紅葉畑の紅梟
*
いつもぽわぽわ笑う名前ちゃんが、時折見せる顔。
哀しそうで、辛そうで、苦しそうで。
彼女の話は、俺には半分くらいしか分からない。写真も、「ごめんね、これだけはまだだめ」と見せてはくれない。
だから何度も、言葉を変えて訊ねてみる。
盲滅法。いつか、分かるのではないかと。
「名前ちゃんはさ、なんで紅葉? 銀杏の並木とかもあんじゃん」
「そーだなあ」
紅葉を見ているようで、どこか遠くを見ているようで。くるまったマフラーの下で、彼女の唇が想いを紡ぐ。
「もみぢ照り あかるき中に我が心」
「へ?」
「空しくなりてしまし居りけり」
「????」
「って、わかる?」
(全っ然わかんねえ……)
名前ちゃん日本語しゃべって! こう答えようとして、だけど答えられなかった。
答えたく、なかった。
言葉では彼女に、──追いつけない。
どうしたらいい。
俺は、どうしたら。
「おーい、こーたろーくーん」
「っ、なに?!」
「なにって、そろそろ行かなきゃ遅刻です! また赤葦くんに怒られちゃうよ? あ、肉まんあげるね」
「んな、もうそんな時間?! ってかありがと! 肉!」
「ふふっ、肉って」
彼女の笑い声に、心臓が痛いと騒ぐ。
分かってるって。だからそんな騒ぐな。俺だって、痛えんだから。
「じゃあな名前ちゃん、また来っから!」
「いってらっしゃーい」
ぶんと大きく振った手。
優しく綻ぶ、霜降の花。
だけどこの日から暫く、俺は名前ちゃんに会えなくなった。春高の代表決定戦が近いという、物理的な問題もあったけど。
気持ちの問題でもあったんだと、そう思う。