…大輝君ほっぽって来ちゃって…大丈夫なの?』
「あー、あいつなら、公園で昼寝してるか、ゲーセンにでも行ってるから、心配しなくて大丈夫よ」
すぐに帰る訳じゃなくて、一応残ってくれてるのかな…?
桃井さんは、私の腕を引きながら繁華街を歩く。
「あっ、あそこの服、可愛くない?」
『さつきちゃんには似合いそうだけど、私には派手かな?』
「そんな事ないよー!名前ちゃんも着てみようよ!」
私達がウィンドウを眺めながら、キャッキャッと燥いでいた時、後ろから声が聞こえた。
「ねー、君たち、可愛いね。俺達と遊ばねえ?」
振り向いたら、軽そうなお兄さん達がニヤニヤしていた。
わぁ…これが噂に聞くナンパかぁ。
桃井さんが可愛いから声をかけたんだな。
でも、桃井さんはぷいっと顔を逸らした。
「結構です。他を当たって下さい」
「結構って、良いって事だよな〜?」
自分に都合のいい解釈をした男達は、桃井さんの腕を掴んだ。
「いやっ!放して!!」
私は、桃井さんを掴んだ男の手を払い退けて、彼女を背に庇い、相手を睨み据える。
『"結構"には二つの解釈がありますが、あなた方の提案に対しての返事なのですから、この場合は不要と言う意味の否定形です。
はっきりお断りしますから、お引き取り下さい!!』
私の返答に、周りは驚いた様に注目する。
「名前ちゃん…」
「こいつは驚いた。大人しい地味なアマだと思っていたけど…中々言うじゃねーのw」
「へっ!こいつも良く見たら、中々可愛いな。連れてこーぜ!この生意気な口を、二度と叩けねーようにしてやる!」
今度は私の手が乱暴に掴まれる。
私は、いきなりの痛みに顔を顰めた。
「名前ちゃん!? ちょっと、あんた達!この子を離しなさいよ!!」
今度は桃井さんが私の手を引き剥がしにかかる。
「煩せぇ、このアマ!」
男の平手が桃井さんを襲う。
『さつきちゃんっっ!!』私は悲鳴を上げた。
私は見ていられなくて、目を瞑った。
でも、叩いた音はしなかった。
私は恐る恐る目を開ける。
男は苦悶の表情を浮かべていた。
男の手首はギリギリと締め上げられている。
絞め上げているその腕は、私の後ろから来ていた。
「きーちゃん!!」
桃井さんは嬉しそうに声をあげる。
その腕の持ち主は黄瀬君だった。
彼は、にこやかに男の腕を絞め上げる。
「いだっ!!痛たっっ!!!」
「男が、女の子の嫌がる事しちゃダメっすよー。暴力なんて、以ての外っス!!」
黄瀬君は、華麗な容姿の持ち主に似合わず、かなりの腕力で男を絞め上げている。
一見にこやかだが、目が笑っていない。…イケメンなだけに、かなりの迫力だ。
「チッ!」男は舌打ちをして、腕を振り払った。
そして、「覚えてろよ!!」と、月並みな捨て台詞を残し、バタバタと荒い足音を響かせて逃げて行った。
桃井さんは安堵の溜息を吐いた。
「きーちゃん、ありがとう」
『黄瀬さん、助かりました。ありがとうございます』
私も深々と礼をする。
それに黄瀬君は照れ臭そうに頬をポリポリと掻いた。
「あー…礼はいいっスよ。困っている女の子を助けるのは、男として当然の事っス。
…それよりも、桃っち、青峰っちはどこにいるんスか?」
桃井さんは、頬を不満気に膨らませた。
「大ちゃんなら、途中までは一緒だったけど、女の買い物に付き合うのはイヤだと言って、どこかに行っちゃったわよ!!」
「青峰っちがいるなら、あんな連中に絡まれたりはしないんスよねー…」
黄瀬君は苦笑いしている。
『黄瀬さんは、お仕事ですか?』
「ああ…いや、今日は部も仕事も休みっス。久しぶりに最新のアイテムでも探そうかと出て来たんスよ』
さすが。モデルさんは、いつもアンテナ張っているんだな。
「きーちゃんはデートじゃないんだ?珍しー?」
「桃っち…それじゃ、いつも俺がデートしてるみたいじゃないっスか〜?」
「いつも違う女の子連れてるって、違うの?」
「誤解っス!! あれは…あっちが勝手に引っ付いて来るんスよ!」
『…モデルさんも大変ですね…』
私の言葉に目を輝かせた黄瀬君は、私の肩をがしっと掴んだ。
『きゃっ!?』
「名前っちだけっス!そんな風に俺を労ってくれるのはっ!!」
『名前っち!!??』
いきなり付けられた呼び名に、私は目を白黒させた。
そして気が付いた時には、私は黄瀬君に抱き締められていた。
私は頭が真っ白になって、硬直した。
その有様を見て、桃井さんが声を尖らす。
「ちょっとー?きーちゃん、何名前ちゃんに迫っているの? この子は純粋培養なんだから、手を出しちゃダメよ!!」
「手を出すだなんて…心外っス。ちょっとばかりの感激の抱擁をしてるだけっスよー?」
「きーちゃん基準で感情表現するの止めて!…大ちゃんに言いつけるわよ!?」
「……それは殺されそうだから止めとくっス…」
私はやっと、黄瀬君から解放された。
いきなりの抱擁に、まだ心臓がドキドキしている。
「…大丈夫?」
桃井さんはフラフラな私を支えてくれた。
「桃っちは、これからどうするっスか?」
「私達は、この子の服とか小物を見繕って買おうと思っているの」
「…へぇ。なら、いいかもしれないっスね」
「何が?」
「……俺は、一人で歩いていると、女の子が寄って来て、ろくに行きたい所に行けない。
桃っち達も、女の子だけで歩いていると、ナンパが寄って来る。…なら」
それを聞いた桃井さんは思案顔になった。
「そーね…きーちゃんは私達のボディガードになって、私達はきーちゃんの女避けになる…と」
「互いの利害の一致っス。一緒に行くっスよ!」
『えええ…?』
「きーちゃんはスタイリストの腕もあるんだから、大ちゃんよりは役に立つかもね! じゃあ行こ!?」
二人の間で、あっという間に話が着いたらしい。
私は、ついて行けない展開の速さに呆然としながら、二人に挟まれて連行されて行った。