14.夜の吐息の落ちぬ間に


 時に押し返されながら時間をかけ沈み込んだ指は、一時そこで留まったのち、徐々に内を探るように動き始める。


「⋯⋯大丈夫か?」
「ん、⋯⋯だいじょ、──っひぁ」


 とある箇所を押されたその瞬間、頷きかけた首筋が反り声が漏れる。

 ⋯⋯なん、だろう。
 なんだろう、これ。

 頭を撫でてくれていた彼の手に手のひらを重ね、ぎゅっと力を込める。彼は手のひらを返し、指を絡めてくれた。


「⋯⋯つらいか?」
「んん、ちが、⋯⋯わかんっ、な」


 恐らく、いずれは快楽へと変貌する感覚なのだと思う。しかしまだ身体がそう認識できない。そんなことを朧気に思う。

 熱い。熱い。
 頭が溶けてしまいそうだ。

 十分に馴染んだ頃合いに、もう一本の指がゆっくりと埋められる。ぎゅうぎゅうと指を締め付けてしまっているのが、自分でもわかる。

 彼は全身にキスを落としながら、わたしが気持ちいいと感じられるあらゆる箇所に優しく優しく触れてくれる。

 こんなに優しい愛され方。知らない。どうしよう。愛おしい。抱きしめたい。抱きしめてほしい。ひとつになりたい。もっとふかく、彼を求めたい。わたしを求めてほしい。好きで堪らない。

 断片的になってしまう散り散りな思考が、ちかちかと浮かんでは消える。熱に浮かされるように彼の名を呼んだ。


「っかず、かずやく、」
「ああ、ここにいる」
「⋯⋯っかずやくん」


 苦しくて、苦しくて、どうにもならない。目の前にいる彼に手を伸ばし、ぎゅうと抱きつく。胸板がぴたりと胸に密着した。

 彼はもとよりわたしの足の間に位置していたから、つまり、わたしの秘部に、存在を存分に増した彼が擦れた。

 互いが息を呑む。

 ──こくり。
 彼の喉元が上下したのを感じる。


「⋯⋯名前、ほんとに大丈夫か? 俺、これ以上は⋯⋯止められる自信ねえ。けど、傷つけたく、ねえんだよ」
 

 この期に及んでこの優しさ。堪らなくなって、彼のこめかみに擦り寄る。

 どうしたら伝わるのだろう。

 わたしのこの気持ちは、どうしたら。


「かずやくん、好き、⋯⋯大好き、だいすきなの、⋯⋯っほしがって、ほしい」
「──ッ、」


 これまでで一番、荒々しくて、切なさに満ちた口づけだった。否応なしに塞がれた唇からは、愛しさのあまり溢れた嗚咽が零れる。

 いつ用意していたのか、どこから出したのか。わからないけれど、彼は口づけをしたまま器用に避妊具を開け、装着していく。

 充てがわれた先端がぬる、と上下を繰り返す。時々花芽が擦られ、びくんと身体が揺れた。蜜に濡れた音が響く。

 暫く外側を動いたあと、彼は、その先端をなかへ進めた。


「───っ! っ、ん、」


 初めてだからわからないけれど、それでも彼は十分過ぎるほど準備を整えてくれていたと思う。

 なのに、この、物凄い圧。

 おおきくて、硬くて。

 彼のかたちに押し開かれるやわらかな壁が、先ほどは感じなかった痛みと、彼の熱さを伝えてくる。


「っは、名前、力、抜け⋯⋯っ」
「んゃ、⋯⋯ぁ、はっ」
「名前、⋯⋯っ俺のこと、見ろ」


 言われるがまま瞼を上げ、生理的に滲んだ視界で彼を捉える。不思議と少し力が抜けた。

 彼も苦しいのか、熱っぽい吐息が搾り出される。それでもわたしの名を呼び、諭すように頭を撫でながら唇を重ねてくれる。

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