流れる星の落つところ
「もう限界?」
「げんっ、かい、」
「でも、僕にお願いする口の利き方じゃないよね」
名前は心臓がぎゅっと啼いたのを自覚した。
どこまでもサディスティックな人だ。愉しんでいる。絶対に愉しんでいる。それに満更でもなく反応してしまう名前も名前なのだが。
「ほーら」
ぺち、と柔尻を叩かれ、名前の膣内が呼応するように収縮する。悟の屹立がその中央を出入りしているところを想像してしまって、名前の抑制が決壊した。
「……悟せんぱ、っお願い……イかせて、くだ、さい」
枕を抱きながら、涙目で振り返る。
悟の口角が上がり、両の柔尻を掴んだ。ズン、と最奥を抉られ、直接脳に叩き込まれるような快楽が突き抜ける。
「わかった。五十点って感じだったけど、いーよ、取り敢えず一回イかせてあげるね」
「っは、あ、ぁん、ん…───っ!!」
「先輩の馬鹿……」
散々苛められた挙句、最終的に何度も絶頂を与えられ、悟が満足した頃には名前は満身創痍、息も絶え絶え、任務終了時のほうがまだ元気、といった有様だった。
驚くほど気怠い身体を叱咤しなんとかシャワーを浴び終えると、先にシャワーを浴びていた悟は既に身なりを整えていた。
布に覆われた瞳が名前を捉え、目の前まで近づいてくる。親指でくいっと顎を持ち上げられ、ひと食みのキスが落とされる。
名前は目を丸くした。
ほんのひと呼吸分、沈黙が流れる。それから悟はくるっと背を向け、ひらひらと手を振る。
「じゃあねーん、いってきまーす」
「……いってらっしゃい、気をつけて。お土産買ってきてね」
その飄々とした背に、声を掛けた。
パタンと閉じたドア。その味気のない色味をぼんやりと角膜に映し、名前は人差し指でそっと下唇を押さえる。
「キス、はじめて……なんだけど」
名前は混乱していた。何だ。槍でも降るのか。雷でも落ちるのか。隕石くらい飛んできたっておかしくない。
これまで幾度逢瀬を重ねたかわからないが、口づけを交わしたことは一度だってなかった。
それが、突然これだ。
「地球、真っ二つになったりして」
一体どんな気紛れだというのか。意味を求めようとは思わないが、まったく懐かぬ野良猫にたったひと撫でのみを許されたような、そんな気持ちがよぎってしまったことは確かだ。
窓から見上げた空は、晴天。燦々と注ぐ陽光が、窓をすり抜け室内に差し込む。窓に薄らと反射した自らの姿に、名前は小さな吐息を落とした。右側腹部。最もウエストがくびれているところに残る決して小さくはない傷跡を、親指で撫でる。
悟は必ず帰ってくる。あの強さ。悟が負けるところなど、どんな想像力を以ってしても想像できない。学生時代のあの件ですら、自力で生き延びるような術師だ。
しかし、名前は。
いつ自分の命に終わりが来るとも知れぬ。今日の任務さえ、生きて帰れる保証などないのだ。先の会話が最期の可能性だってある。
先の、会話──
はて、何と言っただろうか。頭を捻り思い返して、名前はぷぷ、と笑った。
「お土産買ってきてね、が最期の言葉はナシだなあ。今日もちゃんと生きて帰ってこよ」