灯火を織る人





「⋯⋯挿れるぞ」
「⋯⋯ぅ、ぁ」


 ぐ、と腰が進む。しとどに滴り滑らかになっている秘部が、陣平の硬さに押し広げられる。迎え入れたことのない質量に、そしてその痛みに。名前は硬く目を瞑り、腰を掴んでいた陣平の腕に爪を立ててしまっていた。


「⋯⋯っ、」
「悪い、痛え⋯⋯よな」

 
 ふるふる。首を振る。
 
 それは“痛くない”という事ではなく、“陣平が謝る事ではない”という意思だった。こんなもの痛いに決まっている。指で丁寧に慣らしてくれたとはいえ、あんなに大きく膨れた物が挿入るなんて。一周回って人間って凄い、などと感心してしまうくらいには、痛いのだ。

 陣平もそれを分かっているのだろう。

 手を繋ぎ、一方では頭を撫で、キスを落とし、そうしながら少しずつ、少しずつ奥へと進めてくれる。

 ──幸せだ。そう思う。

 最愛の腕に抱かれて。言葉にせずとも愛に満ちた指で触れられて。その人と、ひとつに。


「⋯⋯っ、名前」
「ん⋯⋯ぜんぶ、はいった?」
「ああ。つーかやっべえ⋯⋯超⋯⋯」


 言い掛けて、陣平はむぐりと口を噤む。──超気持ち良い。飲み込んだその言葉は、一度も「痛い」と言わずに陣平を受け入れてくれた名前が気持ち良さを感じられるまで取っておきたい。そんなことを思う。
 
 感覚が馴染むまで、陣平は動かずに名前にキスを落とす。首筋を擽り、鎖骨をなぞり、敏感に勃つ乳頭を口に含む。そうするうち名前の手が陣平の後頭部を撫で始め、陣平は顔を上げた。


「だいぶ和らいだか⋯⋯?」
「うん⋯⋯でもわたし、変、なのかも⋯⋯なんか挿入ってるだけで気持ちい⋯⋯っ」
「バッカお前⋯⋯」
「きゃ、⋯⋯おっ、きく」
「⋯⋯言っとくけどオメーが煽るからだからな」


 名前でも分かるほど更に質量を増した物を、名前の内壁が意思とは関係なく締め付ける。痛みがゼロになったわけではないのだが、陣平とひとつになっているというだけで、得体の知れない幸福感と快感に包まれる。

 ──これが、好きな人とひとつになるということか。

 胸の奥がふるりと震える。この喜びを分かち合いたくて、陣平の背中に腕を回す。
 

「陣平くん、ありがと、もう動いて大丈夫だよ」
「ん⋯⋯ゆっくりな」
「⋯⋯っ、あ」


 ゆるゆると陣平が出入りを始める。
 とん、と優しく奥に当たり、ゆっくりと内壁を滑ってぎりぎりまで引き抜かれ、再度ゆっくりと奥に当たる。

 次第に名前から上擦った甘い声が漏れ始め、陣平に回った指先が時折びくりとその背を掴む。


「あ、ん⋯⋯っ、んん」
「⋯⋯っすっげえ、」


 痛みをいなしている素振りがなくなった名前に、腰を打ち付ける。やわらかな胸が揺れる。名前の眉が切なく寄せられる。角度や強弱を様々変え、名前が陣平を最も感じられる場所を探す。

 その度に名前が見せる反応に、陣平を幾度とない射精感が襲う。抗わずに従ってしまえば、酷い快楽が待っている。それは本能的に分かるのだが、ここで終わるのは余りにも勿体なく、陣平は死ぬ気で堪える。
 
 そうして何度も抽挿を繰り返していると、名前の声が一層蕩けた場所があった。


「ひゃ、そこ⋯⋯っや」
「ここ、いいか?」
「うん、⋯⋯っきもち」
「ん。そのままな」
「っぅ、ぁ」
「バッカ、これ以上、締めんな⋯⋯っ」
「や、そこ、ばっかり、そんなに⋯⋯っぁ、あ」


 抉られるような快感。名前は思わず陣平から手を離し、腰を引かせた。その腰をがしりと両手で掴まれ、引き寄せられる。何かを掴んでいないと引き摺り込まれてしまいそうで、頭元のシーツをぎゅうっと掴む。

 涙の滲んだ瞳で必死に陣平を見つめる名前の乱れた姿に、陣平の嗜虐心が疼く。

 
「こおら、逃げんな。大丈夫だから。そのまま俺のこと見てろ」
「っ、でもっ、ぁ」
「あー?」
「だって、そこ、だめ⋯⋯っ」
「痛えか?」
「ううん、ちが⋯⋯気持ち、過ぎるの⋯⋯またちがうの、が⋯⋯奥⋯⋯っ」
「⋯⋯お前、もしかしたら中でもイけんじゃねえの」
「ん、ぁあ⋯⋯っ、まっ、て」

 
 容赦なく突かれる。何度も。何度も。
 溢れる嬌声を抑えることは出来ず、喉がひりつき、声が掠れる。ぽたりと頬に落ちたのは陣平の汗だろうか。頭に靄がかかったように浮かされて、上手く考えることが出来ない。何か大きなものが身体の内をじわりじわりと犯していく。それが怖くて、なのに愛おしくて、どうしたらいいのか分からない。

 分からなくて、ただ。
 その人への想いを呟く。
 
 
「やぁ⋯⋯っじんぺく、だい、すき⋯⋯陣平くん」
「──ッ、んなこと言っ⋯⋯加減、利かねえぞ」
「ん、陣平く、気持ちく、なってほし⋯⋯っ」


 堪らず目の前で揺れる乳頭に齧り付く。名前の身体が震える。呼応するように名前の下腹部が一息に緊張し、その双眸がどこか宙を彷徨った。
 
 
「ぁっ、んん⋯⋯んぅ──っ!」

 
 ぐん、と最奥を穿たれたその刹那。先程とは比べ物にならない快感が脳を突き抜ける。息が詰まり、身体が細かに痙攣を起こす。

 ぎゅうぎゅうと収縮する内壁に締め上げられ、耐えに耐えた陣平も遂に白旗を挙げる。


「⋯⋯っ、もー保たねえ、出すぞ」
「ん⋯⋯っんぁ」


 未だ痙攣の収まらない名前の身体を激しく揺さぶって程なくして、陣平は膜越しに名前の中に注ぎ込んだ。じん、と腰から全身に快感が広がる。それは今まで経験したどんなものよりも大きく、得も言われぬ幸福感を携えていた。

 そっと瞼を落としそれを享受する。しかし到底全ては受け止めきれず、溢れたものが深い吐息となって吐き出される。
 
 ややあって目を開ける。くたりと脱力し、時折不規則な痙攣に襲われている名前を抱き締め、唇を重ねる。


「名前⋯⋯悪い、大丈夫か?」
「⋯⋯ふふ」
「だよなあ、大丈夫じゃねえよな」


 ほんと悪かった、と言いながら、しかしその口は何度も名前の唇を食み、時折耳朶を嬲っている。本気で悪かったと思っているのか怪しいところである。

 そんな陣平の癖毛に指を絡め、名前は余韻に浸るように目を閉じる。
 

「⋯⋯全然大丈夫じゃなかった⋯⋯幸せ過ぎて、大丈夫じゃなかった」


 耳元で囁かれた名前の言葉に、名前の中で硬度を失いかけそろそろ引き抜かれようとしていた陣平の物が反応する。急激に存在を増したそれに、名前は思わず声を上げた。


「きゃっ⋯⋯?!」
「うお、やっべ」
 

 予想だにしなかった出来事に、陣平自身も声を上げる。その心は、驚き半分呆れ半分といったところか。たった今、名前の中に吐き出したばかりだというのに。何がどうしてこうなるのか。これは陣平も初めての事であるからまるで訳が分からないし、生命の神秘すら感じる。
 
 対して名前は「わ、ど、どうしたら⋯⋯また大きくおなりに⋯⋯っ」と慌てていた。その初さが可愛らしくて、陣平から笑い声が落ちる。すっかり硬度を取り戻してしまった物を、名前の中からゆっくりと引き抜く。

 その時名前の顔に一抹の寂しさのようなものが過ぎった気がして、陣平は名前の頬に手を添えた。

 
「今日が初めてだったのに、流石に二回はしねえよ。身体しんどかっただろ⋯⋯ありがとな」


 名前の頭を、くしゃりと。陣平の手が撫でる。名前は上目遣いで陣平を見上げた。

 陣平が名前の中から出ていってしまった瞬間感じたのは、確かに寂しさだった。漸くひとつになれたのに、離れてしまったという感覚。
 
 しかし一方で、直後だというのに陣平の物がすぐに“そう”なってくれたことも、それを我慢してくれていることも、身体を労ってくれることも、どれもが嬉しい。


「陣平くん⋯⋯どうしよう」
「どーした?」
「好きの気持ちが止まりません⋯⋯」
「⋯⋯っ、やめろ、マジで、今俺すげえ我慢してんだからよ⋯⋯」
「ふふ」
 

 気怠げな動作で体勢を変え腕枕をしてくれる陣平にゆっくりと身体を預ける。全身が重たい。思うように動かすことが出来ない。眠たい。

 
「⋯⋯あの、さっきの約束ね、」
「あん? 約束?」

 
 とろりと重たげな瞼で名前が呟く。
 

「陣平くんがいない時には、無茶をしないってやつ。⋯⋯守るから、陣平くんも約束してくれる?」
「何?」
「わたしがいてもいなくても、無茶はしないって」
「いてもいなくても⋯⋯って何で俺は全面禁止なんだよ?」
「だって陣平くん、無茶の程度が異次元だもん」
「はっ、窃盗犯にショッピングカートで向かって行く女に言われたかねえな」
「あはっ」


 こうして睦言を語るうち、いつの間にか名前は瞼を閉ざし、陣平の腕の中でちいさく穏やかな寝息を立てていた。昼寝と呼ぶには些か夜が近いが、起こすのも忍びない。名前は何も言わないが、その身体に無理を強いてしまったことは確かなのだ。

 思えば陣平にも、程よい疲労感と眠気が近付いてきている。念の為、帰らなければならない時間にアラームをセットし、名前に腕を回す。陣平も束の間瞼を閉した。



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