流れる星の落つところ
しかし、終わりはいつだって唐突だ。
それぞれが必死に守り抜いた日々も、呆気なく崩れ去る。これまでの日々が、一瞬で灰燼に帰す。粉々になった思い出の欠片さえ、指の隙間から零れ落ちていく。
終止符を打ったのは、傑だった。
任務で赴いたとある村落で、傑は集落の人間百十二人を殺害し、実の両親さえ手にかけ、行方をくらませたのだ。
何故、傑が。
本当に傑が?
呪術は非術師を守るためにあるとさえ言っていたではないか。
誰もが耳を疑った。信じられなかった。
その事件後、悟は一度だけ、行方知れずだった傑と相対した。傑が接触を図ったのだ。そこにどんな意図があったのかはつまびらかでない。
非術師を抹殺し、術師だけの世界を作る。
そんな高専入学時とは真逆の思想を掲げるようになった傑を、悟は止めることができなかった。追うことができなかった。
殺すことも、できなかった。
その日の夜、どこから聞きつけたのか、名前がドンドンと悟の部屋の扉を叩いた。
──来ちまったか。
ベッドの下に座り、背をその縁に預け物思いに耽っていた悟は、物憂い動作で顔を上げた。
「悟、開けてっ、悟」
「……今開けっからそんな騒ぐな」
鍵を回すと、もの凄い勢いで蝶番が軋んだ。肩で息をした名前が、泣き出しそうな顔で悟を見上げる。
「悟……傑、は?」
「……名前」
「……っ」
その一言で、名前はすべてを察したようだった。大きく見開かれた目が、小さく哀しげに揺れた。
お互い何も言葉を継げず、痛いほどの沈黙が漂う。気づけば悟は、名前の身体をきつく抱きしめていた。
「……傑のやつ、オマエにだけはごめんって言っといて、だと。せめて自分で言えよクソが……」
名前の耳元で零れた声は、悟自身が辟易するほど弱々しく、余裕のないものだった。
──“みんな、ずっと、ちゃんと帰ってきて”
──“……ああ、約束する”
頭の中に、あの日交した言葉が木霊していた。名前を抱く腕に力を込め、悟は続ける。
「約束……守れなくて、ごめん」
「……っ馬鹿」
頬を一筋濡らした名前が、悟の服をきつく握った。
その日、悟は一睡もしなかった。
名前が部屋を訪れたときと同じ場所で、名前をその腕で抱きしめ続けた。名前は何も言わず、ただ時折静かに涙だけを流しながら、ひたすらに悟に抱きしめられていた。
それ以降、悟は自身の呼称を変え、翌年高専に入学した名前は、悟と硝子を「先輩」と呼ぶようになった。
それぞれが、歩み始めていた。
名前が悟の部屋に来ることも、なくなった。