Tip off!


Game start!


一学年上がって、二年生になった。
黒子君は冬に一軍に抜擢された。
置いて行かれた様で少し寂しいと思ったが、彼の努力を知っている私は心から祝福した。

私は順当に繰り上がって二軍のマネになったが、相変わらずボール出しはさせてもらえなかった。

私は洗濯物を持って、よろよろと体育館に足を運んだ。
『……??』
何だかいつもより騒がしい。
女の子達が群れて騒いでいた。

『あのー…』
私は体育館の入口を塞いでいる彼女等に声をかけたが、私の声など掻き消す勢いで黄色い歓声を放っていた。
『す、すみません…通して…下さい』

私は、その女子達を洗濯籠でかき分けながら通ろうとした。

「ちょっとー!! 押さないでよっ!!!」
『すみません、ちょっと通してください…』
「黄瀬君見えないでしょ!? 邪魔しないでっ!!!」
『ご、ごめんなさい…え?』

今…彼女、「黄瀬君」って言った?

暫し茫然とした私は、その子達に突き飛ばされて転んでしまった。
同時に籠が手から離れ、洗濯物が散乱する。

『あっ!?』
「やだぁー、何やってんの、アンタ!!」
「鈍臭ーい!」

私が慌てて洗濯物を拾い集めている時、声が聞こえた。

「名前ちゃん!!大丈夫っスか!?」
『あれ黄瀬君、どうしたの?』

黄瀬君はいつも以上に嬉しそうだった。
「ビッグニュースっスよ! 俺はなんと、バスケ部に入部したっスーーー!!!」
『ええっ!!??』

驚いた私は彼女達に睨まれた。
「ちょっとー、涼太君! この子とは、どう言う関係?」
「友達っスよ」
「やだぁー、こんな地味女が!? 似合わなーい!!」
『…………』

私は言い返しもせず、黙々と洗濯物を拾った。
散らばったのは体育館の床だったので、汚れなかったのは幸いだった。

「あのさ。彼女、このバスケ部のマネなんで、仕事の邪魔しないでくれるかな?」
「私達…邪魔なんて…」
「ねっ?」

黄瀬君の笑顔に押された彼女達は、渋々足下にある洗濯物を拾い出し、
私の持っている籠に乱雑に突っ込んだ。

「悪かったっスね…俺のファンの子達が」
『……ううん、大丈夫。ありがとう』


黄瀬君が何故、今からバスケ部に入ったのか、色々と訊きたいと思ったけど、
あのファンの子達の前では、迂闊に喋りかけたりは出来ない。

黄瀬君の一言があったから手伝っては貰えたが、彼女達は私にまで刺す様な視線を送っていた。
私…黄瀬君とは何でもないのに…

私は溜息を吐いた。

※※※

黄瀬君は、あっという間に上達して行った。
二軍にいたのはたったの二週間だけ。

「明日から一軍に加わるっスよ!」
『凄いねー…!』

彼は俗に言う天才と言うものらしい。
どんなに練習しても上達しない私とは、世界が違う人だとしか思えない。

彼は一軍に行ってから、殆ど会えなくなった。


私は部活が終わり、学校の廊下を一人歩いていた。

『良いな…一軍、か』
ぼそりと呟いた私の後ろから声が聞こえた。

「一軍に来たいんスか?」

私は勢い良く振り向いた。

『黄瀬君…っ!?』
「ちはっス。久し振りっスね!」
『一軍はどう?』
「楽しいっス!! 目標にしている凄い人がいるんスけど、俺全然勝てなくて―…」

黄瀬君はキラキラと目を輝かせた。
こんなに楽しそうで生き生きとした彼は初めてで、私は思わず目を瞠った。

『そっかー! 良いね、そう言うの』
「名前ちゃんも偶には観に来ればいいのに」
『…私は二軍マネの仕事あるから…』
「そう、だったっスね。でも部活終わってからも自主練してる事もあるんスよ」
『……それなら、観に行けるかも…』

黄瀬君は会話を続けながら、ふと思い出した様に首を傾げた。

「そう言えば…名前ちゃんは、一軍に好きな人がいたんスよね?」
『……うん』
「向こうは知らなくて…そう、美人の幼馴染の…って!? 俺、分かっちゃったっスよ!! 青峰っちでしょ!?」
『こっ、声が大きいよ、黄瀬君!』

彼は首を竦めた。

「…青峰っちなら納得っス! …実は俺も、青峰っちに憧れてバスケ部に入ったんスよ!!」
『そうなの!??』
「俺、大抵のプレイは真似出来るんスけど、一軍のレギュラー…特に、あの青峰っちの動きは凄過ぎて無理っス!!」
『青峰君が好きなら、同士だね!』

私は朗らかに笑った。黄瀬君まで青峰君が好きって、何だか凄く嬉しい。
…勿論、私の"好き"とは意味合いが違うのだけども。

「どっちかと言うとライバルになるんスかね? 俺達。青峰っちはあげないっス!…なーんちゃってw」

私達は楽しく話しながら歩いた。
最近は遠くに感じていた黄瀬君だったが、態度は前と同じで気さくだった。

私は校門に人影がいるのに気付く。
「…黄瀬ー! 遅せーぞ!!」
「すいませんっスーー!!!」

えっ!? …あれって。

私は驚いて足を止めた。

「どうしたんスか?」
『…あの、じゃ、私はここで…』
「折角だし、一緒に帰ったら良いじゃないスか?」
『でも、あの人達…に悪い…よ』

そう、そこにいた背の高い影は。

「何だ、黄瀬。また女連れかよ? 俺ぁ先に帰んぞ?」
「大ちゃん!ちょっと待って…!」
「……苗字さん、お久し振りです」

『く、黒子君っ!?』

そっか、黒子君も一軍に行ったものね。

そこにいた桃色髪の美少女…彼女が噂の人だ。
その子は、大きな瞳を瞠って私を見ていた。

「まさか黄瀬君と一緒に来るとは思いませんでした。…一緒に帰りませんか?」
『…あの、でも』

桃色髪の美少女は、私に不安気な眼差しを送った。
…私が青峰君を取るとでも思っているのかな?
……私なんて、彼女とは比べものにもならないのに。

青峰君と視線が合った。私の心臓が音を立てて大きく跳ねる。

「…テツの知り合いか?」
「苗字名前さん。僕が三軍にいる時にお世話になりました」
「へー…おめーもバスケ部かよ? 黄瀬の女か?」
『は、はいっ!? ち…違いますっ!!』

いきなり声をかけられて、私は驚いたあまり、声が裏返ってしまった。
そんな私の反応に彼は笑い声を立てた。

「どっちなんだよ?w」
「…青峰っち。彼女は友達っスよ!」

黒子君が私と並んだ。

「苗字さんは、今は二軍にいるんですよね?」
『うん。黄瀬君、すぐに一軍に行っちゃって…凄いよね』
「…あれで始めて一か月と言うのだから、信じられないです」
『黒子君も凄いよ。ずっと頑張って来たものね』

そこへ黄瀬君も割り込んで来る。
「黒子っちは俺の教育係なんスよ」

「…あ、あの、貴女はテツ君の…?」

桃色髪の美少女は躊躇いがちに話かけて来た。
私は初めて彼女から話しかけられて緊張した。

『あ、初めまして。貴女は…?』
「桃井さつきです。大ちゃ…青峰君の幼馴染で、一軍のマネージャーやってます」

知ってる…有名だもの。

『私は苗字名前です。黒子君とは三軍の時からの友人です。
黄瀬君にも色々とお世話になってます。よろしく』

「……まさか苗字さんが黄瀬君と知り合いだとは…驚きました」
「今ではライバルでもあり同士っスよね!」

彼が本人の前で意味深な目配せをするので、私は恥ずかしくなってしまい、俯いてしまった。

「黄瀬のライバル…? おめーもバスケすんのか!?」
『えっ!? ……それは…一応はします…けど…?』

ド下手ですよ…?とも言えずに、私は口篭る。
そんな私に、青峰君は挑戦的な視線を投げかけた。

「じゃあ、今度俺と手合わせしろ!」
「ちょっと、青峰君っ!! 相手は女の子だよ?」
『えっ? ……えええーーーーーっっっっ!!!!????』

やり取りを聞いた黄瀬君は吹き出し、私は頭が真っ白になってしまった。

「……流石にそれは無理です、青峰君」
「何でだよー? テツ。黄瀬がライバルと認めるんだ。強ぇんだろ?」
尚も言い募る青峰君に、黄瀬君が宥める口調で訂正する。

「……そう言う意味のライバルじゃないんスよ、青峰っち」
「じゃ、どー言う意味だよ?」
「……それは俺達だけの秘密っス!よ …ね?」

私は必死になって、こくこくと頷く。
青峰君を巡るライバルだなんて口が裂けても本人に言える筈がない。

黄瀬君は私の耳元に寄せて囁いた。
「良い機会じゃないっスか。この面子で一緒に遊びに行く提案をするっスよ。俺が後押しするっス!」
『…え? でも、桃井さんは…?』
「桃っちは黒子っちの事が好きなんス!」

そうなの……?
青峰君とお似合いだと思ったのに、影の薄い黒子君とだなんて意外…
いや、黒子君はとても優しいし、とても良い人だけど。

じゃあ、さっき彼女が私に微妙な視線を送ったのは…私が黒子君と親し気だったから、か。
桃井さんと視線が合った。彼女は私に笑いかけた。

「きーちゃんと仲良しなんだね?」
『えっ…?』
「内緒話なんてする仲なんだー?」
『…そんなんじゃ…』

私は彼女の追求に、あわあわと手を振って否定した。

「そうだ、今度の休み、この面子で遊びに行かないっスか?
俺、遊園地の招待券貰ったんスよ! 丁度五枚あるんス」

桃井さんは勢い良く手を上げた。

「私、テツ君が行くなら行くーっ!!」
「…別に用事とかは無いです」
「へぇ、これ、新しい絶叫マシンの入った所じゃね? 黄瀬にしては気が利いてるな。良いぜ。行ってやる」
「どー言う意味っスか!? 酷い言われ様っス!」
黄瀬君はくるりと振り向くと、極上の笑顔でにっこり笑った。

「…勿論、名前ちゃんも行くっスよね…?」
『…あ、あの。良いの…? 私が加わっても…?』

私がおずおずと確認すると、青峰君は私をチラリと見やり、おざなりな口調で言った。
「別に俺は構わねーよ」
「うん! 宜しくね、名前ちゃん!」
桃井さんも良い人そうだな…仲良くなれたらいいな。

しかし初対面なのに、いきなり遊びに行くなんて展開になって吃驚だ。
黄瀬君…の手腕って凄い。

でも、私は一つの疑問があった。
『…黄瀬君、どうしてここまでやってくれるの?』
「……んー…そうっスねー…」

彼等と別れた後、私は黄瀬君と歩いていた。
時折、行き合う人が、黄瀬君をチラチラと見ている。
有名人だし、目を引くよね。やっぱり。

「面白そうだから?」
『…面白そうって…』

人の恋愛事を玩具にしないで欲しい。

「俺はこう見えても、名前ちゃんを買っているんスよ」
『……え?』
「あの青峰っち…どう? 落とせそうっスか?」
『無理だよ…っ!!』

桃井さんが青峰君狙いじゃなくても、とても無理だと思う。
無愛想な彼にどう取っ付けばいいのか、皆目見当も付かない。

黄瀬君は悪戯っぽく目を輝かせた。

「名前ちゃんは…外見は地味目で普通だし、どっちかっつーと鈍臭い所あるっスけど、何か…意外な事やってくれちゃう様な気がするんスよ。…俺はそれが見たいんス!」

そう言って笑った黄瀬君はとても綺麗で、私は思わず目を奪われた。

『…黄瀬君…ありがとう』
「名前ちゃんは、俺とライバルでもあるんスからね!
あんまりグズグズしてると、俺が青峰っち取っちゃうっスよ!!』
「……私、勝てる気がしない…負けちゃいそう…」

私が正直な気持ちでぼやくと、黄瀬君は身体を折って笑い出した。


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