流れる星の落つところ


 七海の言葉に、名前はやわらかく目尻を下げた。

 七海の不器用で実直な優しさが好きだ。
 昔からそうだった。無愛想に見えて、その根底にある誠実で情に厚い心。七海を慕う者は、七海が思っているよりずっと多い。
 

「……これだから、七海先輩はいろんな人に慕われるんだ」
「は?」


 このとき、今日はじめて七海の目に懐疑の色が浮かんだ。私を慕う人間などいません、とでも言いたげなその表情に、名前は心底呆れる。


「もう、例えばほら、目の前にいるじゃん。こんなに七海先輩を慕ってる後輩が」
「慕っているではなくて、たかっているの間違いでは」
「あはっ、今日は奢ってなんて言うつもりなかったのに……奢ってくれるつもりだったの?」
「ええ。私を慕ってくれる後輩からのお誘いですから」
「ふふ」


 あの日以降、名前は考えていた。


 ──“僕のいないとこで、勝手に死んだりしませんように”


 星降る夜の、悟の言葉だ。
 悟はどういうつもりであの言葉を言ったのだろう。滅多にない宿願の機会に、何故、名前のことなど願ったのだろうか。

 仲間だから。
 たまたま隣に名前がいたから。
 お巫山戯、冗談、ただの気まぐれ。

 考えても詮なきことを、性懲りもなく考えていた。


「で? どちらを言われたんですか」
「……まって、わたし、誰かに何か言われたなんてひと言も言ってないじゃん。いや、そのとおりなんだけどさ」
「アナタは昔からわかり易いですから」


 七海が取り分けてくれた絶妙な焼き加減のサガリへ箸を伸ばしつつ、名前は不服そうに唇を尖らせた。

 わたしがわかり易いんじゃなくて、先輩がおかしいんだよ、怖。とかなんとか。ぶつくさと零しながら、箸を口に運ぶ。美味しい。やはり焼肉奉行は七海に限る。
 

「まあいいです。どうせ前者なのでしょう。……アナタはその人に非常に愛されているんですね」
「……へ」
「死ぬなら自分の目の前で死んでくれ、なんて、よっぽどだと思いませんか。よっぽどの想いでなきゃ、出ない台詞だ」
「ああ……ごめん、ちょっと違うの。正確には、僕のいないとこで勝手に死ぬなって言われた」
「誰に」
「悟先輩に」
「それなら、同じ意味だと思いますが」
「……?」


 いつになく七海の言葉が小難しい。名前は真剣に七海の言葉を反芻する。

 愛、とか。
 想い、とか。
 
 七海から出たとは到底思えぬその言葉を、丁寧に反芻する。


「……もし先輩の言うように同じ意味だとしてさ、その上でもっかい確認していい?」
「どうぞ」
「悟先輩だよ? 七海先輩もよーくご存知、あの軽薄最強呪術師五条悟。悟先輩の目の前でわたしが死ぬことって、悟先輩に殺される以外になくない?」


 名前は真剣な表情で言った。

 ああ、あとは病気と、老衰あたりか。そう付け加えられた言葉に、七海は「そうですね」と返す。

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