例えばきみが天使なら
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保健室で少し休ませてくる、と岩ちゃんは言った。校舎へ向かうふたつの背中を、ぼうっと眺める。どこからか吹いた風に、名前も知らない雑草がそよぐ。
不意に斜め下方から声を掛けられた。
「及川、その……よかったの?」
「ん、なにが?」
「いや、その……」
遠慮がちにそう問うて、そして言い淀んだのは名前ちゃんのオトモダチ。ずっとずっと、ずーっと誰からも隠してきてたのに。バレちゃった。
本当ならあんなやつ、俺が蹴散らして。
名前ちゃんのこと、めちゃくちゃに抱きしめたかった。涙を拭って、大丈夫、俺がいるよって。震える唇にキスを落として、そうしてもう一度抱きしめる。
けど、彼女は。
俺の大切な幼馴染の、──恋人。
「俺はね、あんな男とは違うの。名前ちゃんと岩ちゃんのことを、一番近くで支える存在なんだよ」
見上げた空は、皮肉なほどに晴れ渡る。俺たちの、青春のいろ。
青い。なんて青いんだろう。
「これからも、ずーっとね」
「……そっか」
この空を見て、思い出した。
天国のじいちゃんが、幼かった俺に豪語してたんだ。「青春は謳歌するもんだ! 何があっても逞しく生き抜け!」って。
まだ【青春】なんて言葉も知らない頃だったのにね。
こんなに苦しい想いも。
こんなに切ない痛みも。
いつの日か。
俺の中で、何かとして生きていくのだろうか。じいちゃんは、そう言いたかったのだろうか。
「キッツいなー! けど、最高だ」
空に向かって、声に出してみる。
あのふたりと共に過ごすためならば、いくらでも。謳歌してやろうじゃないか。俺たちの、今を。
だから、ふたりとも。これからも、これまでと変わらずにいて。お願いね。