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刹那の逢瀬




Riq.13 (緑間長編夢主・wcに向けて練習する緑間が、ヒロインで充電するみたいな甘いお話)

*設定 夢主は「Rhapsody in Green」の主人公。高1秋

※※※

そろそろ残暑から、本格的に街は秋の装いを始める。
秀徳バスケ部は、IHの惜敗からWCに向けて毎日猛練習に明け暮れていた。

私は授業が終わり、HRを終えた後、教室の掃除に加わっていた。

「…名前、手伝うのだよ」
真太郎が私と一緒に箒を持ち、床掃除を始めた。

『今日は、真太郎は当番じゃないんでしょ?』
「そうだが。でも、手伝いは一人でも多い方が早く終わるだろう」
『……嬉しいけど、先輩に怒られちゃうよ?』
「心配ないのだよ。今日はバスケ部の方に出るのだろう?」
『うん。美術部は昨日行ったから』
「なら…」

「苗字さーん!ゴミ捨てて来てー」
『あっ、はーい!』

私はクラスメイトに返事をした後、クルリと真太郎の方を向き、手を振った。
『これ捨てたら、すぐに部活行くから、真太郎は先に行ってて!』

ゴミを持って行こうとしたら、後ろから肩をとんと軽く突かれた。
「これは俺が持ってってやるよ。名前ちゃんは真ちゃんと一緒に行って?」

高尾君だった。
『えー、でも悪いよ。和成君も当番じゃないのに』
「いいから!」高尾君は私の持っていたゴミを半ば奪う様に引き取った。
そして彼は声を潜めて耳打ちする。
「昨日は真ちゃん、名前ちゃんがいなくて機嫌超最悪だったんだよ。俺からも頼むよ!」
『あ…うん。分かった』

真太郎は、そんな私達を見て、苛立たし気に眉を顰めた。
「名前、何を高尾と内緒話をしているのだよ!」
『な、何でもないよ』
「……俺には話せない事なのか?」
『違うって!……これ終わったら、一緒にバスケ部に行こう?』
「あ、ああ…俺も、そう言おうと思って…いたのだよ」
真太郎は愁眉を開き、僅かに口を綻ばせた。

「苗字はいるか?」
『あっ、はい!』
今度は現国の担任が来た。
「お前、図書委員だったな。掃除が終わったら、このリストにしておいた本を職員室に持って来てくれ」
『……はい』

ああ…仕方ないとは言え、真太郎と一緒には無理そうだ。
私は溜息を吐き、真太郎に謝りに行った。

※※※

『ああーっ遅くなったーーっ!!』
あれから、リストの本を探すのに手間取り、当初想定していたより、かなりの時間が経ってしまっていた。
でも、これから真太郎達と一緒に部活が出来る。

『遅くなってすみません!!』
急いで更衣室で着替えた私は、体育館の扉を開ける。

既に体育館の中では、激しい練習に部員達が汗を流していた。

「お、苗字か。丁度良い、買い物頼まれてくれんか?」
大坪先輩が私を見るなり、買い物メモと封筒に入ったお金を渡す。

『ええと…ドリンクの粉末とテープと洗剤とコールドスプレー…』
他にも文房具とかタオルとか色々とある。…これは時間がかかりそうだ。
私は確認して了解し、一人で買い出しに出た。

買い出しは種類が多く、幾つかの店を回らなければならなかったので、時間がかかってしまった。
戻ってからは、溜まっていた洗濯にドリンク作りに…他にも雑用を片付けていた。

『…忙しい割には、体育館にはあまり居られなかったな』
それでも、今日は真太郎と一緒に帰れるといいな。
明日は、美術部で文化祭用の絵を上げなきゃ…でも、もう少しバスケ部も出たいなー

私は、ぼんやりと洗濯籠を持ちながら歩いていたので、足下が些か疎かになっていた。
体育館の扉のレールに、足を引っ掛けて転びそうになったが、誰かが私の腕を掴む。
『あ、真太郎!?』
「…フラフラしてたぞ。危なっかしいのだよ」
今日は、あまり真太郎といられなかったせいか、私のテンションは否応無く上がった。

「大丈夫か?苗字、疲れてんじゃねーのか?」
近くに居た宮地先輩も声をかけてくれる。

心配そうな真太郎の視線を受けて、私は苦笑いした。
『足下が見えなくって。大丈夫です。すみません』
「気を付けるのだよ」と、真太郎の声に頷きを返し、私は体育館を出た。

※※※

-緑間side-

俺は、名前が出て行った扉を見やり、溜息を吐いた。
宮地先輩の言う通り、名前は、かなり疲れている様に見える。
彼女は二つの部を掛け持ちしているし、片方は文化祭の準備、片方はWCに備えている。両方共熟すのは過酷だ。

それでも、好きでしているんだからと、愚痴も弱音の一つも吐かないのは名前の良い所だが…
「……心配、なのだよ…」
少しは、俺に頼れば良いものを。

「真ちゃん、今日は調子が今一つだね…」
「まだノルマの半分にも行ってないのだよ。対洛山の技も完成せねばならん。高尾、今日は居残り練するぞ」
「ええっ!?…そりゃ、もうちょっと完成度上げておきたい所だけどさ、名前ちゃんは大丈夫なの?」
「……名前は先に帰す。疲れている様だから、少しでも早く休ませたいのだよ」

高尾は不満気に口を尖らせた。
「…いや、俺が心配しているのは、真ちゃんの方だよ」
俺の方だと…?何を心配すると言うのだよ?

俺が不審に思って高尾を睨んでいると、高尾は肩を竦めた。
「誠凛に負けたから、リベンジに燃えるのは当然なんだけどさ。真ちゃん、最近ピリピリし過ぎじゃね?」
「誠凛だけではないのだよ。WCで優勝するには、あいつ等を超えなければならないのだよ」
「あいつ等って…他のキセキ達の事だろ?…分かるけど。でも、がむしゃらにキリキリし過ぎても成果は出ねーと思うぜ。
もう少しリラックスして名前ちゃんとも偶には…」

俺は高尾を小突いた。
「高尾は、いつでもリラックスし過ぎなのだよ!」
「ひっでーな! 俺、これでも心配しているんだぜー!?相棒!!」

今は俺と名前は、お互いに忙しくて、付き合っていても、あまり恋人らしいスキンシップは出来ない。
高尾が言わなくても、俺は自分が名前に餓えているのは分かっている。
…それでも今は、それより優先しなければならない事がある。

俺は黙って、コートの反対側からシュートを放った。
それは、高い放物線を描いてゴールに吸い込まれた。
俺は眼鏡を直し、呼吸を整える。
「高尾、俺が飛ぶから、タイミングを合わせろ」
「了解っ!」
俺は練習に集中した。

今は―これが全てだ。

※※※

-名前side-

部活が終わり、私は彼等が居残り練するなら付き合うつもりだったのだが、真太郎に断られてしまった。
「俺達を待たずに先に帰れ」と言われて、私は肩を落とした。

『…今日こそは一緒に帰れると思ったんだけどなぁ』
何で残ると言ったのにダメだと言うんだろう?
全く…真太郎の朴念仁!!!

私は教室で、ぶすくれながら鞄に荷物を詰めていた。
真太郎と高尾君の席を見たら、まだ鞄が残っている。
『………』
私はそれを見ながら、やっぱり一緒に帰りたいなぁ、と思い…
帰り途中の校内の自販機で、ついフラフラと未練がましくお汁粉缶を買ってしまった。
『真太郎に差し入れするかな』
きっと私は何でも良いから、真太郎といられる口実が欲しいだけなんだ。

私は教室に戻り、その温かいお汁粉缶を抱えると、自席に座って、うとうとと眠り込んでしまった。

※※※

-緑間side-

「くっあー!今日もキツかったー!!」
高尾の言葉に、俺も同意の返事が出来ない程疲れていた。

鞄を取りに教室の扉を開ける。
「あり?」
高尾が入口で不意に立ち止まり、後ろを歩いていた俺は、そのままぶつかってしまった。
「高尾、そこに居られては入れないのだよ!」
俺の苦情を聞き流し、ヤツは教室の中の一点を指し示した。
「…真ちゃん、アレ…」

俺達の席のすぐ近くには、名前が椅子の背に凭れる様にして、微動だにせず座っている後ろ姿が見えた。
俺は慌てて彼女の傍に駆け寄る。
「名前!!何で…っ!?」早く帰らなかったのだよ、と言いかけた俺の言葉は飲み込まれて、最後まで発せられる事は無かった。
「ありゃりゃ〜眠っちゃってんねー」
「…だから早く帰れと言ったものを…」
俺が彼女を起こそうと、肩に手をかけようとするのを高尾が制止する。

「……何で止めるのだよ?」
高尾は小声になった。
「真ちゃん。まだ校門が閉まるまでには、少しだけ時間があるよ?
俺は先に帰るから、お二人さんはごゆっくり〜」

高尾は俺達を置いて、さっさと出て行った。

俺は眠っている名前を見て、溜息を吐いた。
屈んで彼女の寝顔を覗き込む。
「…よく眠っているな」
疲れているのに起こすのも可哀想だが、もうすぐ学校の最終下校時刻だ。
俺は、起こそうと彼女の肩に手を置き―

気が付いたら名前を抱き締めていた。


名前の柔らかく華奢で小さな身体の感触と体温、彼女の甘い匂い…
そうだ。俺が求めていたのは…これだ。
俺は、身体の奥底が甘く疼くのを感じた。

俺は彼女の頬に、自分の頬を摺り寄せる。
俺の中の凝ったものが、ゆっくりと優しく溶けていく…

俺は抱き潰さない様に加減しながら、愛しい者を閉じ込める様に、腕に力を込めていく。
このまま時が止まるといいのに。

そんな俺の気持ちとは裏腹に、壁にかかった時計の秒針は無常に時を刻んでいた。

※※※

-名前side-

何だかふわふわして気持ちいい…
「名前……」
温かいものが私の全身を優しく包んでいる。
その心地よさにうっとりとして、私はそれに身を預けた。

『……んっ…』
不意に、唇に温かく柔らかいものが押し当てられ、それは私の唇を優しく食み、吸った。
(……?)
私がゆっくりと目を開けば、真太郎の整った顔が私の視界の全てを占めていた。

「起きたか」
『あ、真太郎…?』
私はふにゃりと笑い、安心して彼の胸に擦り寄った。
『おやすみ…』

私はコテンと彼の腕に身体を預けて、夢の世界に再び旅立とうとしたが、揺さぶられて嫌々身体を起こした。
『何よーもぉ…眠いのにー』
「名前、もうそろそろ最終下校時刻になるのだよ。このままでは二人とも閉じ込められてしまうぞ」
『真太郎と一緒なら、閉じ込められてもいい…』

真太郎は、はぁ、と息を吐いた。
「…まだ寝惚けているのだな。こんな所で寝るな。帰るぞ」
帰る…?

その言葉は私を現実に引き戻した。

『あっ、真太郎! 練習は終わったの?和成君は?』
「高尾は先に帰ったのだよ。そろそろ校門が閉まる時刻だ」
『やだ、もうそんな時間!?』と言いながら、私は手の中で握り締めていた物を取り出す。

「名前?」
『頑張った真太郎に差し入れしたくて。…もう温くなっちゃったけど』
真太郎は、私の差し出したお汁粉缶をじっと見ていたが、両手で私の手を外から包む様にして受け取った。
「…ありがたくいただくのだよ。温いのはその時間分、名前が俺の事を想って待っててくれた証なのだな」

真太郎に真直ぐ視線を合わせられ、真顔で言われると照れてしまう。
私は恥ずかしくなって目を伏せた。

『真太郎こそ、身体大丈夫なの?…随分、疲れていたみたいだけど』
私の問いに、真太郎は顔を綻ばせた。
「心配ないのだよ。…俺は名前から十二分に元気を貰ったのだから」
『……?』

私が訳も分からず首を傾げると、真太郎はもう一度笑って、私の頭を優しく撫でた。

それから、私達は急いで外に出た。
私達が最後までいた生徒だったらしく、出た直後に校門の閉まる重々しい音が辺りに響いた。

「…今度の休み、名前は予定はあるか?」
真太郎の問いに、私は首を横に振った。
「なら、一緒にどこかへ行かないか?」
私は喜んで承諾し、胸を弾ませ、デートプランを話し合いながら帰った。

※※※

後日、高尾君から聞いた所によると、次の日から数日間、真太郎は絶好調だったらしい。
「デートの約束とかしたっしょ?」
真太郎が言ったのか?と思ったが、何も聞いてないと言う。
そして私がカマかけに見事に引っかかり、言ったと同然になってしまったのだが、高尾君は苦笑した。

「真ちゃん、あれで意外と分かりやすいんだもんなー。デートが馬人参になってんじゃね?」

私も現金な事に、真太郎とデート出来るのが嬉しくて、最近筆のノリが頗る良い。
そう告げると、後ろに真太郎が立っていた。
彼は一連の会話を聞いたらしく、顔を赤らめて眼鏡を上げた。

END

※※※

アキハ様

楽しんでいただけたでしょうか?

「長編緑間夢主・WCに向けて練習する緑間がヒロインで充電するみたいな甘いお話」
とのお題をいただきました。

本編でも近い話があるので、この話を作るのに二転三転しましたが、今度はバスケ部編にしてみました。
緑間の話は最萌なだけに、書いていてとても楽しかったです。
少しでも「甘いお話」になっていると良いのですが。

素敵なリクエスト、ありがとうごさいました!




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