流れる星の落つところ


「それ、マジで言ってんの」


 無意識にキスをしてしまうほどのところまで来てしまったというのか。本当に、そんなところまで?

 ちいさく問うた悟の言葉を最後に、再度名前の瞳がぼんやりと焦点を失う。口調が縺れる。


「ねえせんぱい、ちょーだい」
「……何を」
「そんなの、せんぱいのこころに決まってるよお、ばか」
「んなもんとっくのとうにオマエのもんだろ……って聞けよ、何そのアホ面」


 この気持ちをどうしてくれようか。ぶちまけようにも当の本人は曖昧にうつつを彷徨っており、しかも目醒めたときに覚えているのかもわからない。

 そもそもこの意識状態だ。名前の言葉の真実味にも欠けるか。いや、この状態だからこそ真実味が増すか。どっちだ。

 十年前の一件を鑑みると後者だが、ということはつまり。


「……マジかよ名前。今すぐ結婚したい勢いなんだけど」
「え、せんぱい……結婚って? 呪術界揺らいじゃうよ? ていうか相手だれわたしゆるせないかも」
「オマエだよオマエ……だから聞けって、何で大事なとこばっか聞いてないの。いい加減にしないと犯しちゃうよ」
「ふふ、いーよ」
「アハ、この酔っ払い、マジで全然話通じなーい」


 悟は些か乱暴に残りのボタンを外し、ブラウスを開く。ぱち、とフロントホックがちいさく鳴る。顕になったやわらかく膨らむその基部に、悟はきつく吸いついた。


「い、た」


 痛みに名前の眉が寄る。悟が唇を離すと、薄く色づく乳頭より遥かに鮮やかな鬱血痕が、そこに残った。


「名前さあ、本気? 僕のこと、十年以上も見てたって言うの。軽く狂ってるよ」
「せんぱい、……痛い」
「当たり前でしょ、超吸ってるもん」
「っ、ん、」
「……へえ、痛くされんのいーんだ」


 何個の痕が散っただろうか。
 
 それだけで敏感に尖った乳頭の表面だけを、悟の舌が際どくなぞる。


「……っ、」

 この反応も。

「せんぱ、」

 この声も。

 悟を想ってのものだったと。名前は本気で、そう言っているというのか。


「せんぱい、……っちょーだい」
「……何を」


 悟の声音には、どこか怒気さえ滲んでいた。それが名前に対するものなのか、悟自身に対するものなのか。悟にもわからなかった。

 そんな胸の内のせいで力の入った悟の指先が、先程舌先がなぞった尖りをきつく摘む。


「っひぁ」


 名前の身体が撓る。「ほら、答えて」と更に苛められ、その強すぎる刺激に名前の目には涙が滲んだ。

 一瞬で剥ぎとられた下服と下着。既に愛液で濡れているところに、硬くなった男塊がぴたりとあたる。名前の手が堪らずシーツをきつく掴む。


「……ぁ、せんぱいが、ほしい」


 名前が悟を求める言葉を発するたびに、悟の心臓が強く収縮する。こんなことは初めてだった。名前がこんなふうに「ほしい」と強請るのは、初めてなのだ。

 あのときもそうだったが、名前は酒が入ると、どうにも感情の抑制が外れる。

 自分以外に名前のこんな姿、見せたくない。そんな稚拙な独占欲が顔を出し、同時に七海の顔が浮かぶ。名前を介抱してくれただけの七海にさえ、その矛先が向く。

 苛つく。悟は心中舌打ちをした。

 一体何だというのだ。こんな今更になって。
 

「……何だっつってんの」
「んっ、挿れて、ほし、んん──っ!」
「ハ、一気に挿れただけでイっちゃうんだ。ほんといい具合に育ったよね」


 まあ僕がそうしたんだけど、と呟く悟の唇が満足そうに弧を描く。しかしそれに反し、晒されたままの青い素目は、どこか辛く苦しそうだった。

 ちいさく痙攣する名前を抱きかかえ、悟は自身の腰の上に座らせる。そのまま下から突き上げる。


「やぁ、イってる、のに……っ」
「そんなビクビク締めないの、僕もイっちゃうでしょ」
「……っ奥、くるし」


 先端が子宮口を刺激する。最奥まで繰り返し沈む刺激に耐えるように、名前は悟の背にしがみつき爪を立てた。


「名前、痛いよ、力緩めて」


 背も。胸も。痛い。
 一向に緩む気配のない背中の痛みが、次第に快楽に変わっていく。肌に食い込む名前の爪先から、じんじんと甘い支配感が広がる。

 その甘さに身を委ねるように、悟は束の間、目を閉じた。


「……ねえ、僕らこれからどうしよっか」
「っ、あ、んっ」


 激しく揺さぶられ、名前の首筋が艶やかに伸びる。悟は再度、そこに歯を立てた。悟の言葉は、恐らく名前の耳に入っていない。

 律動を続けながら、それでも悟は語りかける。


「この感じじゃ、名前はどうせ、この時間のこと覚えてないでしょ」
「せん、ぱ……っふ、」
「どう埋めろって言うのさ。十年以上の隙間を。デカすぎだろ、無茶言い過ぎ、どんなプレイだよこれ」


 ぐりり、名前の最も深い部分を悟の先端が強く押す。逃げるように浮きかけた肩を押さえられ、執拗に最奥を抉られ、名前は呆気なく絶頂へと追いやられる。


「──っ! ぁ、ぁ」
「犯していい、って言ったの名前だからね。今日はとことん付き合ってもらうよ」
「ひ、ぁ──……っ」

ContentsTop