灯火を織る人





 どれ程唇を重ねていただろう。

 舌が絡み合う音と、漏れる呼吸。衣擦れの音。それ以外の音が遠くなって久しい。とっくに解れた唇はとろりと溶けてしまいそうで、感覚が曖昧だった。

 いや、唇だけではない。
 気付けば熱に浮かされたような意識で、ぽうっと陣平を見上げている自分がいる。それを自覚した頃、陣平のキスが唇以外を捉え始める。 
 
 額、耳、首筋、鎖骨。あらゆる箇所にキスを落としながら、名前に触れる指先が少しずつ体幹に近付いていく。普段粗雑な陣平の指が、驚くほど優しく名前に触れる。それだけで名前の心は切ない悲鳴を上げ、陣平への愛おしさを際限なく積もらせた。

 
「ぁ⋯⋯」


 服の上から胸の膨らみを包まれる。やわやわと沈む五指。「柔らけ⋯⋯」と言いながらもう一方の手が服の中へと入り込む。側腹部を撫でるように上り、そして下りる。繰り返されるその擽ったさの中に紛れた快感を見つけ、名前の身体が震える。

 膨らみを捉えていた手が、服の裾に掛かる。名前の反応を確かめながら、陣平は鳩尾まで服を捲った。膨らみの下で焦れったく引っ掛かる服と、綺麗に縊れたウエストライン。それだけで陣平の喉元がこくりと上下する。名前が抵抗しないのを見て、服を首元までたくし上げる。

 ブラジャーに守られた双丘が、白日に晒される。白く美しい肌だった。下着の上縁から溢れた乳房に思わずキスを落とす。背中に手を回す。パチリとホックを外し、ゆっくりとブラジャーをも捲し上げる。

 柔らかく零れた乳房と。桃に薄く色付きぷくりと立ち上がっている乳頭。

 陣平の腰元が痛いくらいに疼く。
 

「⋯⋯白い肌だな」
「恥ず⋯⋯かしい⋯⋯っ」
 

 目の前に晒される真白な肉体に、陣平の唇から音にならない溜め息が落ちる。なんつー身体してんだこいつはよ。そんな言葉が吐息に紛れる。

 柔らかな感触を楽しむ余裕などなかった。気付けば片方では乳輪をなぞり、指先で中心を捏ね、片方ではその突起を口に含んで舐り、転がし、軽く吸い上げ唇で挟む。


「っ、ぁ⋯⋯あっ」

 
 そうして陣平に素肌を曝かれた名前は、触れられた箇所から広がる快感に、勝手に溢れる自身の嬌声に、困惑していた。

 初めてはあまり気持ち良くない、とか。痛かった記憶しかない、とか。この歳で未経験である名前はそれなりの耳年増となっていたが、それらは嘘だったのだと知る。

 陣平の触れる部分全てから名前を包む快楽が溢れてくる。気持ち良くて、心地良くて、それでいてびりびりと刺激的で、名前の脳での処理が追い付いていない。

 いつの間にかスカートの中では陣平の手が太腿を撫で上げていて、そうするうちにショーツの縁を行き来するようになり、やがて中央部分をショーツの上からやわく押す。


「ひ⋯⋯っぅ、」


 今日一番の快楽が駆ける。
 
 自分でも分かる。ぐずぐずと溶けるように濡れている秘部。恐らくショーツの向こう側にも浸透してしまっているのだろう。秘芽を撫でながら愛液を掬われる感覚に、嘗てないほどの羞恥が襲う。


「⋯⋯濡れ過ぎ」
「っごめ⋯⋯なさ」


 咄嗟に謝罪を口にしていた。恥ずかしさから潤んでしまった瞳で陣平を見上げる。「はっ⋯⋯、その顔分かっててやってんの?」と陣平は唇をぺろりと舐めた。

 
「これだけじゃ名前も足りねえよなあ」
「ん、ん⋯⋯っ!」


 クロッチから滑り込んだ指先が直に秘芽に触れる。それと同時に愛液の出処に、つぷりと。陣平の何れかの指が、誰も入ったことのない名前の内側へと埋まり出す。
 
 
「⋯⋯っぁ、じんぺ、く」
「⋯⋯力抜けよ」


 陣平の首に手を回す。力を込め、頭を掻き抱くようにその未知の快楽を受け止める。触れられる箇所、強さ、あらゆる変化に伴い快楽が変容する。

 やがて名前が弱い場所を見つけた陣平は、そこを優しく丁寧に、しかし執拗に刺激する。名前の声が一段上がる。随分と解れた秘所に二本目を埋める。その圧迫感が、容易く愉悦に変わっていく。秘芽への刺激も止まない。名前の身体が撓る。


「陣平く、何か⋯⋯ぁ、っ」
 
 
 下腹部が疼く。陣平が触れてくれているのに、もっと奥が疼いて仕方がない。名前の知らないところが、きゅうきゅうと疼いて仕方がない。そこに昇り詰めたくて、陣平に回している手に更に力が入る。


「やだ⋯⋯っ、へん、なの」
「んー?」
「まっ、て、お願⋯⋯っ」
「何を待って欲しいって?」
「っ、やぁ、⋯⋯何か、きちゃ、う」
「いいぞ、そのままこい」
「ぁ、ぁ⋯⋯っんん──!」


 刹那、名前の身体に力が入り、次いで下腹部から全身へと細かな痙攣が伝わる。

 俄には理解し難い快感だった。
 陣平の指が触れていた場所から脳に向けて弾けたそれは、爪先までをも駆け抜け、名前を抗えぬ波で攫った。


「ふ⋯⋯っぁ、」
 

 その波が些か凪ぐと同時に、陣平に回っていた名前の腕がはらりと解け、ベッドの上に緩やかに落ちる。

 上気した頬で。荒い息を吐きながら。朧気に陣平を見つめる名前の、その淫らな姿を見下ろして、陣平はごくりと生唾を飲み、堪らずベルトに手を掛けた。
 

「初めてでイケるとか⋯⋯エロすぎ」

 
 熱ぼったく呟かれた陣平の言葉は名前の耳には入らない。ただひたすらに、今しがた自身の中で弾けた感覚に浸っている。

 そんな名前の頭を撫でつつ自分の服を投げ飛ばしながら、陣平は考えていた。今のはどっちだろうな、と。外か。中か。どっちも触っていたから、どちらが気持ち良くて名前が達せたのかが判然としない。初めてだし外か? でもあの中の感じも結構良い具合⋯⋯などと、好きな対象に発揮される研究熱心さを遺憾なく発揮していた。

 そして、陣平も限界が近い。

 こんなに興奮しているのは初めてだ。先程から勃っている物は張り詰めて最早痛いくらいだし、それを名前の中にぶち込む事を想像しただけでじんじんと痺れる。

 今すぐにでも挿れてしまいたい衝動を総動員中の理性で辛うじて抑えながら、陣平は名前の下肢を持ち上げ開かせる。

 名前にとっては随分と恥ずかしい格好であるはずだが、名前はまだぼんやりとしていて己の痴態に気が付いていない。


「⋯⋯名前、このまま続けて大丈夫か?」
 
 
 陣平の声に次いで、ぴり、と音。
 この場に似つかわしくない音に思えて名前がのろりと視線を動かすと、陣平が避妊具の袋を口で裂いて開けているところだった。


「⋯⋯っ」


 名前は反射的に両手で目を覆う。
 これはやばい。色香が強過ぎる。いつの間にか陣平も服を着ていないし、その肉体たるや鍛えられていて大変格好が良いし、しかも日中なものだからまあはっきりと見えてしまう。

 自分の身体も同じく見られている事は失念し、名前は忙しく顔の前で手を動かす。見たいような。見てしまえば昇天してしまいそうな。何とも贅沢な葛藤である。


「? 何だよ?」
「ちょ、ちょっとえっちが過ぎます⋯⋯刺激強過ぎ⋯⋯」
「はあ? オメー自分の格好見てみろよ」
「ひぃ⋯⋯っ」
 

 途端に顔を真っ赤にする名前に呆れた眼差しを向けながら、しかしその一方で手早く避妊具が装着されていく。開かれた両下肢の間に位置した陣平の硬い欲が、今なお溢れ出る愛液に触れる。

 ぬる、と上下に動きながら。確実に中心へと近付き、やがて入り口でぴたりと動きを止めた。
 
 
「我慢はすんなよ、いつでも止めるからな」
「⋯⋯陣平くん」


 名前は悩ましげに眉を寄せた。そんなことを言ってくれるなんて。こんなに大切に触れてくれるだけで、この上なく幸せなのに。陣平ときたら自分の欲求は二の次で名前の事ばかりを考えてくれている。

 こうした陣平の一挙一動が、名前にこう思わせた。破瓜の痛みが例えどれ程であろうとも、絶対に陣平を受け入れたい、と。



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