ずっとずっと


ピピピ、ピピピピ――。
目覚ましの音で、目が覚める。
私はうーんと背伸びをして、カレンダーの今日の日付についているハートマークを見て思わずにやけた。
あの時は本当に夢なんじゃないかと思ったけれど、私が貴澄君と付き合うことになったのは現実のようだ。
そして今日は、貴澄君との初デートの日。

の、はずだったんだけど……。

「お姉ちゃんだけずるいー! ユキも一緒に行く!」

私が出かける準備をしていると、ユキが自分も一緒に行きたいと駄々をこね始めた。

「だーめ。ユキはお留守番してて」

「えーやだあ! ユキも行くもん!」

「いくらワガママ言ったって、今日は絶対ダメだからね!」

言い争っていると、私のスマホから着信音が聞こえてきた。
ディスプレイには貴澄君の名前。

「あ、貴澄お兄ちゃんからだ! もしもーし!」

「ちょっとユキ!!」

ユキは勝手に私のスマホの通話ボタンを押して話し始めた。

「貴澄お兄ちゃん、おはよう!」

『おはよう……って、あれ? 結衣ちゃんじゃなくてユキちゃん?』

「うん! ユキだよ!」

「私のスマホ返してっ……!!」

私はスマホを取り返そうと手を伸ばすも、ユキはそれをするりとかわす。

「貴澄お兄ちゃん、今日お姉ちゃんと一緒に遊ぶんでしょ? ユキも一緒に遊びたい!」

「ダメだってばーー!!」

私の叫びは虚しく部屋にこだました。



***



「わーい! 水族館だー!」

「はぁ……」

結局ユキも一緒に連れて行くことになり、私と貴澄君、それから颯斗君も呼んで、4人で水族館へとやってきた。

「ごめんね、貴澄君。ユキがどうしても一緒に行くってきかなくて」

「いいよ。颯斗も来たがってたし。な、ハヤト?」

「うん! ぼく、お魚見るの楽しみ!」

笑顔でそう答える颯斗君。
颯斗君が一緒に来ることになったのは、嬉しい誤算だ。可愛くて見ているだけで癒される。

「すごーい! お魚がいっぱいいるよ!」

目を輝かせて水槽を眺めるユキと颯斗君。大小カラフルな色々な種類の魚が泳いでいて、2人は興味津々な様子だ。

「ユキあっち見に行きたい!」

1人で走り出していってしまいそうなユキを貴澄君が止めてくれる。

「ユキちゃん、はぐれるといけないから、僕と手繋いでおこうか」

貴澄君と手を繋ぐユキを内心羨ましく思いつつ、私は颯斗君と手を繋ぐ。
いいもん。私は颯斗君と仲良くしてるもん……。
そんな風に思っていると、貴澄君が空いている方の手を私に差し出してきた。

「はい、結衣ちゃんも」

「え?」

「ほら、手。繋がないの?」

差し出された貴澄君の手をとると、貴澄君は満足したようにニコッと笑みを浮かべる。
きっと、貴澄君と手を繋ぎたいという私の気持ちはバレバレだったんだろう。

右手に貴澄君、左手に颯斗君、両手に花状態で、幸せな気持ちで水族館を回った。



***



「早めに来たつもりだったけど、もう結構人来てるね」

「やっぱり人気だよね、イルカショー」

水族館に来たからには外すことの出来ないイベントであるイルカショーを見るために、野外ステージに来た。
まだ開演30分前だというのに、もう人がいっぱい居て、なんとか4人で座れそうな席を確保して座った。

「イルカ見てると、ハルを思い出すなぁ」

「ハル……? あ、七瀬君?」

「そうそう、ハルの泳ぎはイルカみたいだって、真琴がよく言ってたんだよね」

「貴澄君の友達って、水泳部の子多いよね」

「そうなんだよね。みんなバスケすればいいのに〜」

そう言って不貞腐れたように頬を膨らます貴澄君。なんだか可愛い。

「そういえば、颯斗君はバスケはしてないの?」

「ぼく、バスケも好きだよ。お兄ちゃんに教えてもらってるんだ」

「へぇー。颯斗君、水泳もバスケもできるなんて、すごいね!」

私がそう言うと、颯斗君は少し照れたようにエヘヘと笑った。兄弟揃って可愛い。

「ユキもバスケやってみたい!!」

身を乗り出してユキがそう言った。

「じゃあ、今度はみんなでバスケしよっか」

そしたらまたデートじゃなくなくなっちゃうなと思いつつ、でもこんな風に次の約束が出来ることが嬉しかった。
そんな他愛もない会話をしているうちに、イルカショーが始まった。

イルカはトレーナーの合図を受けて高くジャンプしたり、輪っかをくぐったりしている。賢い動物だなぁと思っていると、イルカは器用に尾ビレを使って観客席に水を飛ばして来た。

「わぁーっ!!」

楽しそうにはしゃぐユキと颯斗君。
水よけのビニールシートは持っていたものの、全部は防ぎきれず、イルカショーが終る頃には結構濡れてしまっていた。

「結衣ちゃん大丈夫? 思ったより水かかったね」

「一番前の席じゃないからって油断してた……」

「良かったら、これ使って」

そう言って、貴澄君はさっきお土産にと買ったイルカのイラストの入ったタオルを取り出して私に渡してくれた。

「えっ、悪いよ……! それに貴澄君だってタオルいるでしょ?」

「僕は男だし、平気平気。いいから使って?」

そう言って濡れた髪をかき上げる貴澄君は色っぽくて、水もしたたる良い男とはまさにこの事だろうと思った。
私は水を飛ばしてくれたイルカに感謝した。


***


水族館を満喫し、帰る頃には外はすっかり夕暮れ色に染まっていた。
風がひんやりと涼しくて、もう夏も終わりなんだなあと実感する。
すごく楽しい夏だったなと、帰りの電車に揺られながらしみじみと感じていた。

「2人共、寝ちゃったね」

電車のボックス席の向かい側で、頭を預けあってすやすやと眠るユキと颯斗君。
貴澄君はスマホを取り出して2人の寝顔を写真にとると、それを私に見せてくれた。

「見てみて。可愛いよね」

「ふふ、そうだね」

「すごくはしゃいでたから、疲れちゃったんだろうね。ぐっすり寝てる」

「でも良かった。ユキも颯斗君もすごく楽しそうだったから」

「うん。デートじゃなくなっちゃったけど、こういうのも良いよね」

私も貴澄君も、なんだかんだで兄妹には甘くなってしまうみたいだ。

「結衣ちゃんも、楽しかった?」

「もちろん! 貴澄君と一緒ならどこだって楽しいよ……!」

自分で言っておいて、なんだか恥ずかしくなって顔が熱くなる。
貴澄君は嬉しそうに微笑むと、私の手に指を絡めてギュッと握った。

「僕も、すごく楽しかったよ。また来ようね」

今度は2人きりで、と内緒話をするように貴澄君が耳元で囁いた。

「う、うん……!」

ドキドキしながら私は必死に頷き返す。
2人きりだと心臓が持たないかも、なんて。

繋いだ手から伝わる温かさを感じながら、どうかこの幸せがずっとずっと続きますようにと願った。



2017.10.23

end

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