紅葉畑の紅梟


 仕方なしに、踏み入った体育館。
 刹那、びりびりと背筋が痺れる。息ができない。苦しい。熱い。耳が痛い。歓声が、声援が満ちている。


「な、っにこれ」
「すげーだろ」


 足が震える。鳥肌が立つ。気合いを入れないと、へたりこんでしまいそうだ。

 光太郎は、こんな場所で戦うひと、なのか。


「苗字が来る前に、準決勝は終わったんだ。これから決勝」
「けっしょう」
「そ、インタビューは試合後な。ライター組は先に入ってる」


 特等席譲ってやるよ!
 そういって彼は手で招いた。つつと進む床の上。馴染んだ芝生と違う感触。


「梟谷! 梟谷!」
「木兎ー!」
「ボクトー!」


 光太郎の名が叫ばれるたびに。
 心臓が痛いくらいに拍動する。

 まだアップだというのに。緊張して、興奮して、逸る気持ちが抑えられない。


「っ、これ、わたしも、……撮っていいの?」
「もっちろん、そのために連れてきたんだから! 一人で梟谷と井闥山撮んのキビシーからさ」

(……嘘ばっかり)


 最初から、わたしに光太郎を撮らせるために連れて来てくれた。いつまでも身動きできないままのわたしを。

 小さなボタンに添えた指が、震えている。
 こんなに、こんなにも感情渦巻く彼らを捉えられるだろうか。その呼吸を、捉えられるだろうか。


「だいじょーぶだって! 撮ってみ、木兎くんが待ってる」

(……まってる?)


 問おうとしたその瞬間、試合開始の音が鳴る。隣で彼がカメラを構えた。雰囲気が一変する。もう、口は挟めない。


「ヘイヘイへーイ!!」
「赤葦! 俺に上げろ!」


 光太郎の声が響く。
 涙が出そうになる。
 
 会場を惹きこんで、好敵を奮起させて。

 そうしてわたしの胸の真ん中を、──惹っこ抜いていくんだ。

ContentsTop