孤独を噛んで
悟は数秒笑みを引っ込め、二人のことをじいっと見つめた。
「へぇ……ふーん」
悟の視線を受け、先程と同様にぴたりと揃って首を傾げた二人を見て、悟の口元に笑みが戻る。
一挙一動に滲むシンクロ感。親密に同じ時を過ごした者にしか出せぬ雰囲気。
可愛いな、と。素直にそう思った。
「強いね」
「うん、棘がね」
「ああ、それもそうだけど。繋がりが、さ。強いなと思って」
「繋がり?」
「そ。二人の幼少期の出来事は、聞く限りは半分縛りみたいなモンだと思ってたけど……うーんどうだろ、微妙かな。自分たちの感覚としては縛りになってそう?」
悟の言葉に、二人は揃って狐に摘まれたような表情になった。「縛りだってさ」と呟き、互いに顔を見合わせてから、やわらかく悟を見上げる。
「わかんない。自分や互いに何かを科したつもりは、まったくないけど」
「しゃけ」
「そっか。小さい頃だったしね。破るような行動取ったこともないか。まあ君らならダイジョーブだと思うけど、もしその気になったらひと声かけてよ。何が起こるかわかんないし」
「その気って?」
悟は薄らと唇の端を持ち上げた。
名前たちの倍近い年月を生きてきた悟のその笑みには、どこか不気味さを感じさせるものがあった。悟が積み上げた過去の重みとでも言おうか。
弧を描いたままの唇が、おもむろに開く。
「そんなの、君らが離れたいと思ったら、さ」
「──……」
最初は、償いのようなものだったのかもしれない。
自分の正義ぶった行動のせいで、棘に辛い想いをさせてしまった。
自分のせいで、名前を傷つけてしまった。
だから、絶対に守る。ひとりになどさせない。これ以上、何者にも傷などつけさせない。
強い、強い誓いだった。強かでなければならなかった。そうでなければ、何ひとつ守ることなどできなかった。
いつしかその想いは、まるでそれが摂理であったかの如く変貌を遂げた。
言葉にしたことはない。好きだ。愛している。そんな睦言を交わしたことなどない。
しかし確かに、愛なのだ。
名前と棘を繋ぐものを言葉にするのなら、それは、千言万語を費やしても表現できぬ、哀しいほど深い愛としか言いようがなかった。
離れる日など、来るのだろうか。
花びらで色づいた地面に視線を落とし、それきり口を閉してしまった二人を交互に見遣り、悟は笑った。
「意地悪言うつもりじゃなかったんだ、ごめんごめん」
「ツナ」
「アハハ、怒ってる?」
ぽこっ、と悟の肩を叩いた棘の頭頂をぽふぽふと撫で、ついでに頭髪に乗った花びらをひとつ摘んで、悟は踵を返した。
「パンダ、高専内の案内してあげてよ」
「ん、そりゃもちろん。悟は? 一緒に行かねえのか?」
「残念ながらこれから任務だ。もう少し話したかったけど、また今度ゆっくりね」
振り返らずにひらりと振られた手に、名前と棘は無言で手を振り返した。
舞い散る桜吹雪。
溶けていく背中。
桜片が悟に触れずに落ちていくことに気づき、術式を調整してくれていたのだと知る。
桜も寄せつけぬ孤高の憧憬が、この時はひどく寂しいものに見えた。