シンデレラは大胆に
そして、ここは試着室。
黄瀬君推薦のお洒落なブティックに連れて行かれ、彼等が選んだ服を次々と試着させられている。
「こんなの、可愛くない?」
「桃っち…それはちょっと露出度が高過ぎっス!名前っちのキャラなら、やや控え目位で丁度良いっスよ」
清楚なレース付きのシフォンのワンピースを出された。
さっきの胸開き過ぎに比べると、こちらの方が断然良い。
桃井さんなら、あのチューブトップは似合うんだろうけど…私はそんなに胸が無いし。
「でも大人し過ぎても、イメチェンにならなくてつまんないっスね…」
黄瀬君は琥珀色の綺麗な瞳で、私をじっと見つめた。
でも、その様に見つめられると、彼に見透かされている様で、私は落ち着かなくなる。
『……何ですか?黄瀬さん』
黄瀬君は、私を値踏みするかの様に見ながら、手を口に当ててブツブツ言っている。
「うーん…さっきのワンピースも似合ってはいるんスけど、何かもっとこう…パンチが欲しいんスよねー」
「…きーちゃん?」
「…かと言って、彼女のキャラ崩したくはないし……」
黄瀬君は売り場に戻り、他の服を漁り出した。
「そうだ、青峰っちと合わせるなら、小悪魔ちっくにスポーティにした方がいいっスかね?」
彼は、ワインカラーのフレアっぽいミニキュロットと、パステルピンクのパーカーと白いデザインTシャツを持って来た。
…気のせいか、サイズがぴったりなのが怖い。
「名前っちは、ガーリーめにした方が似合うっス。中はミニワンピにしてもいいっスよ」
『Tシャツは白だけど、柄…派手じゃない?』
真ん中には派手な、濃いピンク色のゴシックっぽいエンブレムとロゴが入っている。普段の私なら先ず選ばない。
『ミニスカートもはかないし…』
私の指摘に、黄瀬君は事も無げに返す。
「ミニと言っても、キュロットだし、ニーハイかタイツはけば足の露出も問題ないっスよ。むしろ青峰っちなら、この位の方が好きそうっス」
そこへ桃井さんも同意する。
「あー、そう言えば、大ちゃん、ミニスカート好きよね!…助平だから!!」
『す、助平……』
私は、思わず顔を引き攣らせ、黄瀬君は苦笑いして肯定した。
「あー…男はそんなもんスよw …って、二人とも、そんな非難がましい目で俺を見るのは止めてくださいっス…」
そして、私は買った服に着替えさせられた。
『うわぁ…』
いつも無彩色系のシャツ、膝丈スカート、パンツ、ジャケット位しか着ない私だが、この服にしただけなのに、まるで別人だ。
今、目の前の姿見に映っているのは、流行のカジュアルコーディネートに身を包んだ私。
活動的で溌剌としてる様に見える。
「可愛いよ!名前ちゃん!!」「とても良く似合うっス!雑誌モデルみたいっス!!」
二人に褒めて貰うと照れ臭い。
そして、買物を一通り終えた私達は、青峰君に連絡を取る。
「電気屋のマッサージチェアのコーナーにいるって…」
『…は?何でそんな所に?』
私は首を傾げたが、行ってみたら疑問が氷解した。
※※※
『……寝てる…』
「気持ち良さそうっスねー…」
青峰君は、展示されているマッサージチェアの上で反っくり返り、ぐうぐう鼾をかいて寝ていた。
そこへ、桃井さんがそうっと忍び寄る。
『さつきちゃん?』
何をするの、と言いかけた私に、唇に人差し指を当てて"静かに"と言うゼスチュアーをする。
桃井さんの指は、マッサージチェアの操作盤に触れて、ある一か所を押した。
グィングィングィン…
「ぐはっ!!??」
悲鳴と共に、いきなり激しくチェアが揺れ出した。
真ん中に寝ている青峰君を包んでグイグイ揉み込む。
「なっ、何だ!!??ぐおっ!止めろっっ!!!」
「全身3D駆動発進っ!!…次は足裏マッサージ、揉み玉攻撃!!食らえっ!!ガングロ大魔神っっ!!!」
「てめっ!?誰がガングロ大魔神だ!?コラ、さつき!!ふざけるんじゃねーーーっっ!!!」
電気屋の店内に、青峰君の悲鳴が響いた。
「おはよー大ちゃん♪マッサージチェアの揉み心地はどう?w」
「おはよーじゃねーよ!…折角、人が気持ち良く寝てたのによ」
「はははwww青峰っちも、桃っちにかかると形無しっスね!」
それに青峰君は胡乱気な目つきで黄瀬君を見やる。
「何だ、黄瀬。お前もいたのか?」
「いたのかって…青峰っちは冷たいっス…」
「大ちゃんがいない時に絡まれて、きーちゃんが追い払ってくれたんだよ!?」
「また絡まれてたのかよ?…そう言えば、あいつはどうした」
「あいつって…?名前ちゃんの事?」
『…………』
あのー…私は、すぐ横にいるんですけど。
「「…いる」っス」
二人同時に私を指さし、青峰君はまじまじと私を見つめた。
「……っ!!?」
青峰君は軽く仰け反り、顔を薄っすらと赤らめた。
そして口に手を当てて顔を背ける。
「俺達でコーディネートしたんスよ」
「髪型も少し変えたんだよ。ねっ?可愛いでしょー?」
青峰君はチラリと私を見て、また目を逸らした。
「あー…可愛いっつーか…(こいつ、黄瀬の前で、こんなエロ可愛くしてんのかよ!?)」
青峰君は、口を固く引き結んでいる。
私は不安になって彼に近寄り、恐る恐る呼びかけた。『…あの、大輝君?』
「…んだよ?」
何だろう…もしかして機嫌が悪い?
いきなり、あんな風に起されたからかな?
『…似合って…ないかな?』
私はそう言いつつ、青峰君を覗き込む。
青峰君は苦虫を噛み潰した様な表情で、私を見やり、何度か口を開閉した。
「……気に入らねぇな」
『えっ!?』
ぼそりと聞こえた一言に、私は青ざめた。
彼の言葉を聞いて、背中からスッと冷たくなる。
やっぱり…柄に無い事をするべきじゃなかったのかな。
私は唇を噛んで俯いた。
その時。
「えいっっ!!」
後ろから声がしたと同時に、ドンと私の背中が押され、私は青峰君に向かって正面から倒れ込んだ。
「うぉっ!!?」
『きゃっ!?』
青峰君が私を正面から受け止め、同時に、またマッサージチェアが激しく動き出す。
グォングォングォン…
そして、後ろから二人の声がする。
「行きましょー、きーちゃん!」
「そうっスねー。お邪魔虫は消えるっスよw」
『えっ…ちょっと!?』
「てめー等っ!?コラ、これ止めてけーーーっっ!!!!」
彼と一緒に揉み込まれて、何とかスイッチに触れて止める事が出来たのは、五分程経ってからだった。
「くっそー…あいつ等…っ!!俺達を置き去りにして帰りやがって…!」
ぜえぜえ言いながら、私はやっと止まったチェアの上で青峰君にしがみつく。
『……はぁ。やっと降りられる…』
私は身体を起こしたが、また青峰君に引き戻される。
『きゃっ!?』
「名前……」
青峰君に腕を掴まれ、覗き込まれる。
顔の近さに、心臓が跳ねた。
『な…何っ!?大輝君?』
「その格好…似合ってんぜ。だが俺の前だけにしとけ。…これ以上、他の奴等には見せんな」
『……っ!!』
そんな事、不意打ちで言うなんてずるい。
青峰君の鋭い瞳は、私を真っ直ぐに射抜いている。
私は、恥ずかしいあまりに目を逸らした。
『…大輝君、手を放して』
「その格好は、俺の前だけですると約束しろ。しなきゃ離さねえ」
だって、この格好、大輝君の為にしたんだよ?
そう言いかけた言葉を飲み込む。
そして口に出したのは、違う言葉で。
『……可愛いって言ってくれなきゃやだ』
青峰君は私の反撃に目を剥いた。
「……は!??」
『離してくれないなら、ここに居座るからいい』
「おまっ!?…キャラ違くねえ?」
それは、いつもと違う格好が、私を大胆にさせているのかもしれない。
私は膨れた振りをして、そっぽを向いた。
結局、青峰君がお腹を空かせて根負けし、微かな声で唸る様に「…だからっ…可愛いっつってんだろっ!!!」
と、自棄気味の言葉を聞くまで、そこで粘る事になってしまった。
お洒落して、青峰君と途中のマジバで一緒に食べて、家まで送ると言われて、一緒に歩いていく。
これって…まるでデートみたいだな。
私は擽ったい気持ちになって、一人でクスリと笑う。
「あ?何一人で百面相してんだ?お前って面白ぇヤツだな」と、青峰君に呆れられつつ、幸せな家路を辿った。