星を鷲掴む





 陣平の腕の中でころりと身体を転がされ、背中から抱き締められるかたちになる。首筋に陣平の顔が埋まって、それと同時に胸を手のひらで覆われる。


「⋯⋯っ」


 自分で、分かるのだ。
 まだ触れられてもいないというのに、触れてもらえることを期待し、胸の先端が敏感に硬くなってしまっていることが。下腿の間、疼いた蜜道がすっかり潤いを帯び始めていることが。

 後ろから抱え込まれているせいで、何をされるか分からない。それが余計に名前の興奮を煽る。

 乳首を捏ねられると同時に、臀裂に硬く反り勃ったものが押し付けられる。腰を反らされ、臀部を差し出すように引き寄せられる。ぐ、ぐ、と数度腰を前後されてから、ぬるりと滑る陰裂に滑り込み、幾度も擦られる。


「っぁ⋯⋯じんぺ、く」

 
 名前も陣平に何かしてあげたいと思うが、一方ですぐにでも求めてほしいと思ってしまう。名前を抱き締めながら胸を弄る腕に縋り付く。ずくり、ずくり。切なく疼いている陰核に陣平の指先が伸び、その瞬間、びくりと腰が跳ねる。反るように跳ねた腰をそのまま固定され、ぬるぬると動いていた屹立がつぷりと壁を破る。


「ぁあ⋯⋯っ、挿入っちゃ⋯⋯ぅあ」
「は、きっつ⋯⋯痛くねえか?」
「ん、全然⋯⋯ひ、ぁ」
「まあもうこんな濡れてっしな⋯⋯急いじまって悪りいな、けどあんま時間ねえからよ」
「ううん違うの、わたしが欲しくて⋯⋯ぁん」
 

 側臥位のまま、後ろからゆるゆると突かれる。ぴたりと閉じた両下肢に圧迫されながら陣平が出入りする。その圧と、朝という時間帯のせいで、陣平のかたちと硬さがありありと感じられる。どんなものが自分のなかに挿入り、掻き回し、突き上げているのかが分かるのだ。
 
 ──恥ずかしい。

 なのに、酷く気持ちがいい。

 声を抑えることも忘れ、目の前のシーツにしがみつく。腰に回り陰核をくにくにと押していた陣平の手が、上になっている方の膝裏に掛かる。そのままくいっと片足を持ち上げられ、閉じていたはずの下腿をおおきく開かれる。


「や⋯⋯っ、きもち」
「あー⋯⋯朝すんのいいな」
「ん、ぅ」


 深く奥まで届く体勢に、その快楽に、名前はふるふると頭を振る。


「あ? 良くねえか?」
「ちが⋯⋯っ良す、ぎて」
「ん、何だ?」


 その先の言葉を促され、名前は再度、ふるふると頭を振る。


「良す、ぎて、変になっちゃ⋯⋯ぅああっ」
「お前⋯⋯もーくるんじゃねえ? これ」
「なん、で、分か⋯⋯っ」


 もう達してしまいそうなナカの具合を感じ取られてしまったらしい。一層深く、一層奥まで。小刻みに一定のリズムで穿たれ、名前の身体が時を止めたように強く緊張する。


「ひぅ⋯⋯っも⋯⋯ねぇ陣、く」
「あ?」
「わたしだけ⋯⋯っイッちゃっても、いい?」


 掠れた声で泣きそうに強請られ、陣平の屹立がびくりと張り詰める。


「⋯⋯ッ、バッカ、ヤロ⋯⋯」
「んぁあっ」
「俺も一緒にイッちまうっての⋯⋯」
「きゃ、や、あぁ──⋯⋯っ」


 ほぼ時を同じくして、二人で快楽に落ちていく。腰から突き抜けた快感に震え、陣平は名前の中に膜越しに欲を吐き出した。

 最たる快楽に意識を滲ませ、名前は目を閉じる。この、荒くなってしまった息が落ち着けば。もう一度眠りに落ちる。そのことを想像し、幸福感に包まれる。何と心地いい瞬間だろう。陣平の腕の中、昇り詰めた体温を分け合ったまま、安らぎに満ちた眠りに落ちる。

 そうして身体の力が抜けていく名前に、陣平は慌てて声を掛ける。


「名前、寝んな⋯⋯仕事あんだろ」
「⋯⋯ん、そうだった」


 落ちかけた意識を戻しながら目を擦る名前を、陣平はやわく抱き締める。出来ることならこのまま寝かせてやりたいし、陣平としても酷く名残惜しいが、ここで甘えてしまうとこの先の生活に響く。

 名前もそう思っているようで、緩慢な動作で上体を持ち上げた。「何時だろ⋯⋯」と時刻を確認するその眠たげな双眸を、愛おしい心地で見上げる。

 
「間に合うか?」
「うん、余裕持って目覚まし掛けてるし、今日はお弁当やめるから⋯⋯よーし、もう起きた! 朝ごはん準備するね」
「いや、俺のことは気にすんな。自分の準備だけしろ」
「ふふ、うん」


 その笑みを見て、絶対俺の分も用意するなこいつ。と思う。

 名前といると、身体が整う。
 
 寝て、食べて、仕事をし、身体を労り、好きなものに時間を掛け、そうして大切な人と愛を紡ぐ。

 名前といると、心が整う。

 名前に対して沸き起こる恋情や欲情は確かに滾る程のものなのに、いつだって陣平に残るのは、穏やかで充足した心だ。

 名前から少し遅れてベッドを出る。シャワーを浴び、朝食を摂り、一日を名前の家でスタートさせるのだ。

 それはまるで、いつか手にしたい未来のようで。陣平は頭を抱えるようにして、くしゃりと前髪を握った。







「俺も一緒に家出るからな」


 寝室からワイシャツのボタンを留めながら出てきた陣平に、ちょうど髪を纏め終えた名前がぺたぺたと駆け寄る。

 
「あっ、ネクタイ! わたしやりたーい!」
「? ネクタイ?」


 首を傾げる陣平の手から、するりとネクタイを抜き首に掛ける。不思議そうにしながらも大人しくやらせてくれる陣平に微笑んでから、最もオーソドックスな方法でネクタイを締めていく。


「お、上手え」
「ふふ」


 笑った名前はしかし、作ったループに大剣を通そうとしたところでふと動きを止め、心なしか頬を赤らめ呟く。

 
「でも何かこれ⋯⋯ちょっとえっちだね⋯⋯」
「オメー⋯⋯んなこと言ってっと朝から襲うぞ」
「もっ、もう襲ったもん!」
「あ? そーだっけ? どっちかっつーとお前が誘ったみてえなもんだろ」
「んぐ」


 頬を染め口を噤む。けたけたと笑う陣平をじとっと見上げてから大剣を引っ張り、最後の仕上げに結び目のかたちを整える。


「はい、出来た。苦しくない?」
「おう、いー感じ。⋯⋯そしてお前は顔緩みすぎ」
「ふふ、嬉しくて。何か一緒に暮らしてるみたい」
「──⋯⋯ああ、そうだな」


 だがそれは、いっときの夢。
 仕事を終え帰ってくれば、名前はまた一人。陣平と会える日を心待ちにしながら、毎日を送っていくのだ。

 今朝の現実が、いつか未来の現実になればいいのに。

 そんなことを思いながら、陣平と二人、家を出る。当直を終えた陣平が、ここに帰ってくればいいのに、なんて。