様子を覗い見るように彼の顔を覗き込む。眼鏡に夕空が反射している。風はほとんどなく、雲は動かない。美しい情景だ。その美しさに、ほんの一瞬だけ息を呑んだ。
「⋯⋯一也くん。目が夕陽の色になってる」
「は?」
「ふふ、綺麗」
彼のユニフォームを抱いたまま、わたしも横になってみる。アスファルトにあたった後頭部が痛くて、少し笑える。
笑えるのに、何故か泣いてしまいそうになった。
わからないことばかりで、考えすぎて、もう限界かもしれない。一也くん。あなたへの想いで、──壊れちゃいそうだよ。
何も言えずにいると、暫くして彼が口を開いた。
「⋯⋯お前さ」
「⋯⋯ん?」
「信じてるか?」
──俺らの甲子園。
それまで流れていた世界の音が止まって。
彼の唇がそう動いた。
上体を起こして、彼のユニフォームを抱いたまま、真っ直ぐに彼を見下ろす。
「信じてるよ」
ほんの僅かの迷いもなく、わたしは告げる。先程まで吹いていなかった風が、ざあ、と髪を攫った。
「信じてる」
何度だって言える。信じている。彼の野球、そして彼自身に対する想いが、揺らいだことなど一度もない。
苦しい。
苦しい。
溢れて、溢れて。
もう、溺れてしまいそうだ。
「⋯⋯一也くんは、ほんとにずるい。なんでそんなこと聞くの⋯⋯わかってるくせに」
「⋯⋯名前」
「わかってる、くせに⋯⋯」
彼ははっとしたように目を開いて、慌てて起き上がった。視界が滲む。ぼやけてしまった世界の輪郭の中、夕陽の色した彼だけが浮かぶ。
「もう、一也くんの意地悪! ばか! あんぽんたん! 人でなし!」
「わ、わかったから叩くなって」
べしこべしこ! と、彼の胸を手のひらで打つ。彼は困ったような、どこか辛そうな表情をした。
その手をそっと、しかし確かに掴まれる。
「名前、ごめん。わかってるから⋯⋯そんな顔すんな。お前のその顔、弱ぇんだよ」
「⋯⋯そんなの知らないもん」
「⋯⋯名前、頼むから」
切なそうな彼の声がそっと触れて、
──わたしを包んだ。