「手、ついて。ここ」
くちゅりと乱れた音が響く。
太腿の途中まで半端に下ろされたタイツと、捲りあげられたスカートの間で、溢れた愛液と彼の屹立が擦り合わさる音だった。静謐な夜々中に、それは酷く情動的だった。羞恥と興奮とで止めどなく溢れてしまうのが、自分でもわかる。
机に両手をついたわたしの腰に、後ろから彼の手がまわっている。顔を見ながらの行為しか経験がないから、どこか心細い。彼のおおきな体躯に縋り付きたい。
それなのに、この体勢のまま彼が挿入ってくるのかと思うと、どうしようもなく欲情した。ぐずぐずに溶けたところが、どうしようもなく切ない。
擦り付けられるだけではしたない声が溢れてしまいそうで、机に両肘をつけ、空いた二つのてのひらで必死に口元を押さえる。
「⋯⋯挿入っちまいそう」
ぬるりと秘所を動く彼は、時折り導かれるように入り口の凹みに引っ掛かる。そのまま僅かに力を入れれば簡単に挿入ってしまうところで、しかし彼は何度も腰を引く。
挿入りそうで、挿入らなくて。
挿れてほしいのに、挿れてくれなくて。
その間にも愛液を零す芯の熱は上がり続ける。擦れる陰核からは痺れるような快楽が昇り、享受しきれずに涙が滲む。欲しくて、欲しくて、おかしくなってしまいそうだった。
限界だ。
これ以上焦らされてしまえば、わたしは、──わたしは。
融解した思考のまま、辛うじて上体を捩って振り返る。ぺろりと自身の唇を舐めた彼が、わたしを見下ろしていた。
欲情した、男の、目だった。
「⋯⋯欲しいの?」
「もうちょいだーめ」
「我慢できねぇの?」
「へえ、でもあと少し我慢な」
首を振って答えるだけのわたしに、彼の熱っぽい囁き声がかかる。そのたびに全身が痺れる。鼓膜までが性感帯になったようだ。
もう情緒がぐちゃぐちゃだ。一也くんが愛おしい。辛い。愛おしい。欲しい。もうだめ。もう無理。お願い。一也くん。
ついに零れてしまった涙粒を舐め取り、「お前、ほんっと最高」と呟いた彼は、その硬く膨れたものを──ゆっくりと埋め込んだ。
「────〜〜〜〜っっっ!」
──信じられない快楽だった。
電撃が走るように全身を包んだ快楽に、脳がびりびりと悲鳴を上げた。限界を超えて疼いていた花芯が、彼を不規則にキツく締め上げている。なにこれ。なに、これ。気持ちよすぎる。
「⋯⋯名前」
「⋯⋯っ、」
はっ、と艶っぽく落ちたのは彼の吐息だろうか。
ゆっくりと確実に最たる奥まで埋め込んで、さらにそこを彼はぐりぐりと押し付けるように刺激した。
「ぁ⋯⋯──! 、んん」
枷にしていたてのひらを、つい離してしまっていた。いや、離れてしまっていた。声がどうとかそんなことを考える余裕はなかった。ただ、受け止めきれずに零れてしまいそうな快楽を握りしめるように、机の上で硬く拳を作っていた。無意識だった。
だから代わりに、後ろから彼の手がわたしの口を塞いだ。出かけた嬌声が既のところで抑え込まれる。
わたしの意識が声へと向いたのを確認してから、彼は手を緩め、指先で唇の端をなぞった。柔らかさを楽しむようにして口角まで移動したところで、再度口元をしっかりと覆う。
彼の腰がゆらゆらと動き出す。肌と肌の音が鳴らぬように配慮されているはずのその動きは、しかし驚くほど深くわたしを穿つ。
「っ、──っん、ぅ」
腰があたるたびにかたちを変える乳房の先端を弄られ、背筋が緊張する。その背筋をなぞられ、かと思えば陰核を捏ねられ、中がキツく締まる。
顔を見たい。キスしたい。抱きしめたい。抱きしめて欲しい。そのどれもが叶わないくせに、酷く気持ちよくて、酷く気が昂った。
決して激しくはない抽挿に導かれるように、昂りが高潮していく。それは挿入時の快感に似ていた。じわじわと広がり、脳髄を犯し、そうして最後に全身を支配する。
何かが、目の前で弾けた。
「んぅ、んっ⋯⋯──!!」
──脳が蕩けてしまいそうだ。
そんなことを、とろとろの頭で思考する。身体は言うことを聞かず、花芯の収縮に合わせ緊張と弛緩を繰り返した。くてりと机に放り投げた体躯に、彼がやわく覆い被さる。
「名前」
「⋯⋯か、ず」
「ああ、気持ちいな」
頬に落ちるキス。ふわりと撫でてくれる手。安心感と心地よさに、目蓋を閉じる。このまま意識を閉してしまいたい。そう思う。
そう、思ったのに。
耳元で囁かれた次の句に、わたしの意識は現実に戻る。
「──もう少し身体保ちそうか?」