地球との恋の紡ぎかた
「ぐえっふ!!!??」
思い出とは真逆の冬の日。
思い出が想い出になってから、もう何年も経った冬の朝。胸にどすんと乗られた衝撃に、俺は自らの奇声とともに飛び起きた。
「ゲホ、……お前、その起こし方やめてってば。今日はせっかくの休みなの! お願いだから寝かせてー……」
毛布からはみ出てた部分が、ひやりとした空気の揺れを感じ取る。今日は特段、寒いみたいだ。毛布をかぶりなおして寝がえりをうとうと、胸の上から退けようとした、んだけど。その行動を咎めるように、丸い双眸が見下ろしてくる。
真っ直ぐなくりくりおめめ。
ああだめだ、可愛い。超可愛い。
こんな乱暴に起こされても、滅多にない休日の貴重な惰眠を妨げられても、結局怒りきれずに絆されちゃう。
だけど、ごめんね。今は寝てたいんだ。
彼女の夢を見た。
夢に見るのは、随分と久方ぶりだった。醒めてしまった今となっては、つぶさには思い出せないけど。夢の中では、確かに彼女の声が聞こえた。彼女の笑顔が、はっきりと見れたんだ。
もう少し。あと少しでいいから、余韻に浸ってたい。
「んにゃー!!!」
「ぐえっ、ちょ、わかった、わかったからそんなリズミカルに足踏みしないで! 俺の大事な心臓が!」
想い出に浸ることすら許してくれないこのスパルタお姫様は、チームメイトのピノから譲渡された白猫だ。冬になってからもふもふ度が増した長い毛。ふわふわの尻尾。
名前は、つけてない。名前がなくても案外と不便はないし、名前がないからといって、俺からの愛が変わるわけでもなかった。
名前さんは、名前をとても大切にするひとだった。その影響かな。名前はつけてないんじゃなくて、つけられてない、が正しいのかもしれない。
バイオリズムとは凄いものでね、こいつは毎日、同じ時間に俺を起こしに来る。かまってほしくてじゃない。ご飯をねだりに、だ。前に「かまってほしーの? もう、寂しがり屋さんだなあ」って抱きしめようとしたら、目にも止まらぬ速さでねこぱんちされた。
酷いよね。
自分が甘えたい時は、え、どしたのってくらい甘えてくるのにさ。
でも、名前さんみたい、でしょ?
純真で。爛漫で。自由気儘に生きてて、俺の意識を惹きつけてやまない。極め付きはその、水晶みたいな美しい目が。
──彼女みたいなんだ。
俺が映りたいと望み続けた目。豊かに彩づく世界を捉える、ひどく透き通った目。
ああ、そっか。こいつと暮らすようになってから、あの夏がちらつくことが多くなったんだ。
「……なに、さ」
彼女を彷彿とさせる瞳が、じいと見つめてくる。対抗しきれずに、思わず問うていた。返事は返ってこない。
感傷的な俺に、女々しいと言ってるのか。呆れてるのか。言葉は交わせないけど、そこに食事を求める以外の、何かしらの意図が潜んでるようで。
その視線を剥がすように。小さな身体をひょいと抱えあげて、温い布団から這い出た。
ほら、ご飯もらえるってわかった途端、これだもん。ごろごろ喉鳴らして、すりすりしてる。「……もう、」と零れた苦笑が、冷えた部屋にぽわと灯った。
俺たちよりも高い体温を腕に感じながら、性懲りもなく想いを馳せて、ふと。
俺は、冬の彼女を知らないと気づく。