チャリア組と知り合う
………しかし。
何故、彼等は、私の横を一緒について来るのだろうか?
自転車に曳かれたリヤカーが、横を同じスピードでついて来る。…通りすがりの人目を惹いてしまっている。
『…あの…?』
私は怖々と緑髪さんに声をかける。
「何か問題でもあるのか?」
『いえ…でも、何で一緒に歩いているのかな?って』
高尾君がゆっくり漕ぎながら呆れた様に言う。
「しーんちゃん、不審がられているよ?…本当の理由を言ったら?」
緑髪さんは縫いぐるみを抱えたまま、リヤカーの中から私を真直ぐに見た。
「悪いが、今日一日、その犬と行動を共にさせてもらうのだよ」
『…は?』
全く意味が分からない。
何だろうこれ?
彼等は悪い人達じゃないみたいだけど、ナンパでもないし…会ったばかりの人に、こんな事言われるなんて…?
『……セントバーナードのストーカー??』
私が思わず零した声に、緑髪さんは「なっ!!??」と絶句し、高尾君は「ぶはっっ!!!」と吹き出した。
緑髪さんは一つ咳払いをすると、私に問いかけた。
「お前は…"おは朝"を知ってるか?」
『ああ、朝のテレビの星座占い、ですよね?』
「セントバーナードは、今日の蟹座のラッキーアイテムなのだよ。実際に飼っている知り合いがいなくて困っていたのだ」
「そこへ君の犬が現れたわけ」
『…はあ』
そうか。この人、蟹座でラッキーアイテムが欲しい人なのね。
…でも、真面目にセントバーナードを持ち歩き(?)したがっている人なんて初めて会ったよ、私。
「だから、今日一日俺達は、お前の散歩に付き合うし、付き合って貰うのだよ」
付き合って貰うったって…困ったな。変な人達と関わり合いになってしまった。
私の困った様子を感じ取ったのか、高尾君は「深く考えなくていいからさ、今日だけだから。ねっ!?」
両手を合わせて、拝み倒す様な素振りで片目を瞑った。
『は…はぁ』
まぁいいか。…散歩に付き合って貰う位なら、別に害は無さそうだし?
私は暫く考えた後に、『いいですよ。出来る範囲でなら』と答えた。
「だってさ!良かったな、真ちゃん!」
「ありがたいのだよ。勿論、今日だけなのだよ」
緑髪さんはホッとした様子だ。…やっぱり悪い人ではないみたい。…変な人だけど。
「君は高校生だよね?どこ高?」
『…桐皇学園の一年、苗字名前です。…貴方は高尾さん…ですよね?そちらの方は?』
「真ちゃんの名前は知らないのに、何で俺の名前は知ってんの?…もしかして、俺ってば有名人??」
「俺が、さっきからそう呼んでいるからなのだよ、馬鹿め」
『…そうです。…すみません』
私の答えに、高尾君はガクッと項垂れた。
『あ、あの…!?』私は慌てるが、緑髪さんは
「放って措くのだよ。…俺の名前は緑間真太郎だ。こいつは高尾和成。両方共、秀徳高校一年だ」
「よろしくねー名前ちゃん!」
高尾君は、既に立ち直ったみたいだ。
秀徳高校…ここらでは有名な進学校だ。…二人共頭良いのかな。
緑髪さんもとい、緑間さんは私に話しかけてきた。
「桐皇学園には、俺の中学時代の同級生が進学している筈なのだよ」
『そうなのですか…緑間さんは、どこの中学だったのですか?』
「帝光中なのだよ」
『えっ!?帝光!?』
私の脳裏に、青峰君の姿が浮かんだ。…でもまさか。同じ学年だけど、帝光中の人は他にも沢山進学している。
別に彼とは限らない…よね? 私は頭を軽く振った。
「どうかしたのか?」
『…いえ。何でも』
「…そうか。ところで苗字が借りた本だが、同じ作者の他のシリーズのは読んだか?」
『まだです。緑間さんは?』
「一通り読んだ。お勧めは3作目の×△だな。科学的考察が面白いのだよ!」
『あ、それ、前から気になっていました!』
「…何だかんだで気が合ってるよねー、お二人さんw」
高尾君に茶化されたが、予想外に話も合うし、楽しい人達だと思った。
散歩が終わりに近付くにつれ、そのまま別れるのが惜しくなってきてしまった。
高校が違うから、そうそう会う機会もないだろう。
私が内心で残念に思っていると、高尾君が私の顔を覗き込んだ。
「ねぇ名前ちゃん。…良ければ、俺と連絡先を交換しない?」
『えっ!?…良いですよ』
私が微笑んで言うと、彼は嬉しそうに「マジ!?やった…!今日だけって無理言ったから、駄目元だったんだけど♪」
と言ってくれた。
それを聞いた緑間さんも、慌てた様に言い出す。
「俺とも交換…してやらない事もないのだよ!」
複雑な言い回しに、私は思わず苦笑した。
『喜んで。ラッキーアイテムは出来る範囲ですけど、協力しますので相談してくださいね』
「ちょ、真ちゃん、俺の方が先だって!!」
赤外線通信をする為に、携帯を彼等に差し出した。
その時、後ろから低い声がした。
「おい、名前」
私は振り向いた。
立っていたのは青峰君。…何だか、機嫌が凄く悪いみたい。
…やっぱり、昨日の事怒っているのかな?
『あ、大輝君。昨日はごめんね?』
彼は、私の謝罪の言葉が耳に入らない様だった。
私と彼等を睨み据えている。…こ、怖い。
「お前…緑間と、どんな関係なんだ?」
『緑間さん?…えっ!?…もしかして、帝光中の同級生って…?』
「…相変わらずだな、青峰」
氷点下の青峰君の声に、緑間さんは落ち着き払った声で応える。
「…どんな関係なのかって、訊いているんだよ!」
『どんなって。さっき、図書館で知り合って…お友達になったんだけど?』
何が彼の機嫌を損ねているのか分からなくて、私は首を傾げる。
もしかして…緑間さんと青峰君とは仲が悪いのだろうか?
「チッ!」
青峰君は不機嫌に舌打ちすると、踵を返して走り出す。
私は、彼をそのままにしておく事は何故か出来ないと思って、後を追った。
『待って!!大輝君!!!』
とは言え、彼の足はとても速い。
私は追いかけても、追いつけないかもしれない。…そう思って、半ば諦めかけた時だった。
パットが私の横をすり抜けて走って行った。
パットは、一声吠えると、青峰君のズボンの裾を咬んで引っ張った。
「おい、パット!!止めろ!ズボンが千切れるだろ!!!?」
私は漸く追いついた。
息を切らしながら、青峰君に問う。
『大輝君。…何で怒ってるの?緑間さんの事、嫌いなの?』
「…あ?…別に嫌いじゃねーよ。強いて言えば苦手だけどな。うるせーから」
『…別に私が友達になったからって、怒ってる訳じゃないよね?』
青峰君は、気まずそうに視線を逸らした。
そして、一言ぼそりと呟いた。
「…携帯」
『は…?』
「俺とはしてねーのに、緑間とはアドレス交換するのかよ!?」
『………え?』
私は、予想外の答えにきょとんとしてしまった。
そう言えば…青峰君とは、アドレス交換とかしてなかったな。
学校で会えるから、特に必要性を感じてなかった。
『…えーと…それは…もしかして』
私は恐る恐る携帯を差し出した。
青峰君は拗ねた様に口を尖らせた。
「…んだよ」
『大輝君とは、いつも教室で会えると思っていたから。それに、簡単にはアドレス教えてくれそうじゃなかったし?』
「…!それは、こっちの方の台詞だ。お前こそ、俺の事、嫌っていたんじゃねーの!?」
『今は、良い友達だと思ってるよ?だから…ね?アドレス交換しよ?』
…何か…駄々っ子を宥めている気分になってきた…
「………」
青峰君は頭をガシガシかくと、溜息を一つ吐いてから、漸く私に向き直った。
「しゃーねーな!…そこまで言うなら、してやるよ。オラ、携帯貸せ!」
青峰君に半ば強引に携帯を奪われ、登録された。
私達に追いついた緑間さんと高尾君は、呆れた様にこのやり取りを眺めていた。
「呆れたヤツだ。全く…素直になれば良いものを」
「それ…真ちゃんが言っちゃう?w」
私の犬の散歩が、一気に賑やかになってしまった。
「緑間!!いい加減俺達に、付き纏うのは止めろっ!!!」
「イヤなのだよ。今日の蟹座のラッキーアイテムは、セントバーナードなのだよ!!
俺達は、今日一日は苗字と行動を共にすると決めたのだよ!青峰こそ、イヤなら一人で帰るといいのだよ!」
「っざけんな!大体何だよ、そのリヤカー!!てめーこそ、そんな変な物に乗ってんじゃねーよ!!一緒に歩くと恥ずかしいんだよっ!!」
……変な物…うん、やっぱり変だよね…それ。
高尾君は、自転車を漕ぎながら肩を震わせている。
…恥ずかしいって言われちゃったけど…もしかして、傷ついてたり…?
私は、心配して高尾君の顔を覗き込んだ。だが、私の心配が全くの杞憂だった事に気が付いた。
…彼は、必死に笑いを堪えていた。
一人納得した私は、見て見ぬ振りをした。