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花の香りを追いかけて




Riq.no17 (虹村先輩でクラスメイト。切ない片思いから甘い感じで)

*夢主設定 虹村と同じ学年、華道部所属。二年春

※※※

一年の時、私は校舎裏に虹村君を呼び出して、一世一代の勇気を振り絞った。

『虹村君、好きです。付き合ってください!』
「あー…悪ぃ。今、俺は一軍レギュラーになったばかりで、余裕とかねーし、付き合うとか無理だわ。
苗字の気持ちは嬉しいけどな。本当、ご免な!」

私の恋は、一年の夏に呆気無く終わった。

今は春、二年の新学期が始まったばかり。
私はクラス表を見て愕然と呟いた。
『嘘…!?同じクラス…?』
漸く失恋の痛手から立ち直りかけて、新しい恋を探そうとしたのに。神様は意地悪だ。


『…はぁ』
私は、兄が入院した病室を訪ねる。
以前は大部屋に一人だったのだが、最近になって同室に入院した人が増えたらしい。
私は、その中年男性に軽く会釈して、入室する。

『お兄ちゃん、着替え持って来たよ。あと花も』
「ああ、すまねーな名前。花活けんのか?」
『うん、ちょっと場所借りるね』

私は華道部に所属している。
以前から、園芸とか生け花とか好きだったので、部活動は楽しい。

ここにもちょくちょく来ては、よく花を活けている。

兄は、大学のバスケ選手だったが、不運にも大怪我をして選手生命は断たれた。
今はリハビリをしている。良くなれば、普通に生活出来る位には回復するらしい。
…でも、選手としてコートに立つ事は出来ないとの見立てだった。

あんなにバスケが好きだったのに。やはり、神様は意地悪だ。

私は見舞いを終えて病室を出た時、何気なくドアの横にあるプレートを見た。
苗字の下にある表記に驚く。『……虹村?』

虹村、なんて珍しい苗字だと思うんだけど。
……どんな偶然の一致なんだろう?

※※※

-虹村side-

今年も帝光バスケ部に、新たに新入生が入って来た。
しかも、今年は一軍に入った一年が四人もいた。帝光バスケ部の主将としては、喜ばしい限りだ。

俺に課せられたのは「常勝」の二文字。
二年にして、三年生を差し置いて主将になった俺に課せられた責任は重い。
有望な選手は、喉から手が出る程欲しかった。

…しかし。
最近俺は、心を悩ませるものがあった。

「よぉ、親父。具合はどうだ?」
「修造か。…まぁ、あまり良くはないな」
とにかく、病院は飯が不味くていけねえ、等と愚痴を言っているのを聞き流す。
食事管理されているのだから、身内が迂闊に食べ物を持って行く訳にもいかない。

ふと、病室内を漂っている香りに気が付く。
「…ん? 花の匂い?」
「ああ、あの苗字さんの妹さんが活けて行った花だろう」
「ふーん…」
俺は窓際のベッドを窺う。
そこに寝ていた青年の顔に、何となく見覚えがある様な気がした。

「苗字…か」
父の言った「苗字さん」の姓を聞いた俺は思い出していた。
以前、俺に告白して来て来た女子と同じ苗字だな、と。

……俺の言葉を聞いた彼女は、悲しそうに「…そう」と言っただけだった。
苗字のことは嫌いじゃない、どころか内心では可愛いとすら思っていた。
告白を聞いた時は嬉しかったけど、その時、俺は二軍からやっと一軍に上がった時だった。

バスケ部での練習と勉強とを両立しなければならない俺にとって、女と付き合う余裕は欠片も無かった。
あー…まぁ、振った事は惜しい事した、と正直思わなくもない。
けど……有望な一年が四人も入って来たからには、俺もうかうかしていると、いつ追い落とされるかもしれない。
帝光バスケ部は実力主義だ。

ふわりと香った花の匂いが、鼻腔を擽る。
深く呼吸すると、張り詰めた気持ちが安らいで行く様な気がした。


朝、教室内にも覚えのある花の香りがフッと薫った。
……もしかして、今すれ違った苗字だろうか?
気が付いたら、俺は苗字の腕を掴んでいた。

『何? 虹村君』
彼女はびっくりした様だ。当然か。

「あっ、悪ぃ!」俺は慌てて手を離した。
不思議そうな顔をする苗字に、言い訳がましく質問する。
「いや。…最近お前、○×病院に行ったか?」
『えっ!?』
彼女は驚いた様に目を丸くしたあと、首を横に振った。
『…ううん。行ってないけど、どうしたの?』

なら、あれは俺の気のせいか。
あの病室に薫ったのと、今の香りが同じものの様に感じたのは。

俺は微かな違和感を覚えながらも、苗字に苦い笑みを浮かべた。
「…なら良いんだ。引き留めて悪ぃな」


それ以来、俺は何となく目で苗字を追う様になってしまった。
彼女の纏う香りは、甘くて柔らかで優しい花の香りで、俺は無意識に惹かれていたのかもしれない。

※※※

-名前side-

……びっくりした。
私は、虹村君に咄嗟に嘘を吐いてしまった。

嘘を吐いたのは、兄が入院してる事に触れられたくなかったからだった。
バスケ部主将の彼に、兄が二度とバスケの出来ない身体になった、等とは言いたくなかった。
大学バスケでエースをしていたから、もしかしたら虹村君は兄の事を知っているかもしれない。

やはり病室での「虹村」さんは彼の身内だったのか。
なら、嘘を吐いた手前、出来るだけ遭遇しない様にしないと。
私は溜めていた息をそっと吐いた。


今日は華道部は無い日だ。私は体育館に足を運んだ。

『…あれ? 今日は随分人が多いな』しかも、女生徒が増えてる。
私は暫く首を傾げていたが、一軍の選手達を見ている内に疑問が氷解した。

『…成程ー…一年の子達か』
一軍選手に新たに加わった一年の子達は、独特な髪の色で目を惹いた。
どの子も魅力的な容姿だ。あれは、女の子達が騒ぐのも無理はない。

でも、私のお目当ては一軍の中心にいる虹村君だ。
「うらぁ! そこ、動きが遅せーぞ! 基本シュート外すな!!」

常勝バスケ部の練習は過酷だ。
それでも時折、部員達にさり気ない優しさや気遣いを見せる。
そんな彼を見る度に、やっぱり好きだなぁ…と思ってしまう。

彼にフラれた事を思い出すと、今でも胸が痛い。
いい加減、彼を諦めて新しい恋を探せばいいのに、私はまだ未練がましく体育館に来てしまう。

『……ん?』

足下に赤いリストバンドが落ちているのに気が付いた。
私はそれを拾い上げる。
『…少し汚れているな』
落ちた時に着いたものなのだろう。

その時、「危ない!」
叫び声がしたと同時に、私の意識は暗転した。


目が覚めたら、保健室の天井が目に入った。
「大丈夫か? 苗字?」
私を覗き込んでいたのは虹村君。

『えっ…!?』
私は慌てて頭を起こそうとしたが、彼に制止される。
「おめーは頭を打ったんだ。いきなり起きんな」

彼は私をそっと寝かせて、ぼそりと呟く。
「……悪かったな」
『あ、ううん。私が余所見していたから…虹村君が運んでくれたの?』
私の何気ない期待を孕んだ質問に、彼は口に手の甲を当て、視線を僅かに逸らした。
「…まぁな」
ほんのり頬が赤く見えるのは、夕日に照らされたからだろうか。

『…ご免ね。練習、中断させちゃったね』
「大丈夫ならいい。今度から気ぃ付けろ」
彼は、私の額に手を当てた。
ひんやりとして気持ちが良い。私は目を細めた。

好きじゃないなら、そんなに優しくしないで。
彼は私を純粋に心配しているのだろう。真剣な瞳で見つめている。

私はフラれたのに、まだ彼にドキドキしている。
もう、終わらせた方がいいのかな…未練がましい自分が嫌いだ。

私は心の奥が痛むのを抑えて目を瞑り、眠ったふりをした。
彼の指が私の髪を撫でる様に滑る感触がした。


私は二日後の放課後、バスケ部の部室の近くにいた。

『あっ、貴女! 男子バスケ部一軍のマネージャーね?』
私は、通りがかった桃色の髪の一年女子を呼び止める。
「あ、ええ。…何ですか?」彼女は不審そうに答えた。

『悪いんだけど、これ…誰か一軍の子のだと思うんだけど。返してあげてくれないかしら?』
私は、前日倒れた時に、そのまま握り締めていたリストバンドを彼女に渡す。

洗濯はしておいたから、と付け加えると、その桃色髪の美少女は目を丸くした。
「あっ、わざわざありがとうございます! …あの、先輩、ですよね? お名前を伺っても宜しいでしょうか?」

彼女の問いに、私は別に大した事はしてないからいいよ、と軽く答えて名乗りもせず、そこを立ち去った。

※※※

-虹村side-

「よーし、休憩!」
俺の号令に、部員達は一斉に動きを止め、散り散りに隅に座り込む。
そこへ、マネージャー達がタオルとドリンクを配って行く。

俺の横には一年の赤司が座っていた。
こいつは頭が良く、リーダーシップがある。今ではもう副主将だ。
俺の次に主将となってバスケ部を率いるのは、きっとこいつなんだろう。

ふと、覚えのある花の香りがした。
「…ん?」
赤司がチラリと俺に視線を向けた。
「おめー…苗字知ってるだろ?」
「……知りませんが、何故ですか?」
「おめーから…アイツの匂いがすんだよ」
赤司は、珍しくも困惑したかの様に目をきょとんとさせる。
「匂い…ですか?」

俺は何故だか落ち着かなかった。
苗字と赤司に、どんな関連があるのか?
……まさか、こいつと付き合っている、とかじゃねーだろーな?

何で俺…振った女の事なんて気にしてんだよ。
例え…アイツが赤司と付き合っていた、としても俺に何か言う権利なんてねーんだ。

俺が余裕無くて断ったとしても、要領の良い赤司なら付き合う事位は出来るかもしんねー。
事実、こいつは女子に人気あるしな…

俺のぐるぐるした考えは、ヤツの声で断ち切られた。
「あ、もしかして…その香りって、これですか?」
赤司は腕に着けたリストバンドを掲げた。

確かにその香りはリストバンドから薫っていた。
「…多分、それだな」
「……これは、一昨日無くしたのですが、今日桃井が届けてくれました」
「桃井が?」
「落し物を拾った女生徒からだそうです。上級生みたいでしたが」

俺は名前を聞いたか?と尋ねたが、どうやら聞いてはいないらしい。
苗字と赤司と関係はないみたいだ、と聞いて俺はホッとした。

でも、ホッとするって事は…まるで俺は、アイツの事が好きみてーじゃねーか!
好き…なのか?…まぁ、気になる事は確かだけどな。

俺は頭を振り、雑念を追い払うと、練習の再開を告げに立ち上がった。

※※※

三年になって、俺と苗字は、また同じクラスになった。
俺の目は、自然に彼女に吸い寄せられる。
卒業するまでクラスが同じと思うと、自然と口角が緩んだ。

今日も病院へ行った。
…俺の父親の病状は思わしくなさそうだ。
医者から、母と一緒に病態を聞いた俺は唇を噛み締めた。

部では…コーチから、二年生を中心に使う、との通達が出た。
俺は、そろそろ決断をしなくてはならない。

俺は、父の病室に見舞いに行った。
ふわりと花の香りがした。窓辺には、新しい花が飾られていた。

父が、苗字さんの家族がさっき来た様だ、と俺に教えてくれた。
俺は立ち上がり、その香りを辿って廊下に出た。


-苗字side-

私が頼まれ物を届けに戻った時、病室から出て来る虹村君を見た。
私は慌てて近くの病室に飛び込む。

彼は、そのまま通り過ぎた。
『……はぁ。…びっくりしたー!』
私はこっそり窺う。…誰かを探しているみたいだ。

何かキョロキョロ辺りを見渡して、更に先の方へ歩いて行った。
私は、そっと息を吐いて病室に戻り、届け物を渡した。

病院を出る時には、彼の姿はなかった。
※※※

-虹村side-

「赤司征十郎を主将にしてください」

俺は、意を決してコーチに進言した。
医者が言うには、夏頃はどうなっているか分からない、との事だった。
このままでは、レギュラーを外れたにせよ、キャプテンを務めるのは無理だと思った。

俺は、もう病院に通うのがすっかり習慣になってしまった。
病室では相変わらず、窓辺の花が芳香を放っていた。

……俺は、何度この香りに救われてきたろうか。
やはり、この香りと苗字は関係があるのだろうか。

俺は父と話した後、窓辺に寄って、その花を見つめた。

その時、病室の扉が開く音がした。
『こんにちは…』
俺は振り向くと同時に目を瞠る。

「苗字……?」

彼女は立ち尽くした。


-名前side-

私が病室を覘いた時、黒髪の背の高い男の人の後ろ姿が見えた。
声をかけた後、まさかと思い、立ち竦む。
彼はゆっくりと振り向いた。

「苗字……?」
『に、虹村君!?』

「この花…やっぱりお前だったんだな?」
虹村君はこちらに歩み寄って来た。
私の頭はぐるぐると混乱する。

本来なら、隠す程の事でもないかもしれない。
けど、嘘を吐いてしまった手前、訂正するのも気が引けた。
それが今になって、バレてしまうなんて。

私は混乱したまま、回れ右をして走り出した。

冷静に考えれば、学校で会うし、今更逃げても意味は無いのだけど、今の私には逃げる事しか考え付かなかった。
「おい、待てっ! 苗字っ!!」
虹村君が追いかけて来る。

私は階段を走り下りた。
でも、虹村君は足が速い。伊達に強豪バスケ部の主将やっている訳ではない。
虹村君は、ひらりと身軽に手すりを飛び越え、下の踊り場に着地する。
回り込まれた私は驚いて足を踏み外した。
『きゃっ!?』
「苗字っっ!!」

気が付いたら、駆けあがって来た虹村君に抱き止められていた。
彼はふぅ、と一息吐き、ぼそりと確認する。「怪我…ねーか?」
私はこくりと頷いた。

私は彼に、ぎゅうっと強く抱き締められたまま怒られる。
「危ねー事すんな! この馬鹿っ!! 怪我でもしたら、どーすんだよ!!??」
『は、離して…!』
私は抗うが、彼の腕はびくともしない。

「誰が離すか。…やっと捕まえたんだ。俺の…花」
『花…?』

私は彼の体温に包まれて、身体中の熱が上がって行くのを感じた。
心臓が暴れて息苦しい。

「……苗字。そのまま…俺の言葉を聞いてろ」
彼は甘く囁き、私は甘い予感に身を固くした。

再び私の恋が動き出すまで、あと一秒……


END

※※※

ありす様

楽しんでいただけたでしょうか?

「虹村先輩でクラスメイト。切ない片思いから甘い感じで」とのお題をいただきました。

対象で受け付けた落ちキャラは、キセキ&その他でしたが、まさかの虹村氏…!?
虹村は初めての挑戦でしたけど、いかがでしょうか?

少しでも、彼らしく出来ていれば良いのですが。

意外でしたが、素敵なリクエストをありがとうございました!




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