流れる星の落つところ
「「さっっっっっっむ!!!!」」
頭のてっぺんからつま先まで、文字通り全身をぶるぶると震わせながら、二人は声をぴたりと揃えた。
星の落ちそうな、濃く深い晴天の夜空。放射冷却さえ目に見えそうな、宇宙さえ覗けそうな澄みきった大気の中心で、皮膚を刺す冷気に自然と身を寄せ合う。
気道がひりつく。呼吸のたびに肺腑の奥さえ冷気に凍てつく。四肢末端の感覚が朧気だ。
「ほら名前、鼻の頭もマフラーに入れな、赤くなってる」
「先輩も耳ちゃんと仕舞いなよ、もげちゃうよ」
悟を見上げた名前は、白く立ち昇る吐息により凍った睫毛でぱちぱちと瞬いた。
「ねえ、先輩の術式でなんとかなんないの? 冷気も近づかないようにしてみたり、ちょちょいっと地球の磁場弄ってみたりしてさ」
「さすがにそこまでトンデモ術式じゃないから」
「……何言ってるの? トンデモだよ?」
キンキンと冷える意識で、名前は思う。
「わたし、なんでこんなとこにいるんだっけ……」
⁑
「明日出発ね、フィンランド」
突然そう告げられたのが二日前のこと。まったく理解ができぬ、否、理解させてもらえぬ状況で、悟に「ほらこれも詰めて、これも!」とあたかも自分の部屋並びに自分の荷物であるかのようにパッキングされ、「よーし、明日は早いからもう寝よ」とあれよあれよとベッドに抱え込まれた。
試したい体位が云々と言われていたこともあり、僅かに緊張を身体に纏った名前。それに気づいた悟の言い草はこれである。
「ん? ああ、病み上がりだし今日はしないよ。フフ、そんな残念そうな顔しちゃって」
「……これを世間では心底安堵した顔と言います」
「はいはい、いーよそういうことでも」
その口振りに、名前は暫く開いた口を塞ぐことができなかった。
どこか手玉に取られた感が否めず不服な心地でいた名前だったが、身体に残る戦闘のダメージと、悟の体温。その両者に
次に目を開いたときには、眼前に悟の顔。しょぼ、と落ちてくる瞼を擦る名前に、明るい声がかかった。
「おっはよー! 起きて起きてー! 行くよー!」
「……ね、む、もうちょっと」
「だーめ、飛行機で寝ていいから」
まるで子ども扱いだ。
ぐずる幼子に言い聞かせるような台詞を吐かれ、半分寝たままの身体を半ば担がれるように連れ出された。
スーツケースのキャスターが走る音が止むのと同時に、車の側で控えていた補助監督に声をかけられる。
「名前さん、お久しぶりです。空港まで送らせていただきます」
「はあ、お久しぶりです……? って、え、伊地知先輩じゃん、これほんとに任務なの?」
「? ハイ?」
寝惚けてるんですか? と問いたげな表情で首を傾げる伊地知から、悟に視線を移す。
悟までもが「オマエ大丈夫?」みたいな顔──布のせいで表情は定かではないのに、悟の腹立たしい表情は何故だかわかってしまう──をしていて、無性に腹が立った名前は、悟の脛を思い切り蹴飛ばした。
しかし渾身の蹴りも忌まわしき無下限呪術のせいで届かなかったわけで、名前はついつい地団駄を踏んだ。
「〜〜〜〜〜っ」
「アハハ、名前のバーカ」
「〜〜〜〜〜っ!!!!!」
「何
それでも途中まで、名前は疑っていた。悟が伊地知を何らかの方法で脅すなどして、そして何らかの理由で巫山戯ているのではないかと。
だが、保安検査場で伊地知が長旅のお供にとおやつ──名前の好物であった──を手渡しながら「それではお気をつけて」と軽く頭を下げたとき。ようやく、本当に任務なのだと実感したのだ。