11.あふれる


 己を奮い立たせる青道。

 対する打席には兄が立つ。

 

「────⋯⋯」



 その光景に、わたしは息を呑んだ。

 兄の姿が。一也くんの姿が。ゆらりと揺らめく。焦げつく太陽の光をその身に受け、──陽炎のように。


 ──ああ。

 なんて、美しい。



 兄のバッドが川上先輩の球を捉えた打球は、無情にもセンターの頭上を超える。ランナーが帰ってくる。帰ってきてしまう。

 兄が掲げた拳が天をつく。

 それをみた瞬間。周りの音がぐわんと歪んだ。まったく耳に入ってこない。陽光に揺らいでいた景色が、じわじわと濡れ滲んでいく。


 どうして。どうして。

 信じられない。
 
 あとひとつ。
 あと、たったひとつだったのに。

 皆が焦がれ続けた夢の舞台まで、あとアウトひとつで手が届いたのに。ここで終わりだというのか。これで終わってしまうというのか。

 あまりにも──残酷だ。

 膝上で握った拳の上に、ぼたぼたと涙が落ちる。止まらない。見届けなければ。こんな死闘を繰り広げた選手たちを、しっかりと見届けなければ。そう思うのに、次から次へと溢れる涙が視界を遮り邪魔をする。

 一也くんはどこにいるのだろう。どんな顔をしているのだろう。三年生は。監督は。兄は。

 見えない。
 溢れて溢れて、見えない。

 逆転サヨナラ。
 劇的な幕切れ。


 これが、──わたしたちの夏の終わりだった。





 バスの中でも、寮に戻ってからも、三年生の涙が止まることはなかった。

 部員の前で泣くわけにはいかない。三年生の前で泣くわけにはいかない。

 重みが違う。懸けてきたものが違う。
 同じように涙を流すことが許されない気がして、スタンドを離れた瞬間からわたしは必死に唇を噛み締めた。泣き続ける先輩たちにかける言葉など、誰も持ち合わせていなかった。

 実感が持てない。
 さっきまで一緒にプレーしていたこのひとたちは、同じ場所で生きてきたことひとたちは、もう。

 ──明日からはいないのだ。

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