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‐番外編‐ 緑間の独り言


俺は黄瀬に相談され、あるアドバイスをした。
黄瀬はそのアドバイスを元にして動いたが、従ったとは言い難い事をした。

「…ふん」
全くバカなヤツなのだよ。

「緑間っち、どうしたんスか? …何だか機嫌が悪いっスね」
「折角のラッキーアイテムを自分の為に使わず、恋敵の為にくれてやるとは、人事を尽くしたとは言い難いのだよ」

黄瀬はらしくなく、眉を下げて苦笑した。

「これでも俺なりに人事を尽くしているんスよ?」
「俺にはそうは見えんな」
「…そうっスか」

黄瀬は喉の奥でくっと笑った。

「何が可笑しい?」
「…緑間っち、俺がまさか…綽名っちが幸せになる為に、彼女を青峰っちに譲ると思っているんスか?
まさか! 俺、そこまでお人好しじゃないっスよ」
「……黄瀬」
「俺、未練がましいかもしれないっスわ。
…確かに、俺の存在が彼女を危険に落とすのなら、俺は身を引こうかとも思ってたっス。
でも、俺はいつまでも負けている訳にはいかない。灰崎にも青峰っちにも。
今は青峰っちに彼女を任せざるを得ないっスけど、俺は綽名っちを守れる位には力を付けて、そして…!」

黄瀬は猫みたいな琥珀色の瞳をスッと細めた。

「…正直、今の青峰っちと彼女じゃ、付き合ったとしても上手く行くとは思えないんスよねー」
「青峰とが駄目になったからと言って、すぐにお前に乗り換える様な女など、到底お前が好きになるとは思えんが」
「…そう、そんな女は俺も願い下げっスよ。でも、彼女はいつでも俺の想像を超える…」

俺はそれが見たいんス、と楽しそうに言い黄瀬は柔らかく微笑んだ。

…気が付いているのか?
今のお前の目、表情、口ぶりの全てがそいつへの愛しさに溢れている、と言う事が。

沢山の女に囲まれていて、女に不自由しないと言うが― こいつも案外、不器用な男なのかもしれんな。
その不器用さも含めて、失恋すらゲームみたいに楽しんでしまう所が強かでもあるが。

俺には到底理解出来んが…俺にもそのうち、そんな風に思える相手が…出来るのだろうか?

「…? 緑間っち…? どうしたんスか? いきなり黙っちゃって」

黄瀬の訝し気な視線を受けた俺は、カチャリと眼鏡のブリッジに指をかけた。

「…いや。お前にそんな顔をさせる女とは、どんな女なのかと気になってな」
「…っ!???」

黄瀬は大きく目を見開くと、あんぐりと口を開けた。

「何なのだよ、その間抜け面は!!!?」
「緑間っち!!」

黄瀬はいきなり大声を上げると、俺に指先をピッと突き付ける。

「綽名っちは渡さないっス!!!」
「俺は、まだ何もしていないだろう!!?」
「"まだ"!? これから手を出すつもりっスか!?? これだから天然ムッツリは油断が出来ないんスよ!!」

「誰が天然ムッツリなのだよ!!?? そんな事は、まだ会ってもいない俺よりも青峰に言うのだよ!!」
「青峰っちは、巨乳好き助平っス!!」
「そんな話はしていないのだよっ!!!」

何で俺が朝からこんな下らん言い合いで、ゼーゼー息を切らさねばならんのだよ!?
不本意にも程があるのだよ!!

黄瀬はやや落ち込んだ様に言う。

「相性で言うなら、クソ真面目同士、彼女は緑間っちとの方が合いそうなんスよ!
あ、でもだからって、彼女に手を出したらダメっスよ!!?」
「誰が出すかっ!!」

俺は言い合いに疲れてはぁ、と溜息を吐いた。
「…まさか女の話で、黄瀬に釘を刺されるとは思わなかったのだよ」
「緑間っちも結構タラシっスからね。自覚ない分、性質悪いっス」
「…フン」誰がタラシだ。

黄瀬にそんな事言われるとは、心外なのだよ。

俺は去り際に念を押した。

「黄瀬、あのラッキーアイテムの効用は強力なのだよ。
彼女が誰にそれを使うかで、青峰との関係も変わって来る事は十分に考えられる…
せいぜい後悔などしない様にしろ」

俺の言葉に、黄瀬は苦い笑いを浮かべた。
「…それなら俺は、自分で自分の恋を終わらせてしまったっスかね」
「かも、しれんな…」
「ちょっと緑間っち!? 少しはフォローしようとか、傷付いた俺に心優しい気遣いは無いんスか!?」
「馬鹿に付ける薬は無いのだよ」
「酷っっ!!!」


でも、或は―

黄瀬の想いが強ければ、それは彼女に届くやもしれん。
恋愛に疎い俺には良く分からんが、百戦錬磨の黄瀬の心を解かした女なら―

「…俺も少し、見てみたくなったのだよ」
「……えっ!??」

その黄瀬を動かした情熱の様に、もしも彼女が奇跡を呼ぶ事が出来るなら。
この柔軟な外見とは裏腹の、大切なものには臆病で不器用な男の恋の行く末を。

俺は口の端を緩め、騒ぐ黄瀬を適当にあしらいながら、緑濃く香る風の中を歩き出した。

2016.9.10


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