地球との恋の紡ぎかた


 ベッドにそっと横たえる。ぽすん、はずんで散った髪。覆いかぶさる時に鳴ったベッドの軋みが、やけに響く。

 静かだ。

 静謐、と言ったほうが正しいかもしれない。

 部屋の空気だけじゃなくて、ひやりと冷えた外の空気、果てはこの世界そのものが。俺たちのために、──息をひそめてるみたいだ。


「……徹」
「……ん?」


 口づけを全身に受け止めながら、目を閉じたまま名前さんが俺を呼んだ。静寂を壊すまいとするような、やわくて優しい声だった。


「すきだよ。だいすき」
「……っ、あーもう反則」
「っ!」


 既にとろとろだった彼女のなかに、つぷと一本。ぎゅっと握り込まれた手を包みながら、ぎゅっと瞑った瞼にキスをしながら。少しずつ内側を拡げていく。

 止めどなく溢れてくる愛液。震える肢体。だんだんと力が解けたところで、もう一本。親指で軽く蕾も押すと、彼女の身体がひと際大きく震える。


「あっ、だめ、そこ……っ」
「うん、いいよ」
「よくな、い、徹、だめ……っふぁあ!」


 快楽自体が久しぶりだったのかもしれない。泣き出しそうな表情で頬を上気させ、胸を忙しく上下させて、一度目の快楽を受け止めている。


「っとお、る……」
「よしよし、きもちいね」


 頭を撫でて、火照った顔を見つめる。その時だ。今にも零れそうな涙を湛えるその瞳に、ふと空の色が反射した。

 橙と、藍のあいだ。
 
 昼と夜が複雑に混じり合い、境界線がぼやけた時間。

 なんだか一緒に溶けてしまいたくて、唇を重ねる。角度を変え、体勢を変え、何度も。何度も。そうしてどれくらい時間が流れたのか分からなくなった頃だ。


「……徹の目ね、すごく綺麗」
「え?」
「映ってるの。夜に溶けてく寸前の、空のいろが」


 キスの合間に絡まった視線。俺の目尻をなぞって、彼女が呟いた。きれい、と。その笑顔を見て、俺は堪らず彼女の脚を抱えあげた。

 もうダメ。限界。それはそれはもう、色んなものが限界だ。その証拠のように、濡れそぼる入口にぴたりとあてただけで、下腹部の奥が切なく疼く。


「……いい?」
「う、ん……っ、……っ!」


 声にならない嬌声を喉の奥から漏らして、必死に受け入れようとしてくれる。彼女の息を整えながら、少しずつ、本当に少しずつ進めていく。

 きつい。

 何年かぶりに開かれたのであろうそこは、ぎゅうぎゅうと俺のものを締め付けてくる。直にまとわりつく熱が快楽に変換されて、気を抜くと激しく抱き潰してしまいそうになる。

 優しくするって決めた。
 でも、求めて。求めて。求め尽くしてしまいたい。

(んんでも優しくできる俺でありたい!)

 こんな葛藤は内緒のおはなし。


「大丈夫? 痛い?」
「痛く、な、……っふえ、いた、い」
「ははっ、ねえ名前さん」
「んっ、……なあに、笑いごとじゃな」
「かわいい。ほんとに。まるで、名前さんの初めてをもらってるみたい」
「っな、に言って」


 恥ずかしかったのかな。もともと上気してたのに、ぼんっと頬が更に赤らむ。こんなに赤面した彼女を見るのは初めてだ。

 頬を軽く摘んで、耳たぶに舌を這わせる。


「真っ赤だよ?」
「っ徹のせい、だもん」
「だってこんな、こんなに可愛くて、愛おしくって、……もう俺にどうしろっていうのさ」
「へ……?」


 突然そんなことを問われてきょとんとしている名前さんを、壊れそうなくらいに抱きしめる。

 どうしたら、伝わるんだろう。
 俺のこの、どうしたらいいかわからないくらいの、おかしくなっちゃいそうなくらいの想いは。何をどうやったら、伝わるんだろうか。

 このタイミングで口にしてしまうのは、なんだか違う気がして。深部から漏れる嬌息に紛れさせた。




(……名前さん。
 俺と、ずっと一緒に歩いてくれますか?

 これから先の人生の、──すべてを)




 とめどないこんな気持ちを。

 愛、と呼ぶのかもしれない。

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