02


――赤羽業。

彼は椚ヶ丘中学校ではちょっとした有名人だ。
同じクラスになったことはないが、彼の噂はよく耳にしていた。

成績優秀で運動神経も良好、おまけに容姿端麗。
しかしその反面で問題行動も多く、暴力沙汰を起こして相手を入院させることもしばしば……という危険人物である。
そんな人物を目の前にして、紗良は恐怖で固まっていた。

単に悪い噂を聞いていたから、という理由だけではない。
目の前にいる彼の服には赤い血が飛びついており、数メートル先には他校の不良っぽい人たちが数人気絶して倒れていた。

(とんでもない現場に遭遇しちゃった……!! 怖い、怖いよ……!!)

目の前の光景に青ざめる紗良とは対照的に、カルマは飄々とした様子でこう言った。

「ごめんごめん、さっきちょっとトラブっちゃってさ。びっくりするよね、こんな所見たら」

「い、いえ、は、はい……」

しどろもどろで答える紗良。
そんな紗良の様子をみたカルマは、

「……大丈夫? なんか顔色悪いけど」

と言って身を屈めて、紗良の顔を覗きこんできた。

(ち、近い……!!)

間近で目が合い、恥ずかしさで今度は顔がカアッと熱くなる。

「だ、大丈夫です……!」

とっさに目をそらし俯き気味に答える。

「そう? ならいーんだけど」

そんな紗良の様子をカルマは少し楽しげに眺める。

「確か〜……紗良ちゃん、だよね? 隣のクラスの」

「!! どうして、私の名前……」

いきなり下の名前で呼ばれて少しドキッとする。自分の名前を知られていたことも意外だった。
紗良はどちらかというと大人しく目立たないタイプなので、クラスの違う彼がどうして自分の名前を知っているのか不思議に思った。

「渚君から聞いたんだ。紗良ちゃんと渚君、よく一緒に話してるよね」

(そういえば渚君は赤羽君と同じクラスだったっけ……)

「あ、うん、渚君とは幼馴染で……」

「らしいね。あ、紗良ちゃん、苗字なんていうの?」

どうやら下の名前しか知らなかったらしい。
渚がいつも『紗良ちゃん』と呼んでいるからだろう。

「えっと、一瀬、です……」

「ふーん、一瀬紗良ちゃん、ね」

興味があるのか無いのか分からないような感じでカルマはそう言った。

「あ、そうそう。この道はあんまり通らないほうがいいよ。最近変なのうろついてるみたいだし……。まぁさっき数匹駆除したけど」

そう言って向こうで倒れている不良達を目で指し示す。

「そ、そうなんだ……」

もう二度とこの道は通るまい、と紗良は心の中で誓った。

「それにもう暗いし、女の子一人じゃ危ないよ? よかったら家まで送ろっか。家どっち?」

「えっ……!」

(服に返り血の付いた人と一緒に帰るなんて無理! 怖いです……!)

そう思った紗良は、早くこの場から離れようと決意した。

「あ、あの、お構いなく! 私、戻って大通りの方から帰るから……! で、ではさようならっ!!」

紗良はそう言って頭を下げると、踵を返して来た道を駆け戻った。

「あ、そう? じゃあ気をつけてね〜」

半ば逃げるようにして去っていく紗良を、カルマはひらひらを手を振り見送った。



「……うーん、怖がらせちゃったかな〜。そんなつもりは無かったんだけど」

そう言ってカルマも帰路につく。

「まぁいいや。またね、紗良ちゃん」

そう楽しそうにつぶやいた。

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