はんぶんこした世界のなかで
*
PCのロック画面にパスワードを入力しながら、視線は勝手にベッドの上、買いたてほやほやの浴衣へと動いていた。
(返事きてる、かなあ……)
昨夜遅く、悩みに悩んだ末に送ってしまった言葉を、今日一日中考えていた。
浴衣を選びながら。友と笑いながら。
頭のどこか隅っこで、ずっとずっと考えていた。
──恋の色に見えます、だなんて。
言ってはいけなかった。越えてはいけなかった。戻れなくなってしまうから。これまでのあの、心地よい日々に。
恐る恐る開いたブログ。
目に馴染んだ彼の文字。
・俺も、あなたのことが──好きです。
匿名
「………っ、やっぱり、こうなっちゃう」
知ってた。知ってたよ。
どうしようもないくらいに、わたしたちは恋してる。
でもね、どうしようもないでしょ?
彼は画面の【そっち側】で、わたしは【こっち側】。結局同じ側にいるのに、でもどうしても越えられない。
だから、あのままでよかったのに。
あのままずっと、彼とずっと──
『それにね、赤い糸、みたいでしょ?』
蘇るのは友の言葉。
夏祭り控えた浴衣売り場で、浅緋を真っ直ぐ、指さしながら。
普段は決してロマンチックなことを口にしない彼女が珍しく口にした、なんともロマンチックな言葉だ。
『きっとね、この浴衣が最後を繋いでくれるよ』
信じてみようか。
幼いころから同じ時を過ごしてきた友人の、滅多にない言葉を。
あの夜のように。
カラカラ、窓を最大限開け放ってみる。
夜空に向かって、小指を差しだす。
「赤い糸、かあ」
ぽつねんとした呟きが、見えざる糸を伝って滑って行った。