純白の夢
Riq.no12 (黄瀬の双子姉とキセキ。日常でほのぼの)(黒子か赤司より)
*夢主設定 黄瀬双子姉 デザイナー志望で手芸部所属。帝光中二年。
※※※
『涼太!』
私は、沢山の女子達に囲まれている弟に声をかける。
「…あ、黄瀬さん」
女子達は通常は、馴れ馴れしく涼太に近付く娘にはキツイ視線を浴びせるが、私は彼の姉と言う特権のせいか、すぐに通してくれた。
それに軽くお礼を言いながら、弟を教室の外に連れ出した。
涼太は大きく息を吐き出した。
「あーあ、女の子達の相手も疲れるっスー!」
『なら、あんなに愛想良くしなくてもいいじゃない?』
「俺、一応人気商売もしているんスよ?…女の子は、一度敵に回すとおっかねーんスよ!」
『…あんた、私も一応女の子だって分かって言ってんの?』
「ねーちゃんは別っスよ!だって、いつも俺の味方っスからね!」
涼太は懐こく笑った。
…まぁ、あんたをモデルに売り込んだのは私達姉だもんね。…あそこまで人気者になるとは想定外だったけど。
「黄瀬…名前さん」
『…?』
私に、かけられた声の主を探す。
彼は、ひっそりと廊下の隅に佇んでいた。
影の薄い、水色の髪の男の子。
『あら、黒k…』「黒子っちーーーーぃ!!!!」
私よりも先に、涼太が黒子君に飛び付いた。黒子君は迷惑そうな顔をしている。
…ゴメンね?不肖の弟で…
黒子君は涼太には目もくれず、私に淡々と話しかけて来る。
「…名前さんが、僕の文化祭用の衣装を作ってくれると聞きました。それでサイズを計りたい、と」
「あれっ!?俺は無視っ??」
「煩いですよ、黄瀬君!」
『うん。それで、これから涼太の衣装と黒子君の衣装の採寸を取るから、被服教室に来て欲しいんだけど』
黒子君は、柔らかく微笑んだ。
「名前さんが、僕の為に衣装を作ってくれるなんて…嬉しいです!」
『ウェイター服だったよね。もうデザイン画描いたから、型紙に起こして…その為に、採寸が必要なんだ』
そして私は、床にのの字を書き出した涼太を振り向く。
『涼太も、そんな所でいじけてないで! あんたのコスプレ服も依頼されてるんだから!!』
二人を採寸し終えて、私達は被服室を出た。
そこへ、待ち構えていた様に、赤い髪の彼…赤司君が立っていた。
「赤司っち!?」「…赤司君?」
「やあ、名前さん。…精が出るね。文化祭用の衣装作りかい?」
『ええ、そうだけど。赤司君? どうしたの??』
「…俺も是非、君に依頼したいものがあるんだが、良いかな?」
私は暫し思案した。
『…悪いんだけど…文化祭用の衣装なら、この二人で私は手一杯だから…他の人に当たって欲しいんだけど?』
「なに、文化祭が終わってから手掛けても間に合うよ。…実は、俺の家の事業の方なんだが」
『……えっ!?…赤司さんの…事業?』
「アパレル部門で、アマチュアのドレスファッションショーを開催する事になったんだが、これに是非出て欲しいんだ」
『赤司財閥で!?』
「優秀と認められれば、留学支援とドレスデザイナーとして新ブランド立ち上げる支援もする。悪い話ではないだろう?」
『…確かに…ドレスデザイナーなんて…私の夢だけど…』
私は呆然と呟いた。
そこに至る道が険しい事位は承知している。
私はまだ勉強途中で…実力が伴っていないのは、自分でも良く分かっているつもりだ。
いきなりチャンスが降って沸いたからと言って、掴めるとは限らない。…けど。
これもまた、いい経験となるかもしれない。
『その話…聞かせてくれるかな?』
私の答えを聞いて、赤司君はその綺麗な顔を綻ばせた。
※※※
-黄瀬side-
赤司っちが名前姉ちゃんを連れ去った後、俺は黒子っちと歩いていた。
「…赤司っち…姉ちゃんに何かあるんスかね?」
「……どういう意味ですか?黄瀬君」
「姉ちゃん、確かにデザイナー志望だけど、ドレス分野に進みたいとまで知ってるなんて…どこで調べたんスかね?」
因みに俺は、赤司っちに名前姉ちゃんの夢の事は一言も言ってない。
姉ちゃん達の中でも、双子で一緒に行動する事の多かった名前姉とは、俺とは特に仲が良かった。
名前姉ちゃんは、本人は天然で自覚無しだけど、俺に似て華やかな容姿なので、あれで結構モテる。
俺は、彼女に近付く気配のする男達は見えない所で牽制していた。
変な虫付ける訳にはいかないっスからね!
黒子っちは俺をちらりと見上げた。
「…黄瀬君は、結構シスコンですよね」
「何とでも言うっスよ!名前姉ちゃんには、例え黒子っちと言えども、簡単にあげる訳にはいかないっス!!」
「…名前さんは魅力的な方ですけど、黄瀬君が義弟になると思うと…ちょっと嫌です」
「黒子っち!?…義弟って!!??」名前姉はあげられないけど…それはそれでショックっス…
-名前side-
『うーん…』
家に帰ってから、自室で型紙に起こす作業を始めてはいたが、私はさっきの赤司君とのやり取りに頭を悩ませていた。
「姉ちゃん?…どうしたんスか?」
風呂上がりの涼太が、髪を乾かしながら部屋を覗き込む。
『ああ、いやね、あの赤司君の申し出の話なんだけど』
「ああ。ファッションショーの…」
『赤司君、そのファッションショーに私が出品する条件を出して来たんだけど、その内容がね…』
「何なんスか?」
涼太はコテンと首を傾げた。
『………私にウェディングドレス作って、それを着て出ろ、だって』
「ウェディングドレス…!?」
『それで私が、ブライダル事業もやるんですか?って聞いたんだけど、それは私だけの条件なんだって。おかしいと思わない?』
「……確かに…何で、姉ちゃん限定でウェディングドレスなんスかね…?モデルも作り手で…?
他に何か赤司っちは言ってなかったっスか?」
『ああ、そう言えば…それ着て俺の隣に立てってさ』
「ぐはっ!?」
『涼太っ!?』
見ると、涼太が手を滑らし、ドライヤーのコードに髪を絡み付かせてしまっていた。
「痛っ!!このまま引っ張ると禿げるっス!!」
『ちょっと、スイッチ切ってじっとしてなさい!!』
「ちょ、姉ちゃん、裁ち鋏持ち出さないでーっ!!!」
「……ああ…吃驚したっス…」
吃驚したのはこっちだよ。
涼太の髪が無事に解けて良かったけど。…これで彼の頭をチリチリにでもしたら、私がファンに殺される。
涼太は真剣な瞳を向けて来る。
「…で。姉ちゃんは、その条件を飲むんスか?」
『……またと無い機会なんだよねー…チャンスが転がっているのに、みすみす逃したくはないのよ』
「姉ちゃんは…その意味、分かってるんスよね?…ウェディングドレス着て、赤司っちの隣に立つ…その意味が。
それでいいんスか?……赤司っちの事、好き、なんスか……?」
涼太に真直ぐ見つめられて、私は困惑した。
……やっぱり、それって、そう言う意味、なのかな…?
ただファッションショーに跡取りの彼が色を付ける、とかは虫が良すぎる考えなんだろうか。
『…単なる演出って事は…?』
「赤司っちは、そんな無駄な事はやらないっス」
涼太がバッサリと切ったが、私はまだ信じられないでいた。
『…赤司君、モテるのに…何で私なんて……』
家柄だって、そこまでじゃないし。私より可愛い娘なんて、それこそ沢山いるのに。
「だから…赤司っちは箔を付ける事にしたんじゃないんスか?
新進気鋭のドレスデザイナーとだったら、相手としても中々のモンだと思うっス」
私は涼太の言葉を聞いて黙り込んだ。
いや、いくら何でもまさか。
そして、自分の心に自問自答してみる。
私は、赤司君が好きなのか…?
勿論、嫌いではない。どちらかと言うと好きだけど。…でも実際に恋心と言うには曖昧過ぎて、まだ確信が持てない。
そして私は、その赤司君と並び立つ覚悟が今の所は全然無い。
将来の夢に繋がる機会を逃すのは辛いけど……それは赤司君を踏み台にするみたいで憚られる。
私は……
そう、夢を叶えるのは遠回りになっても、恋心を犠牲になんてしたくないし、もし赤司君が好きになったとしても、条件と引き換えになんてしたくない。
全てを失うかもしれなくても、私は私で自由でありたい。
私はフッと微笑んだ。
『…涼太、私…覚悟が出来たわ。赤司さんにお断りして来るね』
「姉ちゃんなら、夢も恋も、どっちも自分の力で手に入れられるっスよ! 何せ俺の姉貴っスからね!!」
涼太もにっと笑った。
※※※
そして、赤司君に直接お断りをする…つもりだった。
私がお断りをしていた時の赤司君は無表情で……彼が私に向き直った時には、威圧感が膨れ上がっていた。
『あ、赤司君…?』
私は思わず一歩後退る。
赤司君から発する気が、私の意思を圧倒し、縛り上げる。
でも彼の態度は、あくまでも穏やかだ。
「…名前、君が俺を利用する、との罪悪感があるなら気にしなくてもいい。
俺の方も、君の才能を利用させて貰う訳だからね。だからお互い様だ」
『…でも』
「君は自分の力が及ばないと言う。…でも、それなら…いつ君は、それに挑戦するんだい?
例え及ばなくても…挑む価値はあると思わないか?
勿論俺にとっては勝利する事は当然だし、君にその力があると見込まなければ、こんな話は持って来ないけどね」
「君は俺を踏み台にして羽ばたいて欲しい。…そして、俺の横に立つに相応しい女性になって欲しい」
『…私、まだ…赤司君が好きだとかは無い…のですけど?』
「構わないよ。別に今すぐ心を決めろ、と言っている訳では無いからね」
「でも、君は、いつかきっと俺を好きになる」
『………!!!』
赤司君の瞳は、確信を持って私を捉えた。
私は思わず身震いした。
とにかく当座は、その事は抜きにドレスデザインを考える。
結局、私は彼に説得されてしまったのだった。
文化祭のコスチュームは、とても評判が良かった。
黒子君のウェイター服は、主に桃井さん限定で評判が良かったのだけれども。
勿論、良く似合っていたが、モデル本人の影の薄さで、気が付く人が少なかったのである。
そして涼太の方は、18Cフランス将校風+宝塚風味だもので、失神する女子多数、実際は縁日だったらしかったが、写真撮影大会になってしまったらしい。
…紫原君のドレス姿…あれは私ではないが、出来たらちょっとやってみたかった。…残念w私は、黒子君に相談していた。
文化祭も終わり、そろそろドレス制作に取り掛からなければならない。
赤司君は自分が横に立つ事は気にしなくていい、と言ってはくれたが、このままだとなし崩しに流れて行きそうで少し怖い。
「…赤司君がそう言ったのですか?」
『…うん。それで黒子君は、どう考えるか聞きたくて』
黒子君は、小首を傾げてから、私を真直ぐに見た。
「赤司君は…名前さんを周りに認知させて、先に既成事実を作ってしまうつもりではないかと思います」
『き、既成事実っ!?』
「赤司君は財閥の跡取りです。付き合う人は、まずそれに相応しいと赤司君と周りの評価が一致しなければなりません」
『だ、だから、私なんかとても…!』
はぁ、と黒子君は溜息を吐いた。
「赤司君は、名前さんは自分に相応しい人だと思っていなければ、その様な事を提案しません。
…でも、普通の家の名前さんは、それだけでは周りからは認められないかもしれない。
君の能力を認めさせて…それだけでは無く、赤司君の特別だと周囲に認知させる。その様な意図ではないかと。
名前さんの気持ちは、後からでも向けさせる自信があるのでしょう」
私は怖々と黒子君に訊いてみる。
『…その認知、どうにかならない?』
「赤司君は、どの様な手段を取っても、目的は果たす人です」
絶望的じゃん、それって…
『分が悪い…なんてもんじゃないね?』
何でドレス作るだけじゃいけないのかなぁ…もう。
私も溜息を吐いた。
「一つ…躱す方法がある、かもしれません。…後が怖いですけど」
『えっ!?』
「ただ、それには黄瀬君の協力が不可欠です」
私は、その方法を聞き…暫し唖然とした。
しかし、あの赤司君の裏をかくには、その方法しか思い付かない。
私は覚悟を決め、涼太を呼び出した。
※※※
ファッションショー当日、私は会場の控えでドレスを調えていた。
今の私の力を尽くした純白のドレス。
これが吉と出るか、凶と出るか…?
でも、もう思い悩むのは止めた。
「まだ着替えていないのか?」
赤司君に後ろから不意に声をかけられて、私の心臓は跳ねた。
『え、ええ。最終チェックしてますので』
「成程。念入りだね」
『…私としても、全力を尽くしたいですからね。…そろそろ着替えなくてはなりません』
私が言外に外へ出てくれる様に、と促したのを察して、赤司君は「君の花嫁姿、楽しみにしている」との言葉を残して出て行った。
私はゆっくり息を吐いた。
「涼太」
私は弟の名を小さな声で呼び、それに応えた涼太が物陰から姿を現した。
私は舞台袖に立っていた。
もう少しで私のドレスの初披露の舞台だ。…足が震える。
「名前姉、大丈夫っスか?」
隣にいる涼太が小声で聞いて来る。
『…ええ。私はやれる事は全てやったわ。…後は涼太、お願いね?』
涼太はいつもの自信満々な笑みを浮かべる。
「俺はプロっスよ! 任せるっス!!」
そして、司会者の合図と共に、光の中に足を踏み入れた。
[…エントリーナンバー9!黄瀬名前!!]
会場の歓声はどよめきに変わった。
「名前…」
赤司君が私の横に立つ。
「…俺は、君にあのドレスを着て欲しい、と言った筈だが?」
私は今は、地味なスーツ姿で舞台袖にいる。
彼の幾分か怒りを含んだ声に、私は飲まれぬ様に努めて冷静に返す。
『…あのドレスを表現するのに、私よりも涼太の方が合っている、と思ったまでです。それで失格になるなら仕方ありませんね』
「……やられたよ。確かに、あの大胆で優雅なドレスは、普通の女性が着こなせるデザインではないな」
『一般向けのコンセプトには相応しくないかもしれません。…でも、既にあるデザインを超える試みは今しか出来ない、と思ったので。
挑戦する機会を与えてくれた赤司君には感謝しています』
「…ますます…気に入ったな。君は思ったより、冒険心の旺盛な女性だね」
『……は?』
怒られる、と思ったら、想定外の台詞を聞き、私は耳を疑った。
「君の着るウェディングドレスは、本番用と言う事だな。楽しみが後に延びたな」
『………え?』
赤司君は不敵な笑みを浮かべ、私の頬を優しく一撫ですると、優雅に歩き去った。
END
※※※
「黄瀬の双子姉とキセキ。日常でほのぼの」(黒子か赤司より)とのお題をいただきました。
…書いてて思ったのですけど、あまり「日常」ではありませんね。
何故か派手だし。バスケも全然やってないしー?
でも、黄瀬姉の日常…なのかな?
キャラの身内=夢主設定は初めて書いたので、中々新鮮でした。
この後は端折っていますが、黄瀬姉はコンテストでは何らかの評価は貰えたと思います。
ドレスはサイズが違うから、赤司君は控室で見た時に気付いたかもしれませんが。
リクエストくださった方、ありがとうございました!!