17.濁った心と透明な心臓と


 足が開かれる。中心に、先程はじめてこの手で触れた、硬いものがあたる。


「まだ慣れねぇだろうから⋯⋯ちゃんと我慢しねえで言えよ」


 頷き、彼の頬に手を添える。ゆっくりと入り込み、押し広げられる。内壁に彼が擦れる。ぞくぞくとした感覚に身震いする。やがて全部が埋まると、彼は深く息をついた。

 その吐息が彼も気持ちいいのだと告げているようで、嬉しい。添えた手で頬を撫でる。


「⋯⋯一也くん。キスしたい」


 一瞬驚いた表情をして、すぐに彼は笑ってくれた。滅多に──というかほとんど──見せない、甘い笑顔だった。


「どこまで俺のこと夢中にさせんの」
「その台詞、そのままお返しします」


 優しく落ちるキス。それと一緒に、ゆるゆると彼の腰が動き始める。動きが大きくなるにつれ比例して大きくなる嬌声は、彼の唇に吸い込まれる。

 頭頂を抱えられ、身体の揺さぶりが押さえられる。そのぶん中で動く彼をより感じる上、奥にぐりぐりとあたる。

 一心に享受していると、暫しの後に背中の下に手が回って、ぐいっと抱え上げられる。彼の大腿に乗せられ、向かい合って抱き合う。これまでとは異なる箇所に彼があたる。

 一旦動きを止めた彼が、唇を離す。


「⋯⋯声、抑えられそうか?」
「⋯⋯?」
「もっとめちゃくちゃにしてやりてぇ。無理そうなら俺のシャツでも口にあててて」


 答える前に、むぎゅっとシャツを押し付けられる。ぐん、と突き上げられ、慌ててシャツを掴む。布に遮られくぐもった声になった。

 自分の体重もかかることで、深いところで彼を感じる。シャツから鼻腔に彼の匂いが満ちる。くらくらする。


「っ、あ、かず」
「⋯⋯なに?」
「かず、や、くんの、匂いがいっぱいで」


 ──頭、変になりそう。

 浮かされるように告げていた。わたしを抱く彼の力が強くなる。それはもう非常に強くて、満足に息さえ吸えなかった。


「⋯⋯煽ったお前が悪いからな」
「や、っんん、ん」


 腕を半ば解いて、胸元に顔を埋められる。膨らみの際を強く吸われる。溶けてしまいそうな頭で思う。絶対、痕になる。見るたびに思い出してしまう痕になる。

 数個痕を残してから、今度は膨らみの中央を吸われる。その間も深く深くへ突き上げられ、身体が自然と仰け反る。彼に手を伸ばしたいけれど、口元を押さえなければ絶対に大きな声が出てしまう。


「ん、んぁ⋯⋯きもち、い」
「っ、くっそ」
「一也く、きもちい」
「あ〜〜〜もう」
「ひ、ぁ⋯⋯っ」
「悪ィ、限界」


 両手で腰を掴まれ、ぎりぎりまで抜いてはずぶりと奥まで沈む。抜けては沈む。何度も何度も。激しい。全然限界じゃないじゃん、などと言える余力などあるわけがなく、彼のシャツを抱きしめる。


「名前」
「んっ、ぁ」
「⋯⋯っ名前、締めすぎ」
「っしら、な⋯⋯ぁ」


 息が苦しい。懸命な息継ぎさえ最後には彼の唇に塞がれ、同時に彼の腕にぎゅっと力が入る。

 中で彼が小刻みに震えているのがわかった。吐息に熱が篭もる。


 ⋯⋯一也くんも、気持ちよかったかな。


 言葉にはしなかったのに、答えるように頭を何度も撫でてくれる。お返しがしたくて、シャツを手放し、彼を抱きしめ頬にキス。

 彼は息を整えてから、そっとわたしを横たえた。


「⋯⋯抜くぞ」
「⋯⋯は、⋯⋯っん」


 ずるりと抜けていく感覚。寂しいな、と思ってしまった。それが顔に出ていたのか、汗を拭ってから隣に横たわり腕を回してくれる。

 わたしは彼をまじまじと見つめた。


「⋯⋯いつ眼鏡とったの?」
「え、結構序盤」
「うそ。もっと見ておけばよかった」
「はは、なんで気づかねえんだよ」
「なんか⋯⋯その⋯⋯きもちよくて」


 眼鏡を掛けていないレアなご尊顔へ、ごにょごにょと零す。自分の身体が、これまで知らなかった快楽を覚えていくのをありありと実感していた。


「もっと気持ちよくなれるよ。ゆっくりいこうな」
「⋯⋯わたしにもしてほしいこと教えてね、ゆっくり」
「ん」


 優しく梳かれる髪が心地よくて目を閉じる。穏やかな気怠さと、眠気が寄ってくる。彼に擦り寄る。


「んん⋯⋯このまま寝ちゃいたい〜〜〜」
「寝ろ寝ろ。寝るまでここにいるから⋯⋯とか言って俺も寝ちまいそう。名前の体温、ぬくくて眠くなんだよな」
「ふふ。目覚まし早めにかけよ」


 ぱぱっと目覚ましをセットして、彼の腕の中におさまる。おやすみ、と額に触れたキスを最後に、あっという間に眠気に攫われた。

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