13.砕けた星屑、爪痕の花


「そんな思いしたあとに、ミッシーマに詰め寄られて監督にセクハラされそうになったら、そりゃ拒否るよな。俺だって逃げ出すわ」
「く、親父⋯⋯恥⋯⋯!」
 轟が頬を赤くした。

「まあ、そういう俺も久々の女の子の感触に癒やされたんだけどさ。お前すげーな、野球も超高校級で彼女もいて」


 聞き捨てならない台詞──主に前半部分だが──に、真田の背から奪うように名前を抱きかかえる。


「名前、こっち来い。お前の身が危ねえ」
「⋯⋯⋯⋯あ、れ、一也くん?」


 その弾みで起こしてしまった。薄らと開いた名前の瞼。焦点の定まり切らない双眸が、ややあって俺を捉えた。


「ああ。わかるか、よかった。横になれるとこ連れてくから、もうちょい我慢な⋯⋯ったく無茶しやがって」
「⋯⋯ごめんなさい。思ったより熱の破壊力が」
「わーったわーった。ほら、おぶされ」
「ん⋯⋯」


 素直に俺の背に凭れる。その様子に、真田は「へえ」と呟いた。

 背中の名前が熱い。
 首筋にかかる吐息が熱い。

 春、名前が球を踏んで捻挫した時。肩に担いだ身体を思い出す。あの時はこいつのことを、まだ深くは意識していなかった。

 しかし今はどうだろう。

 背にあたるやわらかな膨らみや、腕に感じる太腿の感触。不謹慎とは思いつつ、別の意味で逸る心臓を自覚する。

 これを真田も知ったのか。
 そう思うと、一発くらい殴っても許される気がした。

 俺の背でおさまりどころを見つけた名前は、そういえば、と気怠げに口にした。


「たしか⋯⋯真田さんたちが」
「ああ、そっちにいる」


 両手が塞がっていたから顎でくい、と示す。それを視線で追った名前が、やや頭を擡げた。


「⋯⋯ありがとうございました。たくさん迷惑かけちゃって、ごめんなさい」
「いや、俺らはなんも。羽みてえに軽かったし。無理しねえでゆっくり休めよ」
「⋯⋯ふふ、羽って」


 力なく笑って、その次にはすう、と寝息が聞こえた。名前の身体の力が抜け、俺にかかる重みが少し大きくなる。また眠ってしまったようだ。

 名前の身体を支えながら立ち上がる。礼ちゃんと倉持がこちらに向かってくるのが見えた。


「轟悪ィ、名前の鞄、倉持に渡してくれるか」


 うんうん、と轟は首を前後に振る。こいつ、めちゃくちゃ人見知りじゃん。グラウンドとは本当に別人だな。


「それにしてもあれだな。天才捕手サマにこんな弱点があったとはな」
 真田が意地悪と取れる笑みを浮かべた。

「弱点? こいつが? ⋯⋯ははっ、はははっ」


 突然笑い出した俺に、真田と轟はぽかんとしてみせた。

 弱点? 名前が、俺の? 笑わせてくれる。


「ジョーダン。こいつは俺の、──一番根っこの『強み』だよ」

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