ぱち、とホックが外れる音。首筋にキスが落ちると同時に、肌蹴た膨らみの中心を触れるか触れないかの際で擦られる。
「ん、っ」
「この間より感じんの?」
「⋯⋯っは、」
気持ちいい。
はじめて身体を重ねたときよりも、快楽が快楽として駆け巡る。きっと、まだ、先がある。そんな期待さえしてしまう。
首筋や鎖骨、胸骨上縁。少しずつキスが降りてくる。刺激に慣れた頃には、先端をくにりと捏ねたり、軽く摘んだりする愛撫へと変わっていた。
「⋯⋯っ一也くんは、どうされるのがいいの?」
「ん?」
「わたしばっかり、だから」
わたしばかりが愛してもらっている。わたしも彼に何かしたい。気持ちよくなってほしい。どこにどう触れたら、一也くんは嬉しいの。
「そんなふうに思ってくれんの?」
返ってきたのは、予想よりも穏やかな声だった。
「ありがとな。⋯⋯けど、それは名前が教えて。俺だって名前がはじめてなんだから」
「そ、⋯⋯っか」
そうか。そうなのか。
なんだか手慣れているような。いつだってリードしてくれるし。みたいな気持ちだったから、思わずきょとりと目を開く。
少し迷って、問うてみる。
「⋯⋯触ってもいい?」
「はは、どーぞ」
まずは服の上から大腿に触れてみる。すごい筋肉だ。「すごい筋肉」と呟いてしまってから、心の声まんまじゃん、と胸の内で苦笑い。
少しずつ探っていくと、腰の真ん中で存在を増したものに行きついた。その大きさと硬さに唾をのむ。わたしにとっては完全に未知のものだ。正視する自信もまだない。
かたちを確かめるように恐る恐るなぞると、彼の身体がぴくりと動いた。
どんなふうに。
どんな強さで。
彼が気持ちよくなってくれることを考える。それは、自分が満たされるのと同列で満ち足りた気持ちだった。
なんだか、幸せでいっぱいだな。
そんな暢気なことを思っていたら、双丘をかぷりと食べられた。徐々に近づいてくる唇に先端を刺激され、嬌声が落ちる。
「⋯⋯口、キスで塞いでないとダメ?」
「⋯⋯?」
「ここ、そんなに壁厚くねえだろ」
こつり。隣室と接する壁を、彼の指関節が軽く叩く。
そうだった。忘れていた。寮だった。下にも上にも横にも、人が住んでいるのだ。
声が聞こえてしまうかもしれない。わたしたちが何をしているか、バレるかもしれない。
その想像は、少しの焦燥と、羞恥と。そして、じわりと鳩尾あたりを蝕むような快感をもたらした。
「なに、興奮する?」
「っ⋯⋯」
ふるふる。頭を振って答える。
「超濡れてるけど」
面白そうに弧を描く唇に、ますます恥辱を煽られる。下着の隙間から入っていた指が、お尻を掴んでいる。その場所でもわかるほど濡れているということか。言い逃れのしようもない。
「この調子でどんどん見せてよ。えっちな名前も」
「っ、⋯⋯ばか」
「な ん だ と」
「や、あ⋯⋯っ」
クリトリスへの刺激と同時に、つぷりと内壁へ。「⋯⋯痛くねぇ?」と聞かれ、頷く。痛くない。気持ちいい。だから、余裕がない。わたしも何かしてあげたいのに、そんな余裕がこれっぽっちもない。
落ちる息の甘くなるところ。
抑えきれぬ声が漏れるところ。
全部見つかってしまう。
昂ぶる。溶けていく。しがみつく。びりびりと痺れが上ってくる。
「ま、って、一也くん」
「どした?」
「なんか⋯⋯っ、なんか、」
「⋯⋯気持ちいか?」
「っう、ん」
「⋯⋯かわい。そのまんまでいてみ」
「や⋯⋯ふ、ぅあ」
やだ。やだ。なにか来る。怖い。怖いのに。知りたい。ほしい。委ねたい。
快感が、襲い来る。
「──⋯⋯ぁ、っんん!」
全身が震える。息が止まる。彼の背を掴む指に、足先に、ぐぐっと力が入る。痺れるような快感なのに、ふわふわと浮かぶような心地。
突き抜けた波は数秒間しっかりと留まってから、ゆっくりと引いていく。滲んだ視界で彼を見上げ、短く息を吐く。
「⋯⋯一也、くん」
「⋯⋯おいおい、泣くなよ」
「そう言われると、余計に⋯⋯ぶぇ」
鼻翼を軽く摘まれる。
幸せだ。この幸福にどこまでも深く落ちていきそうで、嬉しくて、愛おしくて、涙が出てしまう。
「ほんと、可愛いヤツ」
「ん、」
ちいさなキス。その間に聞こえた音は避妊具を破る音だろうか。さっと服を脱ぎつつ「名前も脱ぐか? その肌蹴具合もイイ感じだけど」と言われる。
⋯⋯なるほどそういうものなのか。
どっちにしろ恥ずかしいことには変わりない。考えているうちに人肌恋しさが強くなり、おずおずと引っかかっている服を脱ぐ。