7月のUnlucky day-2-
-高尾side-
「よー真ちゃん、誕生日おめでとー!!」
「全く最悪なのだよ…!」
本日が絶賛誕生日だってのに、真ちゃんの機嫌は最悪だった。
今日は蟹座の順位は10位。最悪では無いが、あまり良くはない。
しかし、そんな時は、いつも欠かさず携えているラッキーアイテムが見当たらない。
「ねえ真ちゃん。今日の蟹座のラッキーアイテムって…?」
俺が訊いたら、真ちゃんは眉を寄せて顔を顰めた。…こいつは何かあるな。
「……愛する者からのラブレター、なのだよ」
「ラッ…!?」
俺は堪らず吹き出した。
「笑い事ではないのだよ!! どこにも売って無くて困っているのだよっ!!!」
「ラブレターwww いやでも真ちゃんさ、モテるからラブレター位貰えるっしょ?」
「全く高尾は分かって無いのだよ! "愛する者"つまり、俺が愛する者からで、俺を愛する者からではないのだよ…!!」
へぇ〜、真ちゃんが愛する者ってねー?
「…んじゃ、それって誰なの?」
「なっ…!?」
「その人に協力して貰わなくちゃねー? 俺もその人に伝える様に協力すっけどー? …で、誰〜???」
あはは、真ちゃん真っ赤になっちゃって。
そんなんで睨まれても全然怖かねーよ。
でも真ちゃん、俺にからかわれるとでも思ったのか、「高尾には教えないのだよ!」と言って、そっぽ向いちゃった。
臍曲げられちゃったかな?
「緑間君、お誕生日おめでとう!」
「……ああ。お前の星座は何だ?」
「これ、誕生日のお祝いね!」
「…貰っておこう。お前の星座は…?」
真ちゃんの傍には、女の子達が列を作っている。
おーお、モテますな!
でも、俺には少々気になる事が。
「なぁ。苗字ちゃんは行かねーの?」
彼女は、その列を遠巻きにして見ていた。
『…………』
苗字ちゃんは何も言わず、ただ悲しそうに唇を噛み締めて目を伏せるだけ。
あの先日の決心は何だったのよ?
俺が重ねて詰問しようとした時。
「近寄るな!」
鋭い声が響いた。真ちゃんの声だ。俺はぎょっとして視線を戻す。
「何で!? 酷くない? 私…ただ誕生日をお祝いしようとしただけなのに…!
私…何かした!? 他の子のは良くても何で私はダメなの!!?」
真ちゃんは激高した女子相手に、冷淡に眼鏡を上げて答える。
「お前は…星座だと言ったな。今日の蟹座の異性間との相性は最悪なのだよ。だから明日以降に出直してくれ」
「……っ!! もう、知らないっ!!! この占い変人っ!!!」
その子は大声で怒鳴ると、荒々しく戸を開けて出て行った。
「あっちゃー…おは朝も罪な事するなー…」
その時、ぼそりと横に居る苗字ちゃんが呟く。
『…私……星座、なんだよね…』
「えっ!?」
『……やっぱり、ああなるんだよね…私も』
あれ…もしかして……これは。
俺は瞬間、彼女が泣くんじゃないかと思った。
慌てて手を掴まえて、外に連れ出す。
「取り敢えず…屋上に行かね?」
俺が提案すると、彼女はコクリと頷いた。
※※※
-名前side-
「全く…最悪だな。…間の悪い、つーか何つーか…おは朝も…何も今日じゃなくていいのになぁ」
私は屋上のフェンスに背を預けた。身体が重たい。
『ねえ、高尾、…こんな時はどうすれば良いのかな…?』
「どうも…出来ねえな。真ちゃんにとって、おは朝の神託は絶対だかんなー」
あ、でも…と、何か思い付いた様な高尾に、私は首を傾げる。
「苗字ちゃんの星座…真ちゃんに知らせなきゃ良いんじゃね? 嘘も方便で…後で間違えたとか訂正すれば?」
『……いや、それ無理。以前、聞かれた時に答えたから。忘れてくれてればいいけど』
「へえ? そりゃまたどーいった経緯で?」
高尾に訊かれた私は、当時の事を思い出す。
『私が立て続けに災難に遭ったの。転んだり…ぶつけたり落し物したり忘れ物もした。それで緑間が私の星座を聞いて…
それで教えたら、"星座の運勢は12位だったのだよ、ラッキーアイテムだから持っていろ"って。
……豚型の蚊遣りを…何であんなの、学校に持って来ているのよ…?』
「豚型www それで? 災難は続いたの?」
『……それが腹が立つ事に…ピッタリと無くなったんだよねー』
「…おは朝…マジすげぇな。でも…いくら真ちゃんでも、自分以外のラッキーアイテムは普通持って来ねーぜ?」
『じゃあ、以前に豚型蚊遣りがラッキーアイテムで、偶々学校に置き忘れた、とか』
「そんな偶々があるのかねー? それが本当なら、すげー偶然だけどな…」
高尾は何か引っ掛かる事があるのか、口の中でブツブツ言っていた。
私が何かと問い質すと、高尾はらしくなく、曖昧に話を終わらせ、逆に私に振って来た。
「それはそうと…苗字ちゃんは、今日は諦めるの?」
『……仕方ないでしょ。今日の緑間は、星座の女は傍にも寄らせて貰えないんだから』
「……俺が…渡そうか?」
高尾の気遣いに、私は力無く微笑んだ。
『ううん、いい。自分でやらなけりゃ、意味ないからね。諦めるよ…』
「そっか…残念だったな」
『諦めー……うっ…』
神様、酷い。
今日だけは……勇気を出してお祝い言いたかったのに。
相性だけで切り捨てられるなんて。
私は高尾が見ている前でぽろぽろと涙を零し、私が落ち着くまで高尾は黙って頭を撫でてくれていた。
「何をしているのだよ…?」
突如、聞こえた不機嫌な声に驚いて、私は顔を上げた。
高尾は驚いた風も無く振り向いた。
「あ、真ちゃん、来てたの?」
『緑間…何で今来るのよ…?』
「何を…しているのか? と聞いている…」
緑間の声が更に低くなった。
「やだなぁ、真ちゃん。俺は苗字ちゃん慰めているだけだよ? それとも…もしかして妬いてんの?」
「…っ!? 誰が妬くか!」
『緑間、折角の誕生日なのに、何でこんな所にいるの? 相性の悪い私なんか放って教室戻りなよ』
私は言い捨てて、緑間の横を通り過ぎようとした。
「待て!!」腕を掴まれる。
『放して!!』私は抵抗し身を捩ったら、その拍子にポケットから封筒が落ちた。
「……何だこれは?」と緑間が拾い上げる。
『…それは…っ! やだ、返して…!!』
私が慌てて取り返そうとするが、彼は高々と封筒を掲げる。
くっそー! こんな時に背の高さを生かすなんて! 嫌味か!!
私は二つの封筒の内、蔦の方は鞄に入れていた。
今落としたのはお守り代わりのクローバーの方だ。あんなのを見られたら…!!
彼は封筒からカードを取り出し、目を瞠る。
「…バースデーカード?」
『……っ!!』
私は、恥ずかしさに居たたまれず、そこから走って逃げ去った。
屋上から階段室のドアを開けて中に飛び込み、階段を駆け下る。
「苗字、待つのだよ!!」
あっと言う間に追いつかれた。
バスケ部で鍛えているから腹が立つ程足が速い。
踊り場で後ろにグン! と腕が強く引かれ、私は緑間の胸に倒れ込んだ。
暫く私は、何が自分の身に起こっているのか分からなかった。
背中には温かでしっかりとした身体が支えている。彼の腕は私の肩に回されている。
こ…これって。
私は状況を把握すると共に、否応なく心拍数が上がって行くのを感じた。
『…緑間。今日は星座とは相性が悪いんじゃなかったの?』
「ラッキーアイテムがあるから心配ないのだよ」
『…ラッキーアイテム?』
私は首を傾げる。それがあるなら、先程のは拒否らなくても良かったんじゃ…?
「これ、なのだよ」
緑間は、私の書いたバースデーカードを出した。
『それ…っ!? 返してよ!』
「イヤなのだよ。今日の蟹座のラッキーアイテムは"愛する者から貰ったラブレター"なのだよ。
…これは苗字の書いたカードなのだろう?」
貰った、と言うより奪ったんだろ。
『そうだけど…って…はぁ!!?』
今…愛する者って言った!?
『……緑間…これって』
私は彼に後ろから抱き締められながら、じわじわと顔が熱を持って行くのを感じていた。
心臓が苦しい程に早鐘を打つ。
「…苗字……好きだ」
低くて柔らかな声音に意識を全て攫われる。
『わ、私も…緑間が……好き」
「これは…俺が貰っていいのだろう?」
バースデーカードをちらつかせた彼に、私は黙って頷いた。
『……緑間、誕生日…おめでとう』
やっと言えた。今日中に祝えて良かったよ。
「…ありがとうなのだよ」
彼の応えと共に、頬に軽いリップ音と柔らかい感触がした。
ドキドキし過ぎて眩暈がしてきた。
『…緑間、私…プレゼントは用意していないんだけど…?』
「心配は要らないのだよ。俺が欲しいのは…苗字自身だけなのだよ」
緑間は更に強く、私を抱く腕に力を込めた。
後日、高尾は緑間とこんなやり取りをしたと言う。
「真ちゃん、苗字ちゃんにあげた豚の蚊遣り、わざわざ苗字ちゃんの為に用意したんだよな?
星座だって、元々知ってたんじゃねーの? ご丁寧に本人に確認しなくてもさー」
「……あの日の星座の運勢は最悪で、トラブル続きと出てたからな。苗字が注意しないから案の定だ。
全く…世話の焼けるヤツなのだよ…って高尾! 何笑っているのだよ!?」
「いや、真ちゃんの安定のツンデレっぷりは流石だぜww」
真ちゃん、Happy Birthday!!!
(2015.7/7)