地球との恋の紡ぎかた
「もー! ふたりとも! 静かにしないとデコピンしちゃうよ?!」
「っ〜〜〜! だからもうしてるってば!」
「痛イ! コレガジャパニーズデコピン……?!」
俺たちの間に割り込んで、見上げてくる彼女を見つめ返す。変わらない瞳。
もう一度、──映れる日が来るなんて。
気を抜くと、涙が零れてしまいそうで。変な顔をして耐えるしかなかった。それに気づいたのか、彼女の目が優しく細まる。
「徹、覚えててくれてありがとう」
「もう、……名前さん、俺のことバカだと思ってる? 忘れるわけないじゃんか」
「ふふっ」
ぽてん、と。
胸に凭れてくれたのは、名前さんからだった。どうしようもなく、愛おしくて。きつく抱きしめる。薫る桃香。狂おしいほどに懐かしい匂いだ。
(……名前、さん?)
「どした?」
「とおる」
「うん、ここにいるよ」
微かに掠れて、震えた声。
おかしくなっちゃいそうだった。別れの時ですら、涙は見せようとしなかったのに。逢えた時にはこんなにも無防備だなんて。
可愛すぎなのか。
「ナア、ドウイウ事? 二人ハ知リ合イカ?」
未だ状況を把握できていないピノが問うてくる。名前さんは顔を上げない。むしろ、余計にしがみついてくる。抱きしめる腕に力を込める。
さて、どう説明したものか。逡巡した、その時だ。ぱんっとハリのある声が響いた。
「ピノ! 見ツケタワヨ! 今日トイウ今日ハ許サナインダカラ!」
「ウワッ、リオナ!」
(リオナじゃん! ナイス! 今だけは女神さまに見える! めっちゃ見える!)
お決まりもいいとこのセリフを放ってくれたリオナっていうのはね、ピノの元カノ。ひとつまえ? ふたつまえだったっけかな? 忘れちゃったけど。とりあえずピノに恨みがあるらしく、何かにつけてピノをひっぱってく。ちなみに、ひっぱるのは耳。死ぬほど痛いって言ってた。
「名前〜! 諦メナイカラ、ッイタタタタ! リオナ痛イ!」
「ウルサイ! トットト歩イテ!」
俺ににこっとひと微笑み。「ジャア、御機嫌ヨウ」なんてさらりと言ってのけて、リオナはピノを連れて去っていく。いつもの光景だけど、今回のタイミングはマジで神、いや女神だった。ありがとう。
賑やかなふたりを見送ったところで、周囲の状況に気づく。まあ、そうだよね。店先で大男ふたりがぎゃいぎゃい口論した挙句、ひとりは耳をひっぱられて退場。もうひとりは、肩を震わせる女の子を抱きしめている。視線も集まるってもんだ。
その視線を遮るように。腕の中、冷えた耳翼に唇を近付ける。
「名前さん」
「っえぐ、ごめん、なんか止まんなくって」
「うん、だいじょーぶだから。ほら、荷物貸して?」
ぽん、ぽん。後頭部を2回。
それから彼女の荷物を受け取る。肩にかけると案外重い。これも、懐かしい重みだ。
「俺んち近いんだ。行こ!」
「ん、っわ?!」
もう片腕に座らせるように、ひょいと担ぎあげた。軽い。俺に筋力がついたのか、名前さんが痩せたのか。抵抗されるかと思ったけど、まだ止まらない涙を隠すように、腕を回して首に縋りついてくる。
できるだけ人目につかないように。裏路地へと足を向ける。
──ねえ、名前さん。
その涙は、……どういう意味?
また出逢えたことに対するもの? ただ、それだけ? それとも、俺とおんなじ気持ちでいてくれてる?
聞きたくて、でも聞けなくて。
同じ不安を彼女が抱えていたことにも、気づかずに。