比翼連理のカミングアウト-2-
結局、緑間君には何もかもお世話になってしまった。
『…ありがとう』
「家まで送って行ってやろう。…大事にするのだよ」
『…うん』
「せめて高尾がいればな…リヤカーに乗せて行ってやれるのだが。苗字が歩けない位なら背負うしかないが…」
『ううん。そこまでしてくれなくても大丈夫だよ』
「なら、無理せずにゆっくりと歩くのだよ」
緑間君…無愛想だったり、おは朝信者の変人だったりとかするけど、とても優しい人だ。
私は彼に手を引いて貰って、ゆっくりと歩いていた。
「参考書を買ったのか?」
『うん。緑間君が教えてくれたの、凄く見易そうで解り易いね! これで勉強が捗りそうだよ』
「……それは良かったのだよ」
その時、私達を目撃している人がいるとは、私は気が付かなかった。
※※※
次の日、学校では、ある噂が広まっていた。
「ねえねえ、苗字さん! 緑間君と付き合っているって本当!?」
『えっ…!?』
私は慌てて否定するが、彼女達は納得しない。
「えー? だって、ねえ? 苗字さんと緑間君が、仲良く手を繋いで歩いていたって、見た人がいるって言うじゃん?」
「凄く良い雰囲気だったってー!これで付き合ってないって言われても、信憑性無いよねー?」
『あれは…っ!』
「ちょーっと待って?君達?」
高尾君が不意に割り込んで来た。
口元は笑っているけど、目が笑ってない。
「あっ、高尾君! 高尾君なら知っているでしょ?」
「……残念ながら、真ちゃんは今誰とも付き合ってねーよ。ね?苗字ちゃん?」
私は高尾君の表情を見て、息を飲んだ。
真剣な目で、じっと私を見ている。
(まさか…噂は本当じゃねーよな?)
声には出してないけど、そう問いかけられている様な気がした。
私はやっとの思いで頷いた。
『う、うん。…私、緑間君とは付き合って無いから』
それでも、彼女等の追求は止まなかった。
「じゃあ、手を繋いでいたのは、人違い?」
人違い…じゃないけど、そうした方が良いかなと一瞬考えが過る。が、
私の考えの安易さを切り裂く様に、凛とした声が降って来た。
「人違いじゃないのだよ。それは確かに俺と苗字だ」
『…み、緑間君!!?』
「ちょっ…!?真ちゃん?」
「だが、別に俺と苗字は、お前等に、とやかく言われる様な関係ではないのだよ」
緑間君が微妙な否定の仕方をしたので、逆にその噂を独り歩きさせる結果になってしまった。
その後、私がどんなに本当の事を言っても、照れの言い訳としか受け取られなくなってしまった。
※※※
『…はぁ。何でこんな事に…』
私は屋上で一人、溜息を吐いた。
「名前」高尾君がやって来た。
『和君…ごめんね』
私の詫びの言葉を聞いて、高尾君は眉を顰める。
「……それは何について謝ってんの? 俺は名前を信じてたんだけど、さっきの言葉は嘘だった?」
『違…っ!!』
高尾君は私の腕を掴み、階段室の壁に押し付けた。
「名前は俺の彼女なのに、何で俺が真ちゃんとの事、否定出来ないんだよ…っ!!」
『和…君』
高尾君は苦しそうに顔を歪めた。
彼の瞳は悲しげに揺れていた。
私は、そんな彼を見ていられなくて、目を伏せた。
……私の臆病さと弱さが高尾君を苦しめている。
私が、高尾君が告られているのを見て不安だった様に、彼も不安なんだ。
私が苦しむだけなら自業自得だけど、彼にまでその苦しみを押し付けていたなんて。
……どうしたら。
私は顔を覆った。
『…和君、ごめん…和君が苦しむなら、私……っ』
その時、高尾君は、私の両手首を掴んで顔からゆっくり外させる。
「別れる、なんて言うなよ…?」
彼の震えた声を聞いた私は、はっとした。
今、正に言おうとした言葉を、彼に先取りされていた。
高尾君は血を吐く様に叫んだ。
「俺は、名前が好きだかんな! 絶ってー別れねえ!!!」
『和君…っ!!』
私は高尾君に縋って、彼の胸に顔を埋めた。
……トクトクトク…
彼の力強い鼓動を聞いていると落ち着いて来る。
高尾君は、私の頭を優しく撫でた。
「……俺は、何の為に名前の彼氏やってんの…?
少なくともお前を苦しめる為じゃねーんだよ! 頼れよ俺を! 問題があるなら、二人で解決しよーぜ!?
一人では解決出来ない事も、二人なら解決出来るかもしんねー。…名前の悩みを半分分けてくれよ、な?」
私は、高尾君の優しくて力強い言葉を聞いて、涙が止まらなくなった。
『和君……ありがとう…』
彼は、私の弱さを知っても、まだ好きでいてくれる。
私の弱さも醜さも全て受け入れてくれる。
高尾君と一緒なら、私も少しは強くなれるかな…?
強くなりたい。彼と幸せになる為に。
彼の辛い時、私が支えになれる様に。
私は腕を彼の背に回し、しっかりと抱き締めた。
※※※
今日は全校朝礼の日。
校庭に集まった生徒達の中、高尾和成は、ある人物の姿を求めて目を彷徨わせた。
(…名前、メールで俺達の事、カミングアウトするって言ってたけど…
朝から見当たらないんだよなー)
「……真ちゃん、名前がどこにいるか、知らない?」
「俺が知る訳ないのだよ」
「だよねー…ん?」
その時、俺の"鷹の目"は、屋上の人影を捉えた。
「上…誰かいる…?」
「何…だと?」
私は、震える足を叱咤し、踏み出した。
眼下には、全校生徒が校庭に整列している。
私は深呼吸を一つして、メガホンを構えた。
大丈夫! 私は一人じゃない!!
『一年B組、苗字名前! 私は一年B組の高尾和成君が大好きです!!
つ、付き合ってくださいーーっ!!!』
眼下では、全校生徒達が私を指差したりして、蜂の巣を突いた様な騒ぎになってしまった。
「こらーーーっっ!!!苗字っ!!何をやっとるかーーーーっ!!!???」
先生が真っ赤な顔して怒鳴っている。
『和君、愛してるーーーっっ!!!』
私は、メガホンのボリュームを最大音量に設定し、駄目押しで叫んだ。
下を見ると、高尾君が私に目一杯手を振っていた。私も笑顔で精一杯振り返した。
緑間君は呆れた様に突っ立っていた。
「…っ、苗字は、一体何をやっているのだよ…?」
高尾君は盛大に笑い転げていた。
「うっはーwww 名前、大胆ーーっ!!! 俺、こんなインパクトある告白されたの初めてだわーwww!!!???」
そして、高尾君は姿勢を正し、口に両手を添えて叫び返した。
「俺も、苗字名前ちゃんを愛してるぜーーーっっ!!! 今度は正々堂々と付き合おうなーーーっ!!!」
その直後、私は屋上に駆け付けた先生方に捕獲され、高尾君と共にキツいお説教を食らう事になった。
部活が終わった放課後、私は一人で教室に残っていた。
そこへ、待ち人がやって来る。
「名前、一緒に帰ろうぜ?」
『…部の人達は良いの?』
私の出した疑問に、高尾君はにかっと笑った。
「……先輩方も、彼女と一緒に帰ってやれってさ!
…宮地先輩と木村先輩からは、リア充死ね!って、パイナップルぶつけられそうになったけどなー」
『…パイナップル…??』
「いやー、俺、軽トラに轢かれても幸せだなー」
『ええっ!?』
私が反論すると、彼は私を抱き締めた。
「だってもう、俺…いつでも名前と、こんな風に出来るんだぜ?」
と言って、そっと私に唇を重ねた。
END
※※※
えいこ様
楽しんでいただけたでしょうか?
「他の人とは秘密に高尾と付き合う」とのお題をいただきました。
書いた結果、「秘密だったのを思いっ切りカミングアウトする話」と、逆説的になってしまいましたが。
高尾には秘密が似合わないイメージなので…
ちなみに、夢主のクラスは適当です。
クライマックスは、原作をオマージュしてみました。
高尾のラブストーリーは短編を幾つか書きましたが、彼を主役にするのは、私には難しいです。
…うっかり手が滑ると、緑間を贔屓してしまいそうに…危ない危ないw
途中で色々悩みながら書きましたが、何とか収まって良かったです。
素敵なリクエストを、ありがとうございました!