日々を紡ぐと何になる





 白い肌に異様に映えているのは黒のレース。
 
 シースルーのブラジャーでは乳房を包み隠すことが出来ていない。その透けて溢れた膨らみと、一方でレースの紋様で隠された中央の尖りとが、一層それぞれの存在を際立たせている。

 扇情的な胸部から無理やり視線を引き剥がし、縊れたウエストラインを辿り下れば、両腰にはショーツを結わった細い紐が丁寧な蝶々を作っている。

 
「おい名前⋯⋯これ何?」
「ご、ごめんなさい⋯⋯っ」


 名前の顔は、かつてない程に真赤に染まっていた。今にも泣き出しそうな表情で、震えながら落ちた「ごめんなさい」。羞恥から来たのであろうその言葉に、その震える声に、陣平は酷く興奮を覚えた。そしてそれは、嗜虐心を駆り立てる。

 疼いた心の赴くままに腰の紐を摘み上げ、再度問う。


「なあ名前?」
「⋯⋯っ違うの、その、今日都と一緒に⋯⋯ごめんなさい、こんな⋯⋯」
「こんな?」
「陣平くん⋯⋯こういうの、嫌い?」


 不安げに揺れた涙目が、陣平を見上げる。その表情に、ぞくりと鳩尾が騒いだ。

 言いぶりや態度から察するに、この下着は陣平のためなのだろう。恐らく都というあの友人。彼女の仕業か。
 
 頭上に押さえつけていた両手を解いてやる。胸を隠すように下りてきたその手をもう一度取り、今度は自分の股間に導く。


「バァーカ、んなわけあるかよ。興奮し過ぎてやべえっての」
「⋯⋯っ」


 瞬く間に張り詰めていた陰茎に、布越しに名前を触れさせる。刹那、名前はひゅっと息を詰め、これ以上赤くなり得ぬと思っていた頬を更に染めた。

 ──それにしても。何て身体してやがんだ、コイツは。

 名前の体躯に、じいっと視線を注ぐ。自分でも分かるほど熱ぼったい視線だった。どこからどう堪能してやろうか。どこをどう虐めれば、名前の羞恥を最も駆り立てられるか。

 そんなことを考えつつ、気付けば吸い込まれるように、その柔らかな双丘に指を沈ませていた。陣平の手の中でかたちを変える柔肌。その中心だけがどうやっても見えず、堪らずブラジャーを引き下げる。


「あ⋯⋯っ」

 
 ふるりと顔を出した双丘は、ブラジャーに挟まれ、少し苦しそうに寄せ上げられている。色付いた中心は既に突起を尖らせていて、焦らすことも忘れ、口に含む。


「ん⋯⋯っ、ぁ」


 唇で挟み、表面を舌で撫で、時折強めに吸い上げる。一方は指先で捏ね、摘み、軽く圧し潰す。そのたびに声音を変え、名前が喘ぐ。それに気を良くし、陣平が更に虐める。

 そうするうち、すっかり息の上がった名前が、陣平の癖毛を掻き抱く。それを合図に、名前のウエストラインを指の腹で下りていく。堪らず名前が身を捩る。擦り合わせるように大腿が動き、陣平は舌の先で唇の端を舐めた。


「腰、動いてる」
「っ、だ、って」
「だって?」
「陣平くんが、そんなに触ってくれるから⋯⋯っ」
「もう欲しいってか?」
「⋯⋯っ」
 

 涙目で唇を結ぶ名前を見下ろし、「まだ我慢だ、勿体ねえから」と、大腿へと下りた指先で腿の外を撫で、ゆっくりと内側へと向かう。
 
 どこを触っても滑らかな名前の中でも、内腿は特に柔らかな皮膚を纏う。そこを上っては下り、少しずつ鼠径へと近付いていく。やがてショーツの縁まで辿り着いたところで、──陣平は息を呑んだ。


「⋯⋯おい名前」


 膝裏に手を差し入れ、ぐ、と片足を持ち上げる。名前からは小さな抵抗を感じるが、それに構わず足を開かせる。

 本来であればショーツで隠されているはずの秘部。足を開いたところで決して見えぬはずの、すでに蜜を垂らしているそこが、ぱっくりと裂けた割れ目からあられもなく顕になっていた。

 ごくり。その情景に、陣平の喉元が上下する。次いで吐き出した吐息には、名前が目を逸らすほどの色香が含まれていた。

 ──初めて見た。

 まさしく、着たまま楽しむための下着。それを“名前が”着けているという事実に、目眩にさえ似た興奮を覚える。

 
「っ、や、見ないで⋯⋯」
「無茶言うなって⋯⋯っとに、煽ってくれやがる⋯⋯」
「きゃっ、ひ、ぁあっ」


 室内の照明を受け、艶かしく光る蜜の出口を舐める。そのまま、小さく膨れている蕾を食む。こりこりと舌で嬲ると、更に蜜が溢れ出す。そこへつぷりと指を挿れると、名前の背が嬌声とともに撓った。

 蕾への刺激は止めず、蜜洞の中で指を動かす。奥まで埋め込んでからゆっくりと引き抜き、少し凹んで引っかかる場所を指の腹で擦ると、名前の大腿がぎゅうっと締まった。その箇所への愛撫を続けていると、次第に名前の声が上擦り、四肢が小さく震え出す。

 ──こりゃあ、きそうだな。

 陣平がそう思った、直後のことだった。
 

「陣平く、も、だ、めぇ⋯⋯──っ」


 ひときわ大きく、名前の身体が跳ねる。埋め込んだ指はぎゅうぎゅうと締め付けられ、それでいて奥へと誘うように蠢く。顔を上げ、咥え込まれた指を見る。ぴたりと纏わり付いた蜜壁が、指を離すまいとするように頻りにひくついていた。

 そこから視線をずらすと、名前が頬を真っ赤に上気させ、潤んだ瞳で陣平を見つめている。


「じん、ぺ⋯⋯く」
「⋯⋯っ、もう待てねえ」
 

 スウェット、そしてパンツを投げ飛ばす。張り詰めてしまっている欲望に、〇・〇一ミリの薄い隔たりをくるりと巻き付ける。蜜の溢れる割れ目に先端を擦り付けると、粘稠度の高い蜜が陰茎に纏わり付き、名前への侵入を幇助した。
 
 黒のレースに装飾されたショーツの合間から、名前のナカに欲望を捩じ込む。
 

「──っ、あ、ぁあっ」
「は⋯⋯っ、やっべ、エロ過ぎ」


 ずぷりと差し込んだ入り口。陣平と名前が繋がっているところを、まじまじと見下ろす。
 
 下着を身に着けたまま、こうも抵抗なく繋がれていることが信じられなかった。視覚からの情報と、陰茎に纏わり付く感覚とが乖離していて、脳がバグってしまいそうだ。勿論余裕などは持てるはずもなく、陣平は夢中で腰を打ち付けた。ソファが軋み、名前の嬌声が耳を犯す。理性など、どこかへ飛んでいってしまいそうだ。


「⋯⋯なあ名前」
「ん⋯⋯なあ、に」
「これ、撮ったら怒るか? 何回でも見てえんだけど」
「なっ⋯⋯」


 刹那、名前の目が丸く開かれ、驚愕の表情が向けられる。それを見て、やっぱ駄目か、と陣平は唇を尖らせた。

 
「⋯⋯ジョーダンだって」
「うそ! その顔! 冗談なんかじゃ、な⋯⋯っあぁ、ん」
「じゃあ今もっとよく見せろ。んで、これからもたまに着ろ」
「んっ、ぁあ」


 一頻り奥を穿ったのち、名前の上体を起き上がらせる。ソファに腰を掛けた陣平の上に跨らせ、結合部を覗き込ませる。


「ほら、お前もちゃんと見とけ」
「やっ、ぁ、やだ、よお⋯⋯」


 ふるふると頭を振る名前の腰を掴み、ぎりぎりまで引き抜いては、下から突き上げる。名前も興奮しているのか、普段よりも感じ易いようで、陣平の首にしがみつく手が行き場を求めるように爪を立てる。


「も、きちゃいそ⋯⋯っ」
「いーぞ、こい、名前」
「ん、んぅ⋯⋯っ」


 子宮口をぐりぐりと押し、名前の身体を強く抱き締める。耳元で名前を呼ぶと、名前は陣平の腕の中で絶頂を迎えた。

 陣平の肩に頬を乗せ息を整えている名前の、乱れた髪を梳く。ブラジャーの肩紐を二の腕までずらし、鎖骨に吸い付く。束の間吸い上げてから唇を離すと、赤く鬱血痕が残る。

 ──俺のもん、ってか。

 独占欲の体現に自嘲を漏らしてから、名前をソファに四つ這いにさせる。丸みを帯びたヒップラインの中央は、後ろから見ても布がぱくりと開いており、そこに迷わず陰茎を突き立てる。

 何度でも、いや、いつまででも続けられる気がした。
 
 バッグを堪能したら、と考える。
 バッグを堪能したら、次はソファの背凭れに掴まらせて立たせたり、そこに座らせたりと、ベッドでは出来ない体位をいくらでも味わいたかった。腰紐を解きたい欲望と、最後まで着たままでいさせたい欲望も天秤にかけたいし、とにかく、したいことが山程ある。

 しかし、陣平の興奮もまた類を見ないもので、名前を食い尽くすより先に限界が訪れる方が、遥かに早かった。硬度を増した陰茎が、名前の蜜壁を押し広げる。激しくなる腰の動きを止めることが出来ない。

 まだ名前を抱いていたい気持ちと、抗いきれない射精感。快楽の坩堝で頭を悩ませる陣平に、振り返った名前が切なく掠れた声で強請る。


「陣平く、中に、ちょーだい」
「──ッ」


 避妊具を着けている事は分かっているのだ。名前も、陣平も、分かっているのだ。しかし今の台詞は、陣平の理性を飛ばすのには十分過ぎた。

 名前の後頭部を軽く押さえつけ、ソファに押し付ける。高く上がった腰を掴む手に力を入れ、最奥目掛けて腰を打つ。


「っ、ぁ、ああ──っ」
「っ出す、ぞ」


 薄膜越し、名前の奥深くに白濁が流れ込む。名前の身体を自分が汚しているのだと思うと、征服感や支配欲が満たされた。そして陣平が果てるのと時を同じくして、名前もエクスタシーへと溺れていった。