03. 誰に似た?ってあいつだろ

夕食の準備をするのか彼女はキッチンに向かった。もう家の近くまで来ている気配を知らない振りして部屋に籠っていると、ただいま、と元気な声が聞こえて来る。

「おかえり、早かったね。」

子供を迎える彼女の声に混じって低い声が聞こえてくる。一言二言交わしたかと思うとズカズカと足音がこちらに向かって来た。

「何してんだよ、カカシ。」
「あれ、帰って来てたの。久しぶり。」

しらばっくれんな、知ってただろ、と無遠慮に部屋に入ってくる。そこへちょこんと少女が顔を出すのが視界に入った。

「サスケくん、何怒ってんの?奥さんと上手くいってないの?」

部屋の入り口からこそっと顔を出して長女がちょっかいを出している。サスケの前だといい子ちゃんの外面は剥がれるらしい。

「あ?お前が泣き真似してくれたおかげで鉄拳飛んだの、見てなかったのかよ。」
「見てたよ。あと、泣き真似じゃなくて本気だよ?ひどいなー。」
「お前、本当誰に似たんだよ。」
「えー?なんでそんなこと言うのー?イチカに父さんがいないから言ってるの?」

それまで呆れたように言っていたのに、少女がウルウルと目を潤ませて声が震えた瞬間、焦ったのか慌てて少女へ駆け寄る。

「ば、違うだろ、今のは冗談っていうか、」

急いで小さな体を抱きしめてやる姿に、ちゃんと父親してんだねぇ、と意外な一面を発見する。

「悪い。そうじゃなくて。まさか、本当にとっとと下忍になると思ってなかったから、驚いたんだよ。」
「サスケくん、下忍になったら修行つけてくれるって言ったのに。イチカ、それで頑張ったのに。」
「分かってる。頑張ったな。さすが、うちはの子だ。」

教え子の不器用な賞賛に苦笑しつつガバっと抱きついた少女を見る。首にしがみつく小さな腕に、この子はだいぶ素直だね、と若かりし頃の母親を思い浮かべる。

「イチカのこと、嫌い?」
「なっ、嫌いなわけないだろ。」

抱きついていた顔を少し離し、しっかりと男の目を見て言う姿に思わず頬が緩む。どの世代も女の子はおませさんらしい。

「じゃあ好き?」
「っ、あぁ。」
「あぁ、じゃなくて。サクラちゃんにも母さんにもそんな風に言ってるの?愛想尽かされちゃうよ?」
「あいつらは関係ないだろ。」
「イチカはサスケくんのこと好きだよ?」

耳を真っ赤にした教え子に思わずクスクスと笑う。俺の方を顔だけで振り返って真っ赤な顔で睨んでくる。

「笑ってんなよ。後で話がある。」
「はいはい。早く答えてあげなさいよ。」

言われてはぁっと一度深い溜息を吐いて少女に向き直る。

「…好きだよ。」

嬉しそうに笑ってサスケに抱きつき直した少女に母親が不思議そうな顔をして近づいてくる。

「?何やってるの?」

娘を見て、顔を真っ赤にした男を見て、俺の方を見て来た。笑いかけてやると首を傾げている。

「サスケくん、顔真っ赤。モテるから自分から言い慣れてなかったの?」
「お前、さっきまでの涙はどこ行った。」
「好きって言ってくれたから引っ込んだ。」
「っ、うるせー、とっとと離れろ。」

不思議そうに見ていた母親が、ちょっと、もう少し優しく言って、と不機嫌そうに言う。それを嬉しそうに眺める少女に、これは強敵出現だね、と状況の分かっていない母親を見遣る。教え子の「誰に似たんだよ」と言う問いに、どこからどう見ても目の前のそいつじゃない、と心の中で呟いた。