01


二学期の中間テストが終わり、少し肌寒い風が吹き始めた10月。
烏間から誕生日プレゼントをもらえなかったと嘆くイリーナの為に、E組の皆で協力することになった。
作戦はこうだ。まず、烏間とイリーナの二人を別々の場所に引き離す。その間に買い出し班がプレゼントを買いに行き、最終的に烏間からイリーナへ渡してもらうというものだ。

紗良は買い出し班として、カルマ、渚、カエデ、杉野、奥田、神崎達と共に街へと繰り出した。
しかし、何をプレゼントするべきか頭を悩ませていた。

「……ったってなあ。ビッチ先生、大概のプレゼントもらったことあるだろ?」

「難しいね〜」

「クラスのカンパは総額5千円。この額で大人の女性にふさわしいプレゼントは……」

その時、近くから声をかけられた。

「ねぇ、君たち」

振り返ると、そこにいたのは、以前保育施設の園長先生に怪我をさせてしまったあの時、親切にも救急車を呼んでくれた花屋のお兄さんだった。

「あのあと、大丈夫だったのかい? ほら、おじいさんの足の怪我……」

「あの時はありがとうございました。なんとか許してもらえて……」

渚がお礼を言うと、お兄さんは人の良さそうな笑顔を浮かべた。

「そっか。大事にならずによかったね。それと今、『大人にあげるにふさわしいプレゼント』がほしいとか言ってたね」

「あ、はい」

「それなら、こんなのどう?」

お兄さんは、店の前に並べていたバラの花を一輪取り出すと、そっと紗良に手渡した。

「わあ……!」

鮮やかな深紅のバラを受け取り、紗良の瞳が輝く。

「なるほど、花束ね!」

カエデが閃いたように声を上げた。

「プレゼントなんて選び放題の時代。なのに、未だに花が第一線で通用するのは何故だと思う?」

お兄さんは優しく微笑み、自信を持って語り出す。

「心だけじゃないんだ。色や形、香り、そして儚さが人間の本能にぴったりとハマるからなんだ」

「わわ、説得力ありますね」

奥田が関心したように言う。

「確かに名演説。電卓さえ持ってなけりゃね」

カルマの言葉に、お兄さんは苦笑いを浮かべた。

「一応、商売なんで……。これも花の縁だ。安くしとくよ」

花屋のお兄さんの厚意に甘え、予算内で可能な限り豪華な花束を作成してもらった。


***



無事にイリーナへの花束のプレゼントを購入した一行。
紗良は花屋のお兄さんから貰った一輪のバラを、嬉しそうに何度も眺めていた。

「随分嬉しそうだね? そんなにそのバラが気に入ったの?」

「うん。だって、すごく綺麗だし、いい香りもするし……」

「ふぅん」

バラを貰ってご機嫌な紗良とは対象的に、カルマはどこか面白くなさそうな表情を浮かべる。

「……ねぇ、ちょっとそれ貸して」

「? どうぞ」

紗良からバラを手渡されたカルマは、それを指先でくるくると回しながら観察する。
そして、花びらを一枚つまむと、悪戯っぽい瞳で紗良を見た。

「花占いしていい?」

「や、やめて! 花びらちぎろうとしないで!」

紗良は慌てて手を伸ばすけれど、カルマはそれをひょいと躱す。

「もう! 返して!」

必死に手を伸ばしてバラを取り返そうとする紗良。
カルマはにやりと笑うと、不意に身をかがめて紗良の唇にチュッとキスをした。

「……!?」

突然のことに、紗良の思考は一瞬で停止した。

「はい、返してあげる」

何事もなかったかのように、カルマはバラを紗良に返した。

「花占いなんてさ、しなくても結果は決まってるよね」

赤いバラのように鮮やかに顔を染めた紗良を見て、カルマは満足そうに笑った。


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