「何だコレ、どういう状況だよ。薬師の真田に轟? つーか名前ちゃんどーした、くったくたじゃねえか」
倉持は訳も分からぬまま、ただ轟が差し出した名前のスクールバッグを受け取っている。
「まあ、色々あったんだよ。御幸に聞いてくれ。じゃ、俺らはここらで退散するわ。腹減ったし。行こーぜ雷市」
「⋯⋯、」
「⋯⋯雷市?」
動こうとしない轟を、怪訝そうに真田が見下ろす。轟は暫しもじもじと指先を弄ったあと、口を開いた。
「⋯⋯その子、に、膝⋯⋯怪我させてごめんって、言っといて⋯⋯ください」
「轟⋯⋯」
お前が怪我させたわけじゃねえだろ。
そう言いかけて、やめた。
「⋯⋯分かった。二人とも、ありがとな」
轟のこの言葉を伝えた時の、きょとんとする名前の様が目に浮かぶ。そのあとに「何で轟くんが謝るんだろうね、ふふ」と肩を揺らすところまで想像出来た。
「次はまた、グラウンドで」
「ああ」
今度こそ踵を返した二人を見送る。ずり、と僅かに下がった名前の身体を軽く弾みをつけて背負い直し、礼ちゃんに声を掛ける。
「礼ちゃん、こいつどうしよ。本当なら車でも出して貰いたいところなんだけど、こいつんち今日誰も居ねーんだって」
「誰も?」
「鳴は帰ってきてるかもしんねえけど、寮だし⋯⋯お袋さんと姉ちゃんたちはまだ甲子園旅行してるっつーし、親父さんは泊まりの仕事だっつって」
「名前ちゃん、姉ちゃんも居るんだな」
「しかも二人な」
「全部で四人かよ、ヒャハ!」
兄弟がいるってどんな感覚なんだろうな。名前が普段身を置いている賑やかな家庭を思い描き、ふと、寂寥にも似た感情が迫ってきたことに気づく。
別に自らの境遇を愁えた事はない。つまり正確には寂寥ではないのだが、心の奥を撫でるようによぎる、一抹の。
俺は、その温度を──知らないから。
いつかこいつが教えてくれればいい。
そう思う。
「まずはお父様に連絡取ってみないとダメね。それまで寝かせてあげましょう。倉持くん、寮の管理人さんにお願いして、(男の寄り付かない安全な)部屋と布団の準備お願いして来てくれるかしら?」
「うっす」
倉持が名前の鞄を肩に提げ、軽快に駆けていく。相変わらず速ェなと見送っていると、礼ちゃんが意味有り気な視線を向けてきた。
「御幸くん、あなた、ずっともちゃもちゃしてると思ってたら、やっと伝えられたのね」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「何? そんな変な顔して」
「いや⋯⋯俺ってそんな分かりやすい? 前に倉持にも言われたんだけど」
「フフ、あなたたちは分かりやすいわよ。あんなに相思相愛なのに、なかなかくっつかなくて皆モヤモヤしてたわ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「あら、またそんな顔して」
くすくすと笑う礼ちゃんに何も言い返せず、俺ばかりが気不味いまま、寮へと戻ってきた。
名前、俺ら、めちゃくちゃ分かりやすいってよ。背中に向かって、胸中でごちた。
◆砕けた星屑、爪痕の花◇