04
教室から少し離れた廊下の隅で、カルマは歩みを止めた。
「大丈夫? 紗良」
カルマは今にも泣き出しそうな表情をしている紗良の頭をそっと撫でる。
「どうしよう、渚君がE組になっちゃった……」
頭を撫でるカルマの手の優しさに、我慢していた涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「……何も紗良が泣くことないじゃん」
カルマは優しく慰めてくれるが、紗良は首を横に振って否定する。
「私……渚君に何も声をかけてあげられなかった。何も、出来なかった……」
クラスメイトから罵倒を受ける渚をただ眺めていることしか出来ず、E組に行くと告げて去っていく渚に何も声をかけてあげることも出来ず、そんな自分がただただ情けなかった。
本当はカルマのように迷わず教室に飛び込んでいって、渚をかばってあげたかった。
だけど紗良にはその勇気がなかったのだ。
「友達が辛い思いしてる時に何も出来ないなんて、私、最低だよ。渚君にも、もう関わらないでって言われちゃったの……」
あの時かばってあげることが出来たなら、何か声をかけることが出来たなら、もう関わらないでなんて言われることは無かったのかもしれない。
「私はもう、渚君と関わらないほうが良いのかな……。もう今まで通り仲良くは出来ないのかな……」
ずっと、友達でいられると思ってたのに。
「そんなの、やだよ……」
涙が溢れだして止まらなかった。
カルマは紗良の頭を自分の胸に引き寄せ、あやすようにぽんぽんと撫でる。
「もう終わったことはどうすることも出来ないけど、大事なのは紗良がこれからどうしたいか、じゃない?」
「……私が、どうしたいか?」
紗良は顔を上げてカルマの方を見る。
「紗良は、渚君がE組に行っても今まで通り仲良くしたいって思ってるんでしょ?」
紗良はこくりと頷く。
「じゃあ、それを本人に伝えてきなよ。何も話出来てないんでしょ?」
「うん……そうだね。そうする。私、ちゃんと渚君と話してくる」
カルマの言うとおり、まだ何も渚と話が出来ていない。
渚に会って、ちゃんと自分の気持ちを伝えよう、紗良はそう思った。
「ありがとう、カルマ君」
紗良は涙を手の甲で拭って、笑顔でカルマにお礼を言った。
「……うん、やっぱそっちの方が良いと思うよ」
「え?」
何のことか分からず紗良はきょとんとする。
「泣き顔も可愛いけど、笑顔の紗良の方が好きだなーってこと」
「……へっ!?」
急にそんな事を言われ、恥ずかしさに顔が一気に熱を帯びる。
「あっは、顔真っ赤〜」
そう言ってカルマはケラケラと笑った。
「もうっ! からかわないでよっ……!」
そう言って紗良はカルマをキッと睨みつけた。
カルマは特に意に介した様子もなく、くしゃくしゃと紗良の頭を撫でる。
「調子出てきたみたいだね。ほら、渚君探しに行くよ」
「あ、うん……!」
気がついたら、さっきまでの辛い気持ちはもうすっかりどこかに消えてしまっていた。
歩き出したカルマの後を紗良は追いかける。
慰めるためにあんな事言ってくれたのかなと考えて、嬉しいような、ちょっぴり残念なような気持ちになるのだった。
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