変わり始めた関係




次の日、学校で。

「よぉ」
青峰君が朝から登校して来て、声をかけてくれた。
『おはよー。今日は早いね?』
「…ああ。まーな。…名前お前さー、いつもあの時間で散歩してんのか?」
『そうだね。生徒会で遅くならない限りは、大体同じだね』
「へぇ…」

…ん?今、青峰君、私を名前で呼んだ?

『そう言えば、青峰君』
「何だよ?」
『今日、数学の小テストあるよ』
「げっっ!!マジかよ…!?」
『前回までの復習しては…その分ではないねw?』
「たりめーじゃん。そんな面倒な事するかよ!!…フケるか」
『駄目だよ!進級出来なくなっちゃうよ!?』
「…うるせーのが、また一人増えたな…」
『青峰君がそんなにいい加減なんだから、煩いのが無限増殖するんだよ!?』
「何だそれwww嫌すぎるだろwww」

こんな調子で青峰君と軽口を叩き合っていたら、周りの人達が唖然として私達を見ていた。

「…名前さん、あの…青峰君と…大丈夫なんですか?」
良君は、おずおずと私に聞いて来た。

昨日まで青峰君を嫌って、ほとんど口を利かなかった私のこの変わり様に驚いているみたいだ。
「何だ良?大丈夫って」
「あっ、スイマセン!」

『青峰君、良君を脅さないの!』
「何だよ、こいつが勝手に怯えているんだろ?」
『良君は繊細なんだから、もう少し優しく言ってあげてよ』
「俺が優しく…!?そんな事したら、壮絶にキモいぜ」
「青峰さんが優しいだなんて、槍が降りますよね…って、スミマセン!!」
『良君…』
もしかしてワザとか?…実は、どつかれ願望でもあるのか…???

「それよりもお前、何で良の事は名前で呼んでいるのに、俺の事は苗字で呼んでんの?」

は…!?何でって?

私はびっくりして青峰君を見た。
青峰君は不機嫌な顔をしている。
『良君は、昔からの友達だし…でも、青峰君は…』
まともに話したのは、昨日からだし…?

「俺の名前は大輝だ。苗字で呼んだら、もう返事しねーからな。覚えとけ」

ええ…っ!?

「ほら呼んでみろ、名前、大輝だ。"だ・い・き"」
青峰君は、ずいっと私に顔を近付けて、名前呼びを強制する。
どうしても呼ばなきゃ…ダメ?

私は、助けを求めて辺りを見回すが、周りはやりとりに興味深々で見ているだけで、救いは来なかった。
私は観念した。

『だ…大輝…くん』
私は小声で、やっと名前を呼んだ。
青峰君は、ニヤリと笑みを浮かべると、額をこつんと当てて、私の頭をくしゃりと撫でた。
「よく出来ました♪」

一部の女子達からは悲鳴が聞こえ、私は顔を俯かせた。顔が熱い。
…どっちにしても、この男と関わると、クラスで悪目立ちする事には変わりはないようだ。

※※※

今日も、学校から帰宅して、パットを散歩に連れ出す。

『それにしても、いきなり額を当てて来るからびっくりしちゃった…』
苦手な人が苦手でなくなるのは良い事なんだけど…青峰君、モテるの自覚しているのかな?
あの後…クラス中の人がガン見していた。
凄く恥ずかしかった。

私は溜息を吐いた。
『…勘弁してほしいよ、全く』

「何が勘弁するんだ?」

突然かけられた声に、私は飛び上がりそうになった。
そして振り向いた先には
『青峰君!!!』

青峰君は不機嫌に応じた。
「名前で呼べつってんだろ!?」
『…あ、ゴメン。大輝…君』
「行くぞ」
青峰君は、スタスタと歩き出す。
『は…?』
「犬の散歩…行くんだろ?」

一緒に来てくれるらしい。
私は、何となく弾んだ気分で青峰君と並んだ。

公園に着いたら、フリスビーを投げてパットにキャッチさせて遊んだ。
青峰君は、見ているうちに、やりたくなったらしい。
「俺にもやらせろ!」と、言うので、フリスビーを渡した。

彼は、思いっ切りフリスビーを飛ばした。
私は唖然とした。
…何か…物凄い長距離を、物凄いスピードで飛んで行ってますけど!?

『あ…大輝君、あれはいくら何でもパットが取りに行けないよ!?』
つか、誰が取りに行くんだよ!?公園の端まで飛ばす気か?

「…返ってこねえの?」
そんな意外そうな顔しないで。
『ブーメラン違う!』

私は、遠くに飛んで行ったフリスビーを、仕方なく走って取りに行く。

私の横を、黒い疾風が通り過ぎた…と思ったら、その風は数歩戻って、私の腕を掴んだ。
「名前、遅っせえよ!ちんたら走ってると、パットが寝ちまうぞww」
『大輝君のせいでしょ!?』

私は、足を縺らせながら、必死に足を動かす。
一緒に走ると、私まで風になったみたいだ。


「じゃ、今度は」

あ、今度は正確にパットに向かって飛ばした!?
パットは、猛然と走って見事にキャッチした。

「やるじゃねーか、パット!!」

私も負けじとフリスビーを放る。
『あっ!?』
手が滑って、隣接したストバスコートに曲がりながら飛んで行く。
「大暴投だなw」
青峰君はゲラゲラ笑う。
『うっさい!!』私は真っ赤になって言い返す。どーせコントロール悪いですよ!!

私が慌てて取りに行こうと走りかけた時、そのフリスビーはバスケットゴールにすっぽりと入って落ちた。

「『…………』」

あれ?…この距離からなんて…我ながら凄い偶然だ。
不意に私の左肩に重みを感じた。

青峰君が、私の肩に手を置いていた。

青峰君が今までにない位、目をきらきらさせている。
…何だか微妙に嫌な予感がするのは気のせいか?
「名前…」
『何でしょう?』心なしか、私の声は引きつっている。

「1on1をしろ!!!」

……は?

『あのー…ワンオンワンって…何ですか?』

…………。

青峰君は固まった。

「……ちっ!1on1も知らねーのかよ!?勉強は出来る癖に、バスケはからきしなんだな!」
いや、知らないし。つか、私にバスケを求めないで欲しい。

…だけど、バスケがそんなに好きなら、今日も練習ある筈なんだから出ればいいのに。

そんな考えが頭を過ったけれども、何となく声にするのは憚られた。

※※※

暫く遊んで、そして青峰君は芝生に寝転んだ。
『大輝君?疲れたの?』
青峰君は心外そうに返した。
「だりー…ってか。俺を誰だと思っているんだ?これ位でへたばったりしねーよ。名前、お前も寝転んでみろよ」
『えー?』

私は怖々、青峰君の隣に寝転んでみた。
『…あ。気持ち良い』
「だろ?」

そのまま寝転んだら、そよぐ公園の樹の葉と澄んだ青い空が、視界いっぱいに映った。

何だか不思議だなぁ…
あんなに苦手だと思っていた青峰君と、一緒に寝転んで同じ景色を見ているなんて。

目を閉じて深呼吸をしてみる。
草の湿った匂いと、日向の匂いがした。

ふと、目を開けて横にいる青峰君を見る。
彼はじっと私を見つめていたのに気が付いて、心臓が跳ねる。
『なっ…なに…!?』
「…やっぱり、少しマイちゃんに似てるわ。お前」
『……胸以外はでしょ』
「よく分かってんじゃねーかw」

『どーせグラマーじゃありませんよ!!』
私が膨れたら、青峰君は可笑しそうに言った。
「気を落とす事はないぜ。胸は男に揉まれるとでかくなるって言うからな」

『別に私は、そのマイちゃんじゃないから。胸だってこのままで十分です!』
「何だったら、俺が手伝ってやろうか?」
『要りません!!』

全く、どうにかならんのか?
この男といると、高確率でエロトークになってしまう。

わんっっ!!
パットが、青峰君に圧し掛かって、顔をペロペロ舐めだした。

「わっ!?俺の顔、舐めても美味くねーぞ!?止めろ!!」
『きゃはは!大輝君、パットに好かれたみたいね!』
「つか、でっけーよ!食われる!!」
『ご飯は十分にあげている筈だから、大丈夫よ…多分』
「多分じゃねーよ!!ぎゃあ〜!!」

『パット、お腹壊すからお止め』
「…お前…俺を何だと思っているんだ?」

気が付いたら、この時間がとても楽しくなってる私がいた。
また…散歩に付き合ってくれたら嬉しいな。




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