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最上階に辿り着いたE組の皆は、扉の前に立ち止まる。
カードキーを通し、ゆっくりを扉をあけ気配を消して敵に忍び寄る。

敵の足元には治療薬が入っているであろうスーツケースと、手元には起爆リモコンがあった。
スーツケースには爆弾が仕掛けられており、もし起爆スイッチを押されてしまったら終わりだ。

気づかれぬようにじりじりと距離をつめていたが、男が突然口を開いた。

「かゆい」

皆の動きが固まる。

「思い出すとかゆくなる。でも、そのせいかな。いつも傷口が空気に触れるから感覚が鋭敏になってるんだ」

男は突然バッと手を挙げると、大量のスイッチを床にばら撒いた。

「言ったろう。もともとマッハ20の怪物を殺す準備で来てるんだ。リモコンだって奪われないよう予備も作る。うっかり俺が倒れ込んでも押すくらいのな」

それは聞き覚えのある声だった。しかしその声は以前より邪気を孕んでいて、表情も何かに取り憑かれているように見えた。
男がこちらへ振り向くと、その人物はーー。

「た、鷹岡……先生……?」

紗良は信じられないものを見るようにつぶやく。

「悪い子達だ……恩師に会うのに裏口から来る。父ちゃんはそんな子に教えたつもりはないぞ」

「……っ!!」

授業で鷹岡に殴られた時の記憶がフラッシュバックして、紗良はサッと顔を青ざめる。

「仕方ない、夏休みの補習をしてやろう。屋上へ行こうか。愛する生徒に歓迎の用意がしてあるんだ」

鷹岡は狂気と憎悪が刻み込まれた顔面でグシャリと笑った。

「ついてきてくれるよなァ?おまえらのクラスは……俺の慈悲で生かされてるんだから」



***



鷹岡の後に続いて、重い足取りで屋上へと歩みを進める。
犯人が自分たちの見知った人物だったという事実がショックであり恐ろしかった。

青ざめた顔で俯き気味に歩いている紗良にカルマが声をかける。

「紗良、大丈夫?」

カルマに手を握られ、紗良は自分の手が震えていたことに気づいた。
そして、その手の温かさと大きさを感じて少しだけ気持ちが落ち着く。

「うん、大丈夫……。鷹岡先生、どうしてこんな事……」

「あいつはもう先生なんかじゃない。ただの犯罪者だよ」

「そう……だね……」

やがて屋上に到着し、鷹岡とE組は向かい合う形となる。
烏間先生が一歩前に出て、鷹岡をにらみつけた。

「防衛省から盗んだ金で殺し屋を雇い、生徒たちをウィルスで脅すこの凶行……! 血迷ったか!」

「おいおい、俺は至極まともだぜ。これは地球が救える計画なんだ」

鷹岡は笑顔で答える。
鷹岡の計画では、対先生弾をたっぷり入れたバスタブにカエデと殺せんせーを一緒に入れセメントで生き埋めにするつもりだったらしい。
あまりに酷い内容に、E組の皆は言葉を失う。

「これでも人道的な方さ。お前らが俺にした非人道的な仕打ちに比べりゃな。屈辱の目線と騙し討ちで突きつけられたナイフが頭ん中チラつくたびにかゆくなって、夜も眠れなくてよォ!!」

鷹岡は血が出るのも構わず自分の顔を掻きむしった。

「受けた屈辱はそれ以上の屈辱で返す。特に潮田渚! 俺の未来を汚したおまえは絶対にゆるさん!!」

鷹岡は渚を指さしてそう言った。
カルマが渚を庇うように一歩前へ出る。

「へー。つまり渚くんはあんたの恨み晴らすために呼ばれたわけ。その体格差で勝って本気で嬉しい? 俺ならもっと楽しませてやれるけど?」

「イカレやがって。テメーが作ったルールの中で渚に負けただけだろうが。言っとくけどな、あの時テメーが勝ってよーが負けてよーが俺らテメーの事大っ嫌いだからよ!」

寺坂の言葉に、鷹岡が激昂する。

「ジャリ共の意見なんて聞いてねぇ!! 俺の指先でジャリが半分減るってこと忘れんな!!」

鷹岡は起爆スイッチに指をかける。

「チビ。お前一人で登ってこい。この上のヘリポートまで」

治療薬を手に入れるためには、鷹岡に従うしか無い。

「行きたくないけど……行くよ。話を合わせて冷静にさせて、治療薬を壊さないよう渡してもらうよ」

「渚君……」

鷹岡の後に続いてヘリポートに上がっていく渚の後ろ姿を紗良や他の皆も不安そうに見つめた。

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