ラッキーアイテムはセントバーナード?
「…今日の4位は蟹座!思いがけない出会いがあるかも?…ラッキーアイテムは"セントバーナード"!」
偶々テレビのチャンネルを合わせたら、巷では良く当たるとの評判の「おは朝」の番組だった。
時々、相当無茶なラッキーアイテムを指定する事でも有名だ。
しかし…ラッキーアイテムって。
私は、足元で尻尾を振りながら、ご機嫌でご飯を食べているパットを見下ろす。
こんなデカい犬、持ち歩きとか無理だよ。
…まぁ、ここのラッキーアイテムを全制覇出来る人がいたら、是非ともお目にかかりたいものだ。…いないだろうけど。
※※※
私は学校から帰宅したら、散歩コースを少し変更して、パットを連れて図書館へ行った。
本の返却期限が迫っていたのだ。序でに続きを借りてしまおう。
私は、パットのリードを外の柵に縛り付け、『いい子にしててね。すぐ戻って来るから』と言って、急いで図書館の中に入った。
私は落ち着いた図書館の空気は好きだ。
書棚を見て回りながら、目当ての本を探していく。
『あった!』…と言いつつ少し困る。
私の目当ての本は、それだけが何故か高い場所に入っていた。
辺りを見回したが、脚立らしき物は見当たらない。
『うーん…』
私は一生懸命に背伸びして、その本を取ろうとする。
全然届かない訳ではなく、指の端が本の下に引っかかるから、それで何とか取れるかと思ったけど、中々引き出せない。
『も、もう少し…!』
突然、ひょいと本が取り上げられた。
私は驚いて後ろを振り返る。
背の高い、緑髪の眼鏡をかけた綺麗な男性が、その本を私に差し出していた。
「…この本が取りたかったのだろう?」
私は、その本を受け取りながら、別の所に気を取られていた。
彼は、大きな犬の縫いぐるみを抱えていた。…それは、多分セントバーナード。
『あ、ありがとう…ございます』
「…ああ」
彼は、ぶっきらぼうに返事をすると、そのまま歩き去った。
彼の後ろ姿を見ながら、私は首を傾げていた。
見た目には、私と同じ位の年齢だと思うのだけど…縫いぐるみ抱えた男子高生って。…変な人だなぁ。
でも、親切にしてくれた事には変わりない。変わっているけど、きっといい人なんだろうな。
私は、本を借りた後、パットを繋いだ柵の所に近寄った。
…あれ?
…リードが落ちてる。
けど、繋いでいた犬がいない。
『パット!?』
もしかして、また脱走した!?
私は、パットを探して走り出した。
※※※
-緑間side-
図書館で、無事目当ての本を見付けた。
…今日のラッキーアイテムは、残念ながら持ってはいない。
セントバーナードなどは飼ってはいないし、知り合いにも飼い主がいないからだ。
仕方ないから、縫いぐるみで代用している。
今日は、蟹座は4位なのだから、命の危険まではないだろう。
…これが10位以下なら、何が何でも子犬でも買って来るか、家に引きこもるしかないのだが。
図書館の外では、高尾がリヤカーに繋いだ自転車の傍で俺を待っている。
いつも交差点でジャンケンして、勝った方がリヤカーに乗る。
ちなみに、俺は一度も負けた事はない。
今回も図書館に着いてから、帰りの分のジャンケンをしたが、当然の如く俺が勝った。
例え縫いぐるみで代用してても、ラッキーアイテムの効用は一応はある様だ。
「しーんちゃん、遅いよー!」
高尾が不満気に鼻を鳴らして、自転車に跨る。
「本を見付けるのに手間取ったのだよ。すぐに行くぞ」
俺は、リヤカーに乗ろうと近寄った。
と、俺のすぐ横を、大きな犬が駆けて行った。
ジャンプして、飛び乗ったのはリヤカー…って、待て!!
そのリヤカーは、俺の席なのだよ!!!
リヤカーは、飛び乗った犬の重量で大きく揺れた。
高尾が自転車を支える。
「おっと!乗ったか。じゃ、出発〜!」
高尾は後ろも見ずに、自転車をこぎ出した。
「ちょっ!?高尾!!待つのだよーーっっ!!!」
俺は慌てて後を追って走り出した。
※※※
-名前side-
パットを探して暫く走り回っていたけど、どこにもいない。…どこに行ったんだろう?
もう、図書館の近くにはいないのかな…?
私が疲れて足を止めた時。
自転車置き場の方で叫び声が聞こえた。
まさか、と思ってそっちの方へ走る。
始めに私の目を惹いたのは、さっきの緑髪の彼が走って行く所だった。
そしてよくよく見れば、その前にリヤカーに繋いだ自転車が走っている。…何アレ?
目を点にして暫く見ていたが、私はある事に気が付いて目を剥いた。
『えーーーっっ!!??』
ちょっと!?何でリヤカーに、うちの犬が乗ってんの!??
『パット!!!待ちなさーーーいっっっ!!!』
私も、緑髪の彼に続いてリヤカーを追いかけた。
緑髪さんの声で、自転車に乗っていた黒髪の男の子は振り返った。
そして、リヤカーの中を見て騒ぎ出す。
「わーーっっ!!?真ちゃんが犬になったーーーっ!!!??」
漸く追いついた緑髪さんが、そんな彼に怒り出す。
「そんな訳あるか、馬鹿め!後ろをちゃんと確認してから漕げ!!」
「あっはは!真ちゃん置いてきちゃったのね、俺。わりーわりーwww」
「でさ、この犬…一体どこから来たんだろうね?」
「俺が知るか。…でも、この犬はセントバーナードなのだよ。今日の蟹座のラッキーアイテムだ」
「いやいや…いくらラッキーアイテムでも、他人様の犬を持ってっちゃマズいっしょw」
……何の話をしているの?…この人達。
私は、彼等の不穏な会話に引きつりながらも声をかける。
『…すみません。それ、うちの犬です』
緑髪さんは振り返って目を瞠った。
「お前は…さっきの!?」
「なーに?知り合い??…真ちゃんも隅に措けないねぇ♪」
自転車に乗っていた黒髪のつり目の男の子は、楽しそうに言う。
「ただ本を取ってやっただけなのだよ!」
『その節は、親切にありがとうございました』
私は深々と礼をする。
「い…いや、大した事ではないのだよ」
緑髪さんは、眼鏡を直しながら視線を逸らす。
「まーた…!真ちゃんって、ツンデレなんだからw」
「黙れ高尾!!」
"真ちゃん"って、この緑髪さんのお名前か。随分、可愛い呼び名だなぁ。
で、この黒髪さんは"高尾"君ね。
高尾君は、人懐こい笑みを浮かべながら訊いてくる。
「それで、この犬は逃げちゃったの?」
『はい。…先程、図書館で繋いで。少ししてから出たら、いなくなってて…探していました』
「成程。犬の散歩がてら、図書館に寄ったって所か」
緑髪さんこと「真ちゃん」は頷いた。
『はい。…ご迷惑かけて、すみません。パット!!出なさい!』
私は犬を引っ張り上げるが、如何せん大型犬の重さは私にはきつい。
どうやらパットは、リヤカーの中が気に入ったらしく、中々出ようとはしない。
暫く見ていた緑髪さんは、ため息を吐くと「仕方ない…高尾も手伝うのだよ」と言って、パットを持ち上げた。
強引に車から出されたパットは、不服そうに一声吠えた。
高尾君は、驚いて身を引く。
「うわっ!?」
『すみません。ありがとうございます。行くよ、パット!』
私はリードを付け直し、散歩を再開した。