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ご主人様の仰せのままに-2-




途中でのインターバルの時、私は冗談半分で『ドリンクです。大坪様』と跪いて配った。
「お、おお…!ありがとう」
流石に大坪先輩は、戸惑いながらも受け取ってくれた。

「何か…凄く良いな。苗字、お前、今度はずっとそれでやれ!」
『…それはお断りします、宮地様』
「ちっ…!刺すぞ!!」

「宮地…w 苗字が、この様に働いてくれるなら、俺は特別に白いちごを持って来てやるぞ?」
『憧れの白いちご…っ!?木村先輩、素敵っ!!どーしよう!?迷う〜!!』
「おい、俺の時とはエライ違いだな? 食い物に釣られやがって!」
頭、掴んでグリグリするの、止めてください。宮地先輩、痛いです…

「名前ちゃん、俺にもちょーだい?」
『はい、高尾様』
「和成様って呼んでみてー♪」
『…では、和成様』
「た…堪んねーっ!」
高尾君はゴロゴロ転がって悶えていた。…そんなに喜んでくれるとは。
恥ずかしい服でも、着た甲斐があったな。

緑間君は、そのやり取りに、苦虫を噛み潰した様に顔を顰めていた。
「…お前は、今日は俺の専属のメイドなのだよ! 他の男にそんな事は、しなくてもいいのだよ!」
『そんな訳にはいかないよ。私はメイドの恰好してるけど、本来はマネージャーとして来ているんだよ?』
「……俺には、メイド風に対応しないのか?」

それで機嫌が悪いのか…?
私は軽く溜息を吐くと、一息整えた。そして、にっこりと笑う。
『…ご主人様…真太郎様、ドリンクはいかがですか?』
「……っ!」

緑間君は目を瞠った。
眼鏡を上げながら「…貰おう」と言って手を伸ばす。
ボトルを手渡す時に、互いの手が軽く触れた。

びくりと緑間君の手が震える。
それに、私の両手が彼の手を優しく包み込んだ。
『…しっかりお持ち頂かないと、零れます』
「あ、ああ…』

緑間君はそっぽを向いているが、耳が赤くなっていた。
『膝…』
「ん……?」
『テーピングしますか?』
「ああ…頼む」
『…では、失礼します』
私は軽く一礼して、彼の膝にテープを巻き始めた。

『では、行ってらっしゃいませ。勝利をお祈りしております、ご主人様』
畏まって頭を下げた私に、緑間君は口元で微笑みを返す。

「…名前は俺のラッキーアイテムだ。人事を尽くした俺に祈るまでもない。が、激励は受け取っておくのだよ」
試合に戻る緑間君の背中が、とても大きく頼もしく見えた。

※※※

-黄瀬side-

「…いいなぁ。秀徳の奴ら…」
森山先輩は、秀徳のベンチを見ながらぼそりと呟いた。
それに、俺が賛同する。
「あれは…ズルいっス。あんな可愛いメイドがマネージャーやってたら、俺達も否応無しにモチベーションが上がるってもんスよね!」

「贅沢を言うな黄瀬!」
笠松先輩がチョップで突っ込みを入れる。

「あんなのがいたら…俺達は試合になんないだろっ!?」
「痛いっス〜俺達って…メイドに限らず、笠松先輩は女の子がいたら、それだけで緊張するんじゃないスかー?」
「だから、俺達は無理なんだよ!!色ボケした奴らに負けるんじゃねーぞ!?」
「色ボケ…東の王者も酷い言われ様だな…」
小堀先輩も呟く。

「全く、笠松先輩はストイックっスよね。…女性の応援は、古来から男を励ます効果があるんスよ?」
「いい事言うなぁ、黄瀬!」
森山先輩は賛同するが…イヤな予感がするっス。
「俺達もメイドの成り手を探そう。んじゃ黄瀬、女の子の紹介、宜しく!」
やっぱり…こうなるんスね… 俺はこっそり呟いた。

「…先輩達は三年生…もう、この試合が終わったら引退っスよ?…それでもメイドを探すんスか?」
「俺はOBとして参加するよ。メイドさんに傅かれる為ならば、一年くらいは棒に振っても惜しくはない!!!」
「森山、バカ言ってんじゃねー!!!」
笠松先輩の蹴りが炸裂した。…この三位決定戦…大丈夫なんだろうか…?

今回は、怪我で主力になれなかった俺は、そっと溜息を吐いた。
来年のリベンジを、心に秘かに決意しながら。
「負けないっスよ、緑間っち!…次こそ、メイド服マネを使って…モチベーション上げて秀徳を蹴散らしてみせるっス!!」
俺は人知れず、ドリンクのボトルを握り締めた。


結果として、秀徳は海常に三位決定戦で勝利した。

※※※

-名前side-

試合後、緑間君と黄瀬君が会話を交わしていた。

「勝負はお預けだ。次こそお互い全力でやろう」
「緑間っち…当たり前じゃないっスか!俺が出てたら勝ってたっス、絶対!」
「このっ…返り討ちにしてやるのだよ!」

「…それにしても、秀徳はメイド姿のマネなんて…びっくりしたっスよ!お堅い進学校とは思えなかったっス」
「……あれは、今日の蟹座のラッキーアイテムなのだよ。今日限り…のつもりだったが、思わぬ効果があったのだよ」
「ラッキーアイテム…おは朝っスか?…緑間っちは相変わらずっスね」
黄瀬君は苦笑している。

彼等は私を見ながら、何か話を続けている。
「確かに…秀徳マネのメイドを見てから、先輩達も大騒ぎしているっス。俺達も来年からは、メイドを使おうかとの話も出ているんスよ」
「…苗字は俺のだ。やらないのだよ!」
「分かっているっスよ。悔しいけど…仕方ないっスね」

私は、彼等を見ていたら、監督に呼び止められた。
「苗字」
『何でしょう?監督』
「……今日の帯同、ご苦労だった。お陰で選手達も、いつ以上に調子が上がった様だ。……それで、ものは相談なんだが」
中谷監督は、組んだ手を顎に乗せながら、軽い貧乏揺すりをしている。私はイヤな予感がした。
「次の試合からは、その姿で行ってはくれないか?」

……は!?

『い、いや…!?今日は、緑間君のラッキーアイテムだったから、こうしたのですよね? これがデフォじゃないですよ!?私は!!!』
何その羞恥プレイ!?ずーっと、メイド服着て、メイド風に他校の前でも、マネやれって言うの!?無理無理無理っっ!!!!

「…しかし、今日の君の姿を見て、他の高校も取り入れる所が出るかもしれない。
…そうなれば、苗字も、更に抵抗なく着れるのではないか?」

帯同マネージャーのメイドコスが定番になるとか、ねーーーーよ!!!!!!
私は心の中で絶叫する。

どうしたものか、私が反論を考えていた時、私の肩に手が置かれる。

「監督」

見上げると、緑間君が横に立っていた。
彼は、眼鏡のブリッジを軽く上げると、私を引き寄せた。
「苗字は、メイドになるとしても俺の専属です。他の者に対してもやらせるなら、別の者の手配をお願いします」
「…緑間」
監督は、はぁ…と溜息を吐くと、分かった、苗字は諦める、と言った。

……え?

『…ちょっと待て。私が何で、緑間君の専属メイドになるのよ!? 今日だけでしょ?』
大体、私は、やるとか一言も言ってない!

「心配しなくても、俺が一生、専属メイドとして雇ってやるのだよ」
『何それ、一生って!? ずっと緑間君の専属使用人になれっての!?』

「名前…お前は俺のものだ。…誰にもやらないのだよ」

緑間君に抱きすくめられて、耳元で甘く囁かれた。
「今日の蟹座は、ラッキーアイテムはメイド。大切なものが手に入る、とあったのだよ」

緑間君の言葉を聞いた私は、嬉しいのと恥ずかしいので全身がじわじわと熱くなった。
きっと、私の顔は真っ赤になってしまったに違いない。

そして、返事を訊かれた私は、頷きながら『…はい、ご主人様の仰せのままに』と返してしまったのだった。

メイドの姿になれば、心理もメイドに同調し易くなる。…上手く行ったのだよ、と、
緑間君が呟いた様な気がしたが…それは、きっと気のせいだよね?…そう言う事にしておこう、うん。


END

※※※

緑間に頼まれてメイド服を着る、とのリクエストでした。

最初に、このリクを頂いた時は、びっくりしました。
…割とあるけど…それだけに、書こうと思った事が無かったから。

文化祭とかは…どこぞで読んだ様な話になりそうで。
で、いっそ公式試合に着せて行ってしまえ!と、なりました。…我ながら無茶苦茶ですな。

規約は一応調べましたが、実際はどうなんでしょうか?
実際に着て行った場合、次には禁止事項に加えられたりして。

この場合、反応が一番楽しそうなのは海常だと思って、それに当てはまる試合にしましたが、
原作では、かなりシリアスに(さくっと端折られましたが)描かれていましたね。…ギャグにしてしまって、すみませんです。

でも書いていて、とても楽しかったです。
リクエストくださった方、ありがとうございました!!




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