地球との恋の紡ぎかた


「クリスマスプレゼント、一緒二選ンデ」

 
 開口一番。

 語尾にハートマークさえ見えそうな、甘ったるい声で頼まれた。ピノがみなまで言う前に、「えー」と不機嫌な声を出す。だって全然、可愛くない。うちのおねだり上手な猫を、見習ってほしいくらいだ。


「プレゼント、って、ピノこの間フラれたばっかじゃん!」
「アノ時ノ俺トハモウ違ウ! 今度コソ本物ノ恋ダ!」
「え、なに、また好きな子できたの?」
「羨マシイダロ! ワハハ!」


 人肌恋しい季節。
 聖夜の近い時季。

 寂しくないと言えば、嘘になる。一喜一憂しながらも、いつだって懸命に恋してるピノが羨ましくないと言えば、──それも嘘になる。

 煌めく街角。
 プレセピオ。
 

「トオルモ恋、スレバイイノニ」
「ははっ、ピノはそればっか」

 
 躱すような返事をしながら、ポケットに手を突っ込み、肩を竦めて歩く。寒い。寒さを紛らわすように、視線を巡らせる。巡らせて、ああ、またやっちゃった、とかぶりを振った。

 こんな場所に、いるはずないのにね。

 異国の石畳の上。道端のカフェ。ほくほくにおいのパン屋さん。霧の立ち込める橋の上。オレンジ灯が反射する川のほとり。

 探しちゃうんだ。彼女を思い出したこんな日は。この世界のどこかに、いるはずの彼女を。どれだけやめようとしたって、いつだって無意識に。

 彼女の欠片を求めてしまう。


「トオル? 聞イテタ?」
「あっ、ごめんなんだっけ」
「……マタボーットシテタ」
「なんでもないよ、ピノが気にすることじゃない」
「マタハグラカス」
「はぐらかしてないってば」


 俺的に完璧な笑顔だった。なのに刹那、ピノの目がすっと細まる。あ、やばいかな。そう思う。この話題でピノから逃げるのには、限界があるかもしれない。


「トオルハ一体、ドコニ行コウトシテル?」
「──…え?」
「何時マデ、ソウシテルツモリダ?」


 普段と同じ語調だった。なのに、頭を抱えたくなるほどの痛みを覚える。

 甘くて、切なくて。ともすれば酔いしれてしまうような、いつもの痛みじゃない。

 鋭痛だ。

 ずきん、ずきんと。
 ずっと目を逸らしていた核心が、刺されるような。

 びっくりして、自分でもわかるくらい間抜けた顔で振り向いてしまった。笑顔が作れない。喉がひりついて、上手く声が出せない。


「悲嘆ノ自己陶酔ナンテ、今時流行ラナイゼ」


 肩にぽん、と大きな手。予想外に優しい声音だった。ついこの間まで、失恋で自分が悲嘆に暮れていたくせに、ところがどうして。

 ピノに話したことはない。彼女のことも、あの夏のことも。ピノはいったい、いつから気づいてた? こんな情けない俺の姿に、いったいいつから。


「シッカリシロヨ、トオル」

(……まいったな)


 ピノの言うとおりだ。俺はただ、この痛みに。そして、それを抱えて歩いてるつもりの自分に、酔いしれてるだけだ。そのくせどこかで、幸せになりたいとも望んでる。

 寒空を見上げる。


「はっ、……バカみたい」


 嘲笑とともにひとりごちた、その時だった。



 ──ちり、ん。



「……っ?!」
「ナ、ナンダ急二? 怒ッタカ?」


 咄嗟にピノの両肩を掴んだ。焦ったような返答。怒ってなんかないよ。自分の不甲斐なさすら受け止められなかったら、俺、カッコ悪すぎじゃん。

 って、今はそれどころじゃなくって。


「ねえピノ! 鈴かなんかつけてる?!」
「ハ?」
「今、音が……」


 いや、鈴じゃない。今のは確かに、風鈴の──

 この国でも一応、風鈴に似たものは見たことがある。けど、音が違う。季節も違う。咄嗟に見回してはみるけど、やっぱり見当たるはずもない。

 木霊する音を振り切って、もう一度ピノに視線を戻す。不思議そうな顔。繰り返される瞬き。どうやら、ピノには聞こえなかったみたいだ。


(………空耳?)
 

 ピノを見つめたまま首を傾げる。
 ピノも、同じ角度に首を傾げた。


「トオル?」
「……ごめん、気のせいだったみたい」


 微かに期待してしまった自分を持て余したまま、再度歩き出す。足元に視線を落とす。寒風が、耳端を撫でた。


 店内に入ると、暖かな空気が押し寄せた。ほっとする。寒いのは、苦手だ。鼻を擦って、それから一角の煌びやかな光に目を細めた。


「プレゼントさ、初めてなら無難にアクセサリーがいいんじゃない」

 
 ピノのこういうセンスは壊滅的だ。放っておくと、デートにだって「婚活!」ってでっかく書かれたTシャツ着てっちゃう。しかもすごく嬉しそうな顔で。これ、カッコいいだろって顔で。

 すぐに同意が返ってくると思った。のに、返ってきたのは、珍しく渋った返答だった。


「ン〜デモ、名前、ソウイウノ欲シガラナサソウ」
「……はい?」

(な……ん、だって?)


 耳を疑った。なんで、ピノの口から彼女の名前が出てくる? 同名か? ただの偶然?

 でも、こんな、偶然だなんて──


「ピノ、今なんて?! なんて言ったの?!」

 
 脊髄反射で、ぐわしと首元を掴んでいた。これでもかと揺する。有らん限りの力で、前後に激しく。首の座ってない赤ちゃんよろしく、ピノの頭ががくんがくん揺れる。


「ヤメ、トオル、ヤメロ酔ウ!」


 違う違う! 酔うだなんて、そんな申告が聞きたいんじゃない。早く質問に答えて!

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