05. いろいろと歴史がありまして

賑やかな食事が終わると気を利かせたのか子供達が部屋へ入っていった。

「で、なんでこういう事になったんだよ。」

不機嫌そうにビールを煽りながらこちらを睨んでくる教え子に、威厳のかけらもあったもんじゃないね、と苦笑する。

「私が言い出したの。」
「は、どういう、」
「サツキは里外での任務も増えてきたし、イチカは下忍とは言えコツコツ任務させて貰ってるし。オリテは大好きなサラダちゃんのところに通いっぱなしだし。」
「サクラがいない時間帯には来ないよう言っといてくれ。」
「…お前が言えた事じゃないけどネ。」

口を挟んでグラスを傾けた俺をさらに強く睨んでくる。

「だいたい知り合いだったのかよ?カカシと。お前は、子供の頃から俺と住んでて抵抗ねーのか知らねーけど、普通やすやすと男部屋にあげるもんじゃないからな。」

嫉妬心丸出しな言葉に既婚者が言えた事じゃないよね、と皮肉に思う。

「えっと、サスケが里抜けした後、その、妊娠が分かったときからずっとお世話になってます。」

気まずかったのかサスケが口を噤む。お前が言えた事じゃない、の意味が分かったらしかった。

「それから、ちょくちょく気に掛けてくださってて、私もご厚意に甘えて助けて貰ってて。」
「…結婚、すんのか。」

グラスを見つめながらポツリと呟いた言葉は聞いたことがないくらい寂しそうだった。

「最近、予定が合わないってあいつらも連れてきてなかったよな。もう、お前自身もあの家に行くのも、渋々だったか?」
「サスケ、」
「嫌なら、言ってくれて構わない。あいつらの修行が必要なら今まで通り見る。最初からそうすべきだったのかもしれねーけど、こうやって会いたくないなら、ここにも、あの家にも、もう近づかない。」

彼女の目からポロポロと涙が流れる。随分涙脆くなった彼女は今は言葉を出せないだろうな、と助け舟を出すことにした。

「ん、名前のこと大事に思ってくれてるみたいで安心したよ。」
「そうかよ。」
「でも残念ながらそういう関係ではないんだよね。」
「?どういう事だ。」
「ま、理解が難しいことは分かってるんだけど、娘みたいな感じなんだよね。」

想定外だったのか目を見開いて固まっている。まぁあの余所余所しい姿しか見たことがないとそうなるだろう。

「大好きな大好きな想い人に置いていかれて頼る当てもなくて、渋々頼ってきたのがお前の里抜け事情を知ってる俺だったって訳よ。ある日突然居なくなったと思ったらいつの間にかうちはですらなくなって、子供まで身籠ってるじゃない。それでも、戻ってくるから忘れるなって言われたから待ちたいって、待ちたいから里には居られないって健気にいう訳よ。そんなの放って置けないでしょ。」

心当たりはあったのか申し訳なさそうに彼女の方を見ている。その彼女は涙を流し続けている癖に、俺の腕を掴んで止めるよう伝えてくる。

「お前が、イチカが泣いたら助けてやりたいと駆け寄るように、俺はこいつを守ってやりたいって思っちゃうんだよね。」

掴んで居た手を離して本格的に泣き出した彼女の前にティッシュの箱を置いてやる。頭を撫でるも涙が止まる気配はない。

「そんな可愛い娘みたいな子が、今度はここ10数年身を捧げてきた子供達が巣立ちそうだって寂しそうにいうのよ。ま、俺も独り身だし、寂しいもの同士一緒に住んで見るのもいいかもね、って話になってな。」
「そう、だったのか。」

なんとか絞り出したような声でそう言うとぼんやりと彼女の方を眺めている。やっと涙が引いてきたらしいその子が力なくサスケに笑いかける。

「ごめん、なんの相談もなしに。」
「いや、俺が口出せた立場じゃないのは、分かってる。」

以前「私のことは何も言わせませんよ」と強気に言った彼女を思い出して思わず苦笑した。そんな俺の膝上をこちらも見ずにテーブルの下で軽く摘まんでくる。

「ただ、急に居なくなるような気がして、悪い。」
「ううん。分かってくれてありがとう。」

俺の存在に構いもせずハグすると、そろそろ帰るらしい彼の背中を追って玄関までついて行っている。

「カカシも、悪かった。」
「ん。大事にしなさいよ。」
「あぁ。」

遠くからチュッとリップ音がして玄関が閉まる音がする。心配してたけど、案外幸せそうで安心してる自分がいた。