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Two of us-2-




夜、食事と風呂が一通り済んで、私は一息ついた。
もう、かなり遅い時間だ。私は廊下の一角にあるロビーで椅子に座り、そこにある週刊誌を捲りながらジュースを飲んでいた。

宿のお爺さんが、荷物を抱えて横を通り過ぎて行く。
ポロリと荷物から、タオルらしき物が零れ落ちた。
私はジュースをテーブルの上に置き、落とし物を拾い上げた。
『お爺さん、…落し物ですよ?』あれ?
お爺さんは聞こえないのか、どんどんと先を歩いて行く。
『あっあの! これ、落としましたけど?』

耳が遠いのかな…?
私は慌てて後を追った。

私が追い付いた場所は男風呂。
もう閉める時間なのか、浴室でお掃除を始めている。
私は、お爺さんに落し物を渡して、浴室から脱衣所に出ようと扉に手をかけた。

ガララッ

その時、扉がひとりでに開き、私は驚いて硬直した。

そこには、裸にタオルをかけただけの火神君が立っていた。
「風呂…って…あ」
『きっ…きゃああああああーーーーーっっっ!!!!???』
「おい待て、苗字っ!!!???」

私は、パニックを起こして走り出した。
後から火神君が追いかけて、私の腕を掴んだ。
『い、いやーーーっ!!離してぇ!!!』
「おい、だから落ち着けって!!!」
そのまま後ろから羽交い絞めにされ、手で口を塞がれた。

私の悲鳴を聞き付けて、慌てて真太郎が出て来た。
「何だ!?どうしたのだよ、名前っっ!??」

私と火神君を見た瞬間、真太郎が息を飲む。
「火神ーーーーーっっ!!!!!」
「み、緑間!? いや、これには訳が…っ!!」
「素っ裸で、女を羽交い絞めにするなど破廉恥な!!!どんな訳があると言うのだよっ!!??」

その時、黒子君が仲裁に入った。
「落ち着いてください、緑間君」
「黒子…!」
「火神君も、苗字さんを離してあげてください」
「あ、ああ…わりぃな…」

私は解放されて、二、三歩よろけ、黒子君に腕を捕まえられて支えられた。
「大丈夫ですか?苗字さん」
『あ、うん。…ごめんね? 吃驚して…騒がせてしまって』
そして私は、火神君にも謝ろうと向き直り…再び硬直した。

「…あ、やっべ!」
「…火神君、早く下半身を仕舞ってください…!」

※※※

『…はぁ』
全く、昨夜は散々だった。
あの後、高尾君には弄られるし、真太郎には怒られるし。

私は、木村先輩からタオルとシャツを取って来てくれる様に頼まれて、秀徳メンバーの泊まる部屋へと歩いていた。
メンバーは今、体育館に居るから、部屋は無人の筈。

軽い音を立てて、襖を開く。
『…あ』
真太郎が一人、着替えをしていた。
Tシャツを脱いで、上半身が裸だ。

私は、昨夜の騒ぎを思い出し、出来るだけ平静でいようと声をかけた。
『真太郎、着替えている所ごめんね?…ちょっと失礼するね』
そして彼の方を見ない様にしながら、木村先輩に教えられた場所を探し出す。

『ああ、あった。これね?』
私は荷物を抱えて、そのまま外に出ようとした…が、いきなり手首を掴まれて、部屋に引き戻される。
『真太郎っ!?』

そのまま真太郎は、私の両手首を持ち、壁に押し付けた。
『…どうしたの? 痛いんだけど』
つか、上半身裸のままで、この状態って。それこそ彼の言う破廉恥じゃないのか?

真太郎は、私の顔を覗き込んだ。至近距離で見た翡翠色の瞳は、強い光を湛えて私を映し出していた。
「名前。お前は…火神の時は、あれ程騒いだのに、俺の時は何でもないのか?」
真太郎の声には、苛立ちと怒気が籠っていた。
『いや、だから早く着替えてよ!?』いくら幼馴染でも、恥ずかしいに決まってんじゃん!!意味、分からないよ!!!
「名前…」

真太郎は低く呟くと、私の額に唇を押し付けた。
『…え……?』

……今、私…何をされたの?

額の感触に理解がやっと追い付き、全身が羞恥でかっと熱くなる。

手首の拘束が緩んだ瞬間、私は彼の腕からすり抜けた。
そして、落とした荷物を慌てて拾い、後も見ずに部屋を飛び出した。


それから、私は恥ずかしくなってしまって、真太郎と目を合わせる事が出来なかった。
声をかけられても、ついつい避けてしまう。
……好きな人に、こんな態度ではいけない、と思ってはいるんだけど。
真太郎の性格考えると、きっと傷つけてしまっているのも分かっているんだけど。

…何で、あんな事したの?
私は単なる幼馴染で、何とも思っていないんじゃ無かったの?

聞きたくて、彼を目線で追ってしまうけど、彼が私を見た時、どうしても視線を外してしまう。
私は戸惑いながら、未だ温かな唇の感触が残っている額に手を当てた。

※※※

ガコッ!!
体育館で、3Pシュートを外してしまった緑間を見て、高尾は首を傾げた。
「どったの?真ちゃん??シュート連続で外すなんて珍しくね?」
具合でも悪いのか?…と、横目で相棒を観察する高尾。
顔色も悪いし…練習に身が入ってないって。

その緑間が、ぼんやりと視線をやっている場所を見て、何となく察しが付いた。
その目線の先には、合宿に連れて来た緑間の幼馴染がいる。
彼女は、黒子や誠凛の連中と親し気に話していた。

そーいや…何か、昨日からこの二人、様子がおかしいよな…?
火神との騒動があってから、何となく落ち着かねー様子なんだけど…これは何かあったな?

「真ちゃん」
「…何なのだよ?」
「名前ちゃんってさ、可愛いよな?…誠凛でも、さぞかしモテるんじゃねーかな?
……俺、アタックしちゃおーかなー?」
「高尾っっ!!!」

その時の緑間の表情には、高尾も驚いた。
いつものポーカーフェイスはどこへやら、顔を真っ赤にし、唇をわなわなと震わせている。

「……しねーよ」
「は…?」

高尾はポンポンと緑間の二の腕を軽く叩く。
「俺は相棒と恋敵になるつもりはねーよ。もし要らないっつーんなら、遠慮なく貰うけどな!」


「名前ちゃん、ちょっといい?」

私は休憩時間に高尾君に呼び出された。

「君さー、真ちゃんの事好きだろ?」
『……!!??何で分かったの!?』
私の返答を聞くなり、高尾君は吹き出した。

「ブフォwwww!!! そりゃ最初から、二人で旅行とか言ってりゃ、誰だって分かるっつーの!!www
…分かってないのは、真ちゃんだけだと思うぜ?」
『…やっぱり?真太郎って、恋愛感情には壮絶に疎いからねぇ…』
私は溜息を吐いた。

高尾君は真顔になった。
「でも、今のままじゃマズいと思うぜ? 名前ちゃん、真ちゃんの事避けてね?」
『…避けてるよ。真太郎とちょっとあって…意識し過ぎちゃって…』
思い出すと、恥ずかしくなって口を押えた。

「……真ちゃんは、そう思わねーだろーな。嫌われてる、と勘違いしてるかもな?」
『…!!!それは…っ!』

確かに、高尾君の言う通りだ。
私は自分の感情を優先するあまり、真太郎の気持ちを考えられてなかった。
私は、ぐっと手を握り込んだ。

『今まで幼馴染だったから、好きになって…傍に居られれば、それだけで良いと思ってた。
…でも、真太郎の反応見たら、どうしていいのか分からなくなって…
ちゃんと気持ち伝えて、向かい合わなければ後悔…するよね?』

高尾君は、私の頭をポンポンと叩いた。
「ああ。俺の相棒を幸せにしてやってくれよ?…頼むぜ?名前ちゃん」
『…ありがとう。高尾君!』
真太郎、秀徳に行って良かったんだな。心から嬉しくなって、私は笑顔を浮かべた。

※※※

私は海辺の水際を歩いていた。
『えっとー…中々見付からないな、桜貝』

明日の蟹座のラッキーアイテムは桜貝。
あっても、欠けたり割れたりして、綺麗なのが見付からない。
『真太郎は練習が忙しいからな…夜じゃ見付けにくいし』

晴れ渡る空の光を反射して、海は青くキラキラと輝いている。
『……綺麗だなぁ』
抜ける様な開放感に、私は目を細めた。

出来れば真太郎と一緒に、こんな綺麗な海で遊びたかった。
楽しそうな海水浴客を横目で見ながら、溜息を吐く。
『…あ!』
漸く欠けの無い、綺麗な形の桜貝を見付けて、私は拾い上げた。

『あったー♪って…何だろ、これ??』
そこから少し離れた所に、青い透明な小さな袋が砂の上にあった。綺麗な色をしている。
ふと好奇心で手を伸ばしたら、突然、横から出た手に強く掴まれてしまった。

『……?真太郎??』
「触るな!!!」

真太郎の剣幕があまりにも凄いので、私は思わずびくりと手を止めた。

「これはカツオノエボシだ! 触手に触ると、猛毒の刺胞に刺されるのだよ!!」
『えっ!?』
「…生死関係無く、触れた刺激により刺胞は発射される。触手は長いから近寄るな!」
『…そうなんだ…』

海洋生物って…よく分からないな。こんなに綺麗な色してるのに、猛毒だなんて。

「…で?」
『は?』
「名前は何で、一人で海岸にいるのだよ?」
『ああ。……真太郎、これ』

私は、真太郎に手の中の貝を見せた。
「……桜貝か。明日の蟹座のラッキーアイテムなのだよ。……探していたのか?」
『うん。真太郎に必要だと思って』
「……そうか。…ありがたくいただいておくのだよ」

真太郎がフッと笑った。
私も表情を和らげた。

『ねぇ、真太郎?』
「何だ?」
『私ね…好きな人とこうやって、一緒に海岸を歩きたかったんだ。…だから…少しだけで良いから…』
私は手を差し出した。

『付き合ってくれる?』

真太郎は目を瞠った後、眼鏡に手をかけて顔を背けた。
その反応に不安になる。
『真太郎…?』

真太郎は、頬に赤味を増した顔を向けると、私の手を優しく取った。

「……奇遇なのだよ。俺も…こうして名前と一緒に歩きたかった、のだよ…」

そして真太郎は屈んで、私の耳に口を寄せて囁いた。
「……ずっと、な」

END

※※※

亜美様

楽しんでいただけたでしょうか?
「緑間の幼馴染設定、ギャグ甘夢、合宿」とのお題をいただきました。

中学か高校か…散々迷いましたが、原作にある秀徳+誠凛の合宿にしました。
帝光だとキセキが出張りそうだし。(短編では収まらん!…多分w)

思ったより、ギャグと甘の両立が難しかったですが、書いていて楽しかったです。
しかし…何故か裸祭に…ww

以前「Rhapsody in Green」で書いた時とは、異なる感じにしたかったです。
幼馴染設定は初めてなので、活かせたかは分かりませんが。

素敵なリクを、ありがとうございました!




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