Attack on Purple-2-
-黒子side-
僕達はリレーに見入ってました。
運動部は速さを競いますが、文化部は其々の部が個性を主張していて、見ていて飽きません。
ブラスバンド部はパーカッションを鳴らしながら走っていますし、
茶道部は短く仕立てた着物風コスチュームに茶釜を抱えて走っています。
ジャグリング部はボールを投げ回しながら走っています。…器用ですね。偶に落とすのはご愛嬌です。
「……お腹、空いたー」
またですか。
いつもの事なので、僕はそのままスルーして競技を見ていました。
ところが、紫原君はふらりと立ち上がり、コースの方に足を踏み出しています。
「何かー、甘い匂いがする〜」
……甘い匂い?
その言葉に妙な引っかかりを感じ、僕は紫原君を凝視しました。
僕が見ていたら、そのままふらふらと足を次第に速めて、トラックへ足を踏み入れて行きました。
「紫原君っ!?」
僕の驚いた声に、他の皆も気が付いた様です。
「えっ、紫っち!?」
「そっちはリレーコースなのだよ!」
「何やってんだ!?…アイツ」
「戻って来るんだ、敦っ!!」
あれは…恐らく聞こえていませんね。
そうこうしている内に、紫原君は危うい足取りで、トラックの中を走り出しました。
…あれは。
どうやら、料理部…メイド姿のアンカーの後を追いかけている様です。
横で緑間君が切羽詰まった声を上げました。
「そうか…!!料理部の…あの籠。あれに入っているのは、手作りの菓子なのだよ!!」
赤司君はそれを聞いて、瞬時に判断した様です。
「真太郎、大輝、涼太!!敦を止めろ!!」
赤司君の意を受けた彼等も走り出し、続けてトラックに乱入しました。
※※※
-名前side-
私は、ひたすら籠を抱えてトラックを走っていた。
周りの声援が一際大きくなった様な気がする。
……ん?
後ろがやけに騒がしいな。
私は何気なく振り向いて…恐ろしい光景に心臓が止まりそうになった。
『でぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっっっっっ○Ω刄。Ж!!!????』
私は意味不明の悲鳴を漏らし、慌てて走る速度を上げた。…っと言っても鈍足なんで高が知れているけどっ!!!
紫原君が追いかけて…来ているのって……もしかしなくても私かーーー!!!???
つか、何で私がこんな…っ! これって、リレーよね!?追いかけっこじゃないよね!?
一体、私が何したってーのよっ!?
「お腹減った〜」
まだ幾分か距離はあったが、確実にそんな事を言ってる声が聞こえた。
『巨人に喰われるーーーっ!!!』
「…お菓子…ちょーだい! 綽名ちん〜〜」
少しずつ大きくなって来る声が、確実に距離を縮めつつある事を私に報せた。
お菓子…だと!?
私は、はっとして抱えている籠を見た。
こ れ か !!!
これは死守しなくてはならない。
これが取られたら料理部は失格、来年の予算配分が悲しい事になってしまう。
私は籠を抱え直した。
後ろを見ていると速度が落ちるが、状況把握する為にも見ない訳にはいかない。
私はチラリと後ろを見てぎょっとした。
紫原君が、ぐんぐんと近付いて来ている! このままでは、すぐに追いつかれてしまう!!!
その時、さらに外野の歓声が高まった。今度は何だ?
「紫っちー!!止まるっスーーー!!!」
「トラックから出るのだよ!!!」
「おい、待て!!紫原っ!!!」
ひえええええ〜〜〜!!!!???
何と、キセキ達が更に追いかけて来ている!!!
『何なのこれーーー!!!???』
私が一体、何をしたってんだーーー!!???
ふと、手元の籠を見て閃いた。
私は、キャンディーを一つ取り、ほいと斜め後ろに放り投げる。
「!?」
紫原君は、それを反射的に地面ギリギリでキャッチする。
ペリペリ包み紙を剥いた音と、ガリポリと咀嚼する音が聞こえた。
もう少しゆっくり舐めろよ!!!すぐに噛むんじゃねえ!!!
私は内心で悪態をつきながら、息が切れるのも構わずに全力で走る。
「足りない〜綽名ちん、もっとちょーだい〜」
紫原君は、今まで全力では走ってなかった。
でも、もうすぐ追いつかれる。
私は、今度は三個の飴を掴み、バラバラに放り投げた。
日本神話で、伊邪那岐命が黄泉から逃げる時に桃を投げた伝承を思い出すな、とか要らん知識が頭を掠めて行く。
意富加牟豆美命(オホカムヅミ)よ、我を護り給え!
後ろで、更にまた包み紙(以下略)
今度は三つ拾うのに、少し時間稼ぎが出来たみたいだ。
でも、すぐに追いついて来る。
でも、幸いな事にキセキ達も追いついて来ていた。
一番手は青峰君だ。やはりエースの足は伊達ではない。
「おいっ紫原!!コースから出ろ!」
「峰ちん…邪魔すると捻り潰すよ?」
「てめっ…!!」
彼等が格闘している時に、黄瀬君と緑間君が追い付いた。
「紫原っ!!競技の邪魔なのだよ!!」
「女の子を追いかけるのは止めるっスよ!」
もうすぐだ。もうすぐゴールに着く。
流石の紫原君も、彼等三人に阻まれては思う様に私を追う事は出来ない。
私は後ろからビリビリと焼け付く様な、ただならぬ怒気を感じ取り、思わず振り向いた。
あれは…トールハンマー…やる…つもりか?
そのままでは、止めている彼等まで怪我しかねない。
紫原君が身体を回そうとした、その時、私は足を止めて後ろの彼等に近付いた。
『紫原君』
これ、と私は籠を差し出し、飴の袋を取り出した。
彼は動きを止めたが、不服そうだった。
止めようとした三人もポカンと見ている。
「そっちの…綽名ちんの焼いたケーキがいいー」
これが私が焼いたって、よく分かったな。恐るべき野生の勘だ。
『これは、レースが終わってからならあげるから、今はこっちで我慢して?』
ね? と、私が小首を傾げて飴の袋を差し出すと、渋々と言った態で受け取ってくれた。
「分かったー…約束だよ、綽名ちんー…指切りげんまん〜♪」
彼と私は小指を絡めて、約束の指切りをする。
ゴールはすぐそこで、一緒に競走していた他の部の選手達は、疾うにゴールしていた。
私は最後に軽く走ってゴールする。
ゴールのラインを一歩踏み超えた時、ホイッスルが鳴り渡り、一斉に割れんばかりの拍手と歓声が沸いた。
ゴールの先には、赤司君が待ち構えていた。
「…いざとなったら、僕が止めようと思っていたけど…どうやら必要は無かったみたいだね」
『お気遣いありがとうございます。でも、彼等も止めてくれて助かりました』
私はぺこりと頭を下げた。
「敦のせいで…リレーが滅茶苦茶になってしまって、悪かった。
…もし、料理部に不利な予算になる様なら、バスケ部で、その分補填させていただく」
『文化部はパフォーマンスで判定するから、ビリでも変わりないです。私が鈍足だっただけですし』
もしかしたら、あの騒ぎのせいで逆にパフォーマンス性が上がったかもしれません、
と私が苦笑したら、なら良かった、と赤司君も笑みを零した。
実際、文化部では料理部がアンケートでトップを取った。
怪我の功名、と言った所か。
私は約束通りに紫原君にケーキをあげた。
彼は「ありがとー」と満足そうに受け取り、その場で食べだした。
END
※※※
葵様
楽しんでいただけたでしょうか?
「緑間長編ヒロインが、紫原にお菓子で追っかけられる話」とのお題を頂きました。
緑間長編夢主でありながら、帝光中の時なので、緑間があまり絡めなくてすみません。
紫原友情落ちみたいですね。これは。
書いている内に、どんどんシュールな話になってしまいましたが、面白かったです。
楽しいリクを、ありがとうございました!!